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祈りの力

奇妙な静寂が周囲を支配していた。


どうして、こんなことになっているのか。

結界の中から見ていたツァリは、現実が受け止めきれずにいた。


すべては、自分の弱さが起こしたこと。

妹、カルネスの姿を模した魔人に騙され、怪我を負わされて、心に迷いができている自分の弱さ。


その結果が、これだ。

ギリギリで結界が間に合ったようだが、聖女アウルディア様と長く門番を共にしたカインは吹き飛ばされて聖壁に激突した。


意識はあるようだが、重体だ。

しかも、アウルディア様はさきほどわき腹をえぐられるほどの大怪我を受けたばかり。

下手したら、致命傷になりかねない。


そんな中、自分はなにをしていた?

迷いを振り払えず、ただ眺めていただけ。

私は一体なんのために守護騎士になったんだ?

都を守るため?

違う。そんな崇高な目的など持っていなかった。

私は、ただ都を守りたかった。


妹が住むこの都を。


だが、妹はもうどこにもいない。


空に浮かび、醜悪な表情で高笑いを浮かべている魔人カルネス。


あれは妹じゃない。

何度もそう思った。

だが、もしも――という希望を捨てることができなかった。


もしもあの魔人に操られているだけで。

カルネスは無事なのではないか。

なんとかして元に戻す方法があるのではないか。

そう思えて仕方がないのだ。



不意に、ツァリを守っている結界が消えた。

結界は聖女アウルディアの魔力により維持されていた。

結界が消えたことを意味するのはつまり、聖女が……。


「アウルディア、様……」


壁に激突し、崩れ落ちる聖女の元へと歩み寄る。


「申し訳、ございません……!」


倒れる聖女の横に、崩れるように座りこみ謝罪の言葉を述べる。

その声は、自分でも驚くほど弱弱しく、強くなったつもりでいたのに、自分はこんなにも弱い存在だったのかと驚く。


「い、いいのです……ツァリ……あなたの大事な妹ですもの。心を乱されて、と、当然、です……」


聖女の言葉に涙があふれる。


「しかし、私は守護騎士としてあるまじき……」


聖女の腕が、言葉を遮る。



「誰も、あなたを責めません……。


悪いのは、あなたとカルネスの絆を弄んだあの魔人です……。


手を……」



差し出された、震える聖女の手を、ツァリが両手で握りしめる。


「これが、私の最後の魔力。ツァリ、あなたに、神のご加護があらんことを」



―――神の祝福をあなたへ



紡がれた祈りの言葉が光となり、2人を包み込む。



「あれは……神聖魔法か……!そうはさせないわよ!聖女も、お姉ちゃんも2人まとめて串刺しにしてあげるわ!!!」


魔人カルネスの腕に集まる凝縮された魔力。


それが、槍の形となり2人に向けて放たれる―――


「俺を忘れてもらっちゃ困るな」


直前に、一本の矢がカルネスの腕に突き刺さる。


「こ、の……死にぞこないがぁぁぁ!!!」


魔力が霧散し、怒りの魔人がカインを見る。

してやったり、そんな顔で意地悪く笑うカインが映る。


満身創痍でボロボロ。

込められていた魔力もちっぽけ。

だが、これまで何度も何度もこの矢には邪魔をされた。


ちっぽけなただの人間に。


「お前はただじゃ殺さない。いたぶって、いたぶって、泣いて懇願するまで痛めつけてあげるわ!」


カインを捕えるために滑空し、腕を伸ばす。


「そうはさせない」


その腕が、清涼な声と共に肘辺りのところで切断された。


「すまない、カイン。遅くなった」

「ったく……ほんとに遅いっての。無遅刻無欠席にやつが肝心なところで遅刻しやがって」

「あとでいくらでも責任は取る。だが、まずはこの魔人を屠ってからだ」


カインはツァリの瞳に宿る意思の力をしっかりと感じて。


「なら、あとは任せた」


長年連れ添った相棒に、すべてを託して、意識を手放した。


「ああ、任せろ。カイン」


そっと、地面にカインを寝かせて。


腕を切り落とされた痛みと、怒りで顔を歪ませる魔人に剣を向ける。

その剣は光に満ちていて、迷いなど一切感じられない。


「お姉ちゃん……私を守ってくれるって約束したよね?」


一瞬で、魔人の姿がまるで本当の人間のような姿へと変わる。

口調も、声色も、人間の少女の物にしか聞こえない。


震える、少女のような瞳をツァリへと向けて。


「ああ、そうだな」


対するツァリは、静かに目を閉じる。


「だったら……!」

「お前を、守ってやれずにすまなかった」


一閃。

光が奔り、もう片方の腕が宙を舞う。


「な、なにをするの……お姉ちゃん……!」

「無駄だ。お前の術は、もう私にはきかん」


あれほどあった葛藤も、魔人に剣をむける罪悪感も嘘のようになくなっている。


「カルネスを侮辱した罪、貴様の命で償ってもらうぞ!」

「くっ、この……!」


一瞬で腕を再生させ、地面に向けて爆裂魔法を放つ。

爆炎と、爆風が周囲に吹き荒れる。


この隙に……!


「そんな姑息な手段で逃げられるとでも思っているのか?」


勢いよく飛翔するが、足に光の鎖が絡まり地上に引き戻される。


「天に住まう我らが神よ。我が剣に光の祝福を与え給え―――」


ツァリの剣が、光に満ち溢れて巨大な剣へと変わる。


魔人カルネスは一目みるなり確信した。

いまの、消耗したこの肉体にあれはまずい、と。


「ま、まって!私を殺したら本当にカルネスも死ぬわよ!妹を元に戻すことができるのは―――!」


プライドもなにもかもかなぐり捨てて、命乞いを始める魔人。


そんな言葉は、もはやツァリの耳には届かない。



すまない、カルネス……。

守ると誓ったのに、約束を守れなくて。


ううん。

お姉ちゃんはちゃんと約束を守ってくれたよ。


私と、私の大好きなこの都を守ってくれて……



ありがとう。



一瞬、ツァリの目に人間の頃のカルネスが映る。


無様に命乞いをする弱い魔人の姿などではなく。


魔人にその身を乗っ取られようとも負けない、強いカルネスの姿が。



そんな笑顔のカルネスに優しく微笑みかけて。


ツァリの持つ光の剣が、さらなる光を得て一際強く輝く。



「闇を切り裂け!聖剣技、ホーリー・グランド・クロス!」


放たれた剣技により、闇に染まっていた世界が白く輝く。


溢れんばかりの光の奔流が十字の剣閃となり、魔人カルネスは一瞬で光に包まれる。


叫びをあげることもできずに消滅する魔人。



残されたのは、静けさと、祝福のように降るかすかな祈りの光だけだった。


魔人カルネス戦 決着。


いつもいつも更新遅くてすみません。


それでも読んでくださる方に、感謝いたします。

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