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守護者

周囲を覆っていた闇が十字に切り裂かれ、そこから光が差し込む。


温かい光を浴びて、カラン、と剣を落としツァリはその場に座り込んだ。


「すまない……カルネス……」


魔人は滅した。

だが、これが本当に正解だったのかどうかわからない。


最後に幻視したカルネスの姿は確かに笑っていた。

だがそれも、自分の願望が見せたただのまやかしだったのかもしれない。


「大丈夫ですよ」


傍にいたアウルディアから優しい言葉が耳に届く。


「カルネスには、神のご加護があります」


アウルディアが、祈りの姿勢をとり、言葉を紡ぐ。


「まったく、おいしいところだけもっていきやがって」


そこにカインもやってきて、どかっと腰を下ろす。


「アウルディア様も、カインも、迷惑をかけて本当に申しわけ―――」


ありません、という言葉は最後まで発することができなかった。


聖女の指が、自分の口を抑えたから。


「謝罪は必要ありません。ツァリ、そしてカイン。強大な魔人を相手取り、誰も死ぬことなく、また都に被害を与えることなく退けることができた。いまはそれで十分でしょう?お二人とも、都のために死力を尽くして戦ってくれたことに感謝いたします」


聖女が再び祈りの姿勢を取り、2人に頭を下げる。


「い、いやしかし……!」

「いいんだよツァリ!本当にお前は頭が固いな!」

「なっ……私はまじめに……!」


茶化してくるカインに反論しようと声を荒げたその時、


どぉぉぉんっ!!!


空気をも震わすほどの轟音が響いてきた。


「いまのは……!?」

「都の中から聞こえてきたぞ」

「まさか……フリーたちになにかあったのでは!?」


聖女が言い終わる前に、ツァリが立ち上がり……だが、力が入らずにすぐに倒れこんでしまう。


「まってください、ツァリ。その体では!」

「くっ……なんとふがいない体だ……!」


魔人に体を貫かれた上に、体に負荷がかかる聖剣技も発動させたのだ。

体力も、魔力もほぼ残っていない。


「そんな状態でいっても足手まといにしかならねぇだろ。死ににいくつもりか?」

「たとえそうだとしても、彼女らだけに任すことなどできん!」


カインの言葉は正しい。

いまの自分がいったところでなにになるのか。

さきほどの轟音からでも、激しい戦いが繰り広げられているのは安易に想像できる。

だが、止まってなどいられない。


カインはツァリの言葉を聞き、瞳に宿る力を見て、呆れたようにため息をつく。


「やれやれ、本当にお前は頑固で真面目だな」

「止めるなカイン。私は行かねばならぬのだ」

「そうなったお前は、言葉で止まるようなやつじゃないだろ。だからせめて、少しだけでも回復していけ」


ほら、と投げ渡されたものを反射的に受け取る。


「これは、ポーションか?」

「俺の分やるよ。どうせ、お前の分はもうないんだろ?」

「あ、ああ、そうだが……」

「俺はここに残って残党狩りだ。なに、大本がいなくなったんだ。あとは他の守護騎士や冒険者たちで十分だろ」

「すまない、恩にきる」


傷を癒し、体力、魔力を共に少しだけ回復してくれるポーション。

自身も辛いだろうに、譲ってくれたことに感謝しつつぐいっと飲み干す。


「ありがとう、カイン。これで、あと少しだけ戦える」

「無茶だけはすんじゃねーぞ。これ渡したせいで死んだとかになったら俺の目覚めが悪いからな」

「ああ、死ぬつもりも、死なすつもりもない。今度こそ、守ってみせる」

「おぉ、その意気だ」

「では……!」

「まってください!」


走り出そうとするツァリを、アウルディアが止める。


「私も一緒にいきます」

「アウルディア様!?」

「私ももうあまり魔力は残っていませんが、私の神聖魔法は魔人に対して優位です」

「いや~さすがに聖女様はここに残っておくべきっていうか…………」


引き留めようとするカインの言葉が途切れ、何かに気が付き軽く目を見開く。


「魔人が、もう一体いると?」


「確実に、います」


確証はないが、確信していた。

そしてそれは、ツァリも同じ。

しばし見つめ合っていた2人だったが、根負けしたのはツァリの方だった。


「きっとあなた様は、ダメっていっても来るのでしょうね」

「よくわかっていますね」


さきほど自分もカインに言われたことだから。

きっと、思いは同じなのだろう。

ならば、止めることなどできはしない。


「では、共にいきましょう」


アウルディアはにこりと笑って、ツァリの前を行く。


「いきましょう、ツァリ」

「えぇ、参りましょう」



駆けていく2人を、カインは見送る。


「さてと、じゃあ俺も、もう一仕事しますかね……」


痛みと疲労がある体を無理やり立ち上がらせて、弓を構える。

これが終わったら、思う存分寝てやろう。

そう、神に誓って。




ツァリとアウルディアは、急いで孤児院へと向かう。


「フリーは大丈夫でしょうか?」

「大丈夫です。たとえ魔人が相手でも、後れを取ることはない」


力強く断言するツァリに励まされて、アウルディアは逸る気持ちを抑えて走る。



だが、見えるはずの孤児院がなく―――



瓦礫だらけの場所で2人が見たのは、魔人に腹を貫かれるフリーの姿だった。




「フリー!!!」




2人の叫びが重なる。



魔人は、さもいま気が付きましたと言わんばかりに2人を一瞥し、醜悪に笑う。




「ふふ、カルネスも敗北したようですね。ドレアムも消滅してしまいますし、少々あなた方のことを見くびっていたようです。もっとも……」


腕を振るい、フリーを投げ捨てるようにこちらへととばす。


「この獣人さえいなくなれば、あとは私1人でどうとでもできますがね」


地面に転がるフリーはひどい有様だった。

片目は潰され、左腕も肘から下がなくなっている。右腕はあるが、骨が折れているのか変な方向に曲がっている。

貫かれていたお腹から、夥しい量の血が流れている。


誰がどう見ても致命傷。


むしろ、生きていると思う方が難しい。


これは……。


アウルディアの脳裏に『ある言葉』が思い浮かぶ。


「アウルディア様、急いで治療を!」


だがその言葉は、ツァリの強い叫びによってかき消され、弾かれたようにアウルディアが動きフリーのそばで跪いて神聖魔法をとなえる。


どんな傷でも治す、治癒魔法よりも一段上の、聖女にしか使えない奇跡。


「あ、あああぁぁぁぁ!!!!」


の、はずが魔法をかけた途端にフリーの口から悲痛な叫びが漏れる。


「え、ど、どうして……!」


突然の事態に狼狽え、体が固まる。


「おやおや、聖女様ともあろうお人が、子供たちのためにその身を犠牲にしてまで戦ったものにとどめをさすとは……これは愉快だ」


心底おかしそうに笑う魔人の声が遠くに聞こえる。

苦痛に呻くフリーは、全身から白い煙を出して傷がふさがった様子もない。


「あ、あたしたちは……闇に染まりすぎたから……神、聖魔法だと……逆にダメージをうける……」


苦し気に、途切れ途切れになりながらフリーが言う。


「ええ、ええそうでしょうとも。あなた方は冥府の猟犬とも噂されるオルトロス。神聖魔法など天敵でしかない」

「だったら、普通の回復魔法で!」


緑の光がフリーを包み込む。だが、傷が深すぎるせいですぐには回復しない。


「その回復を、私が黙ってみているとでも?」


ダルの足元から伸びる黒い鎖が、ウルを捕えようと迫る。

その間に、ツァリが割り込んで鎖を光の剣で切り落とす。


「フリー……」


ツァリは改めて周囲を見る。

無残に破壊され、原型が残っていない孤児院。

倒れている巨大な、みたこともない魔獣。

どんな死闘があったか、想像することもできない。


だが……。


不自然に残る無傷の一角。

そこに、弱弱しいが小さな気配をいくつも感じる。

どんなに傷だらけになっても。

目を失っても、腕を失っても。

結界だけは解くことがなかった。

子どもたちを守るために。

ツァリの瞳から自然と涙が零れる。



この、小さき勇敢な守護者に最大限の敬意を。



「アウルディア様、フリーを頼みます」

「え、ええ。ですが、ツァリ1人では……」

「大丈夫です」


根拠なんてなかった。

さきほどの戦いの疲労は大きく、万全にはほど遠い。

でも、だからどうしたというのだ。

たとえ、この身が滅んでも。


「刺し違えてでも、お前も滅する」


ツァリが光輝く剣を魔人へと向ける。


魔人ダルは、ボロボロになりながらも自分に剣を向けるツァリを見て、


「やってみたまえ」


にやりと笑った。


フリー「無残に破壊され、原型が残っていない孤児院」

リィン「なにが言いたいの?」

フリー「別に……」

リィン「子供たちの居場所を奪った魔人を、私は絶対に許さない!」

フリー「…………そうだね」

リィン「なにか言いたそうだね?」

フリー「別に……」

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