VSスライム
決しておいしいとは言えないゴブリンの肉や血、魔石を食らうと少しだけ全身に力を入れてみる。
わかる、少しだけど確実に力がついているのが。
戦いの音で、別のゴブリンがやってこないか少し心配だったが、杞憂に終わった。
どうやら一匹のはぐれらしい。
それでもゆっくりしていたらまた別の個体に遭遇するかもしれない。まだ回復しきっていないので体は痛むが、細い細い通路の隙間にうずくまって、少し休憩を取る。
この細さなら普通の生物は入れない。
極端に細い自分だからこそ入れたのだ。
目を閉じて、体の機能すらも最低限にとどめて、体力の回復に努める。
どのくらいそうしていただろうか。
耐えず全身を襲っていた激痛が少しマシになっているのを感じた。
多少は回復した、かな。
細い通路からでて周囲を警戒しつつ歩き出す。
嗅覚はもう麻痺しているので臭いはあまり気にならない。それでも、ずっとこんなところにいたらおかしくなる。
いや、鎖に繋がれた状態で殴られたり蹴られたりしない分こっちの方がましか。
そうだ。あたしはもう、鎖に繋がれた獣じゃない……。
とにかくここから出ないといけないけど、毎回毎回ゴブリンと戦闘するたびにあんなボロボロになるのはごめんだ。なにか、武器を手に入れないと……。
ふらふらと歩きだしたが、ふと立ち止まる。
そういえば、あのゴブリンが持っていた棍棒。あれ、使えそう。
来た道を引き返し、ゴブリンと戦闘したところまで戻る。だが、そこにはもうなにもなかった。
ゴブリンの死体はおろか、棍棒も、血も、なにもかもが。
まるではじめからそこにはなにもなかったかのように。
これは……!
ふいに悪寒を感じてその場から飛びのく。
――ピチャン
自分が立っていた場所に、水滴が一滴垂れる。
天井を見るとまるで水漏れしているかのように水が垂れている。
ピチャン、ピチャン……と水滴の量が徐々に増えていき、落ちた水滴は広がっていくのではなくくっついて球体のようになっていく。
やっぱりスライム……。
最後に魔石がポチャン、と球体の中に落ちてスライムが動きだす。
這いずるたびになにかを溶かしているのか、白い煙が上がり鼻につくツンとした臭いが広がる。
あれは素手で触ることができないから逃げるしかない。
じりじりと後ずさり、自分が出せる最大限の速度で逃げ出す。だが、その速度は遅く、じわじわと距離が開くものの、なかなか容易に逃げきれるほどではない。
追い付かれることはないと思うけど、はやく振り切らないとあたしの体力がなくなる。
厄介なことに、どれだけほそい通路に入っても相手はスライムなのでどこまでも追ってくる。
しつこい……。
再び大きな水路にでる。分かれ道があまりない、長い直線。
ちらりと背後を見ると、スライムは細い通路を出るのに苦戦していた。
これなら逃げきれる。
少しだけ安心して気を緩めた時、突如足に激痛が走った。
「あっ……!」
あまりに突然痛みを感じて、思わず倒れこむ。
一体、なにが……?
痛む足を覗き込むと、なにか水のようなものがついていた。
これは、スライムの一部……?
剝がそうと思わず手を出すが、液体なので掴むことができない。指がスライムの中に入ってしまいそこにも激痛が走る。
苦痛に顔を歪めて手を引き抜く。
皮膚が溶かされる……!
横に流れる下水を見て、ためらうことなく足を下水の中に突っ込んで振り動かす。
下水とはいえ、水に変わりはない。なんとかスライムの一部を洗い流すことに成功する。
そのまま下水を歩いて渡り、反対側に移動する。
水路を挟んだら追いかけられないのではないかと思ったのだ。
予想通り、スライムは反対側からこちらを見て止まっていたが、やがてあきらめたのかずるずると移動していった。
助かった……。
相変わらず足と指は痛むが、致命傷というわけではない。
あれは、ダメだ。
武器もなにももっていないあたしでは勝てない。
できればもう二度と遭遇しませんようにと願いながら身を隠せそうな細い通路に入っていく。
「ふぅ……。」
ようやく一息つくと、静かに目を閉じた。