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跡形もなく……

オーガの体に、牛の頭をもつ怪物が丸太のような棍棒を振り下ろしてくる。

超重量のそれは、当たったら一瞬でミンチにされてしまうだろう。

地面を揺らし、陥没させる威力を誇るが……。


「ふふ、当たらなければどうということはないのだよ」


最低限の動作だけで棍棒をかわすと、お返しと言わんばかりにリィンが火球を飛ばす。

牛の頭部を、紫の炎が爆ぜる。


「油断しないで。当たらなければ大丈夫だけど、当たったら多分死ぬ」


フリーの魔力を吸収し、異質に変貌した大剣-竜の顎を振るい魔物の腕を斬り飛ばす。

さらに、尾の先端をこちらに向けて狙いを定めている巨大なサソリ型の魔物。

その尻尾に紫の鎖が巻き付き、狙いを別の魔物へと変える。

発射された無数の毒針が魔物の全身に突き刺さり溶解する。


「うぇぇぇ気持ち悪~」

「一本でも刺さったらあたしたちもああなる」

「じゃあ、ご退場願いましょう」


宙に出現する魔法陣。

赤と茶の魔法陣が空中で混ざり合い、一つの巨大な魔法陣へと変わる。


「炎、土の合成魔法-メテオ。なんてねっ!」


紫の炎を纏った巨大な岩が空に出現し、サソリ型の魔物を押しつぶして消滅させる。

超重量をほこる隕石が、サソリ一匹消滅させるだけの力なわけはなく……。

爆発の余波で周囲の魔物も数体消し飛ばし、さらには魔物どころか、孤児院をも半壊させておきながらリィンがへらっと笑う。


「あまり範囲の広い魔法を使うべきじゃない。孤児院が壊れる」

「いまさらじゃない?」


フリーが孤児院のことを気にするが、すでに壊れていない部分を探す方が難しい。あえていうなら、フリーたちが守っている子供のいる部屋ぐらいだろうか。


「できるだけ、居場所は奪いたくない」


フリーの言葉にリィンは驚き、そして小さく笑う。


「そうだね。じゃあ、できるだけこれ以上壊さない方向で頑張りますか!」


リィンの魔法は基本足止め。氷で足を止め、その隙にフリーが竜の顎を振るう。

だが、相手は魔人に造られた合成魔獣。

ただ命令を実行するためだけに向かってくる。

どれだけ傷つこうが、まったく痛みなど感じていない様子で。

さらに厄介なことに、闇の魔力なのか魔人の魔力なのか、フリーが切り落とした腕が闇に包まれると即座に再生される。


「きりがない」

「心優しいフリーちゃんの望みはできるだけ叶えてあげたいけど、このままじゃジリ貧だよ!全部まとめてぶっ飛ばしていい!?」

「しょうがない。もうほとんど壊れてるし多少壊れても一緒」

「さっきと言ってること違くない!?」

「居場所があっても死んだら意味がない」

「確かにそうだけどね!」


リィンたちの頭上に、赤黒い岩が多数出現する。


「合成魔法-エル・メテオリート!」


灼熱を纏った巨石が合成魔獣たちに次々と降り注ぐ。

広がる爆炎と熱波。

衝撃で揺れる地面。

魔物たちは叫び声をあげるひますらも与えられず、焼かれ、潰され、消滅する。

残っていた孤児院を跡形もなく吹き飛ばすほどの威力。


「やりすぎ」


そこはまるで地獄。

巨大なクレーターがいくつも出来上がり、魔物の焼ける臭いや残り火が燻る惨状を見てフリーがぽつりとつぶやいた。


「やれっていったりやりすぎっていったり、フリーちゃんはわがままだなぁ」

「リィンは限度を知らないから困る」

「でもおかげでだいぶすっきりしたよ?」


孤児院があった原型などほとんど残っておらず、唯一子供たちが寝ている部屋だけは、リィンが結界を張っていたため無事に残っている。


「すっきりっていうレベルじゃない。もはや、なにもない」


取り囲んでいた合成魔獣たちも原型が残っていないぐらいバラバラになっている。


「まあまあ、これであとは元凶の魔人を倒すだけ…………?」


そう思ったが、バラバラになった魔獣たちがすべて赤黒い魔力に包まれる。


「まさか……あれだけやっても再生するの?」

「ただの再生じゃない」


フリーが言った通り、破片がすべて集まり大きい一つの塊となる。


「合成魔獣をさらに合成するってこと?そんなことできるの!?」

「できるんでしょ。魔人だから」

「魔人ってだけでなんでもありかよ!」


とりあえず再生なんかさせるかと言わんばかりに、リィンが爆裂魔法を叩きこむ。

だが、塊は爆散するどころかリィンの魔力を取り込んでしまう。


「なら、直接切り裂く」


今度は身体強化を発動させたフリーが一瞬で肉薄し、鋭い爪を振るうも霧散し再び集まる。


「まるで手ごたえがない」

「魔法もダメ、物理もダメってもうどうしようもないじゃん……」

「いまは合体途中だから効かないだけ。合体直後を狙う」

「それってなんか、戦隊ヒーローとか魔法少女の変身中を狙うみたいな感じがする」

「よくわかんない」

「まぁでも確かにあんな隙だらけになる方が悪いか」


あれは子供向けの番組だから許されるのだ。

現実であんなのんきに変身していたら攻撃されるに決まっている。


赤黒い魔力の塊が大きくなり、徐々に形を成していく。

そして、周囲に舞っていた魔力すべてを吸収し、合成魔獣が姿を現す―――


「先手必勝」

「吹っ飛べ!エル・エクスプロージョン!!」


その前に、フリーが駆け、リィンが複数の爆裂呪文を放つ。

咲き乱れる爆炎の華。さらに、フリーが全力で竜の顎を振り下ろす。

頭から両断するつもりで振り下ろした渾身の一刀。が、それは背中から生えている腕により受け止められる。

赤黒く、まるで血が流れるように魔力が脈動している。



「腕4本もあんじゃん!それはずるいよ!」

「頭二つのあたしたちもあんまり人のこと言えない」

「そうだけど~ていうかいまさらだけどなんで私たちって頭二つあるの?」

「いま気にすることじゃない」


どれだけ力を込めても剣を動かすことができず、諦めて剣を手放し、一旦距離を取る。

現れたのは、獅子の頭にオーガのような腕が4本もある魔獣。

脚部はサソリのようになっており、尻尾が3本生えている。うち一本は蛇になっており、牙をむき出しにしてこちらを威嚇している。


「これってもうまんまキマイラじゃん!」

「キマイラ?」

「なんかほら、よくあるやつだよ。いまみたいにいろんな魔獣を合成して作り出した合成魔獣、キマイラ」

「はじめて聞いた。この前のケルベロスといい、こいつといい、あの魔人は本当になにかを合成するのが得意」

「むかつくやつだね。これならまだドレアムの方がましだったかな」


完全にこの世界に顕現したキマイラは、さっそく臨戦態勢をとる。

オーガの腕に力がこめられ、筋肉が膨れ上がる。

尻尾の蛇から吐き出される毒息。


そして、獅子の口に炎が集まる。


「まぁ、とりあえず……」

「こいつをぶっ倒すしかないね!」


吐き出された火炎を避け、一気に距離を詰める。

サソリの尾から射出される毒針を爪で弾き、ヘビの口から吐き出される毒弾を炎で爆発させる。


すれ違いざまに、竜の顎がサソリの尾を一本喰らう。


切り落とされた尾は黒い霧となり霧散する。


「再生能力はなくなった感じか」

「なら、攻めて攻めて攻めまくってやる」


双頭の狼と、キマイラの咆哮がぶつかりあう。

読んでくださりありがとうございます!

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