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静かな蹂躙劇

孤児院は、全体が重く息苦しい黒い靄で覆われていた。


全くひるむことなく黒い靄の中に入り、子供たちを寝かしていた場所へと向かう。

入ってすぐに多様な魔物に襲われるが、足を止めることなく切り伏せていく。

一体一体はさほど強くない。

だがそれはあくまでフリーからしたら、というだけで、子供たちが狙われたらどうなるかなんて安易に想像できる。


無事でいて……。


焦るフリー。

床を蹴り、壁を、天井を蹴って最短距離で部屋へとたどりつく。


子供たちを寝かしていた部屋にも魔物たちが群がっていたが、簡易的だがリィンが防御魔法を発動させていたのでなんとか攻め込まれずにすんだようだ。


間に合った……?


ドアの前に群がる魔物どもをすべて切り伏せる。

突然現れた黒い狼に、魔物たちは反応することもなく塵になり消えていく。


邪魔者がいなくなったので、防御魔法を解き、ドアを開けて中の様子を確認する。

フリーが出て行ったときのまま、子供たちは静かに寝息を立てている。


「よかった、無事だった」


安堵の息を吐き、部屋をでてドアをしめる。


一旦すべて切り伏せたはずの魔物たちが再び現れている。

デモンスライムがいた部屋に残る巨大な黒い魔法陣。

あれを壊さない限り、魔物は出現し続けるのだろう。


「リィン、結界を」

『任せて』

一瞬だけリィンに代わり部屋全部を覆いつくすように結界を張る。

「これで子供たちに手だしはできないよ」

隙、と思ったのか数体の魔物がとびかかってくるが太く、大きな爪に切り裂かれる。


出遅れた魔物たちは、運がよかったのだろう。

一瞬で引き裂かれずに済んだのだから。



いやだが、むしろ―――



「かかってこい」

「あなたたちの相手は」


運が悪かったのかもしれない。


「あたしが」

「私が」


「「してあげる」」



―――二頭をもつ黒き狼に、飛びきりの恐怖を味わわされることになるのだから。



「さぁ、次に喰い殺されたいのは誰?」


溢れ出る魔力と、濃密な殺気が混じり合い、大気を揺るがす。

押しつぶされそうな重圧を感じ、取り囲む魔物たちは一歩も動けない。


動いたら、死ぬ。

そんな感覚を、すべての魔物たちが味わっていた。


いま自分たちの前にいるものはなんだ。


あれは、ダメだ。


あれはただの獣人の子供ではなかったのか。


なんだあの―――


化け物は。



恐怖で身を震わせる魔物の一体が、ふいに生じた痛みに顔を歪ませる。


なにが?


そう思うことすらできずに、意識が闇へと沈んでいく。


悲鳴を上げることも。

痛みに呻くことも。

叫び声をあげることもできず、ただ静かに一体、また一体と闇へと消えていく。


それは静かな蹂躙劇。


溢れ出てくる魔物たちは、すぐに異変を察して動きを止める。

そして、再び動きだすことなく、二度と動けぬ体となる。


フリーとリィンの蹂躙劇も長くは続かなかった。

百を超える魔物を打ち倒した時あたりから魔物たちからはっきりと己に対する畏怖を感じた。


「まだやるの?」


残っている魔物たちに問いかける。

問われた魔物たちは、本能の赴くままに駆けだす。

踵を返し、一刻も早くこの場から離れたいと言わんばかりに。


―――どこへいくつもりですか?


ざわり、と全身の毛が逆立つ。


空を見上げると、闇がそこにあった。

びくりと動きを止める魔物たち。


止めたその瞬間に、すべて闇に包まれて消えていった。


「私の命令を忘れましたか?そこの獣人を殺しなさいと言ったはずですよ」


ずるりと闇の中から現れたのは、漆黒の体に、赤い羽根を持つ魔人ダル。


「悪魔……」


ぽつりとつぶやいたリィンの言葉に反応して魔人が嗤う。


「悪魔、ですか。この世界では聞きませんね。やはり、あなたは別の世界のものですか。」

「わかるの?」

「ますます、興味深い……!」


一瞬たりとも油断はしていない。なにがあればすぐに動けるように備えていた。

それでも、気が付いたら左腕を貫かれていた。

「ふふ、避けますか。心臓を狙ったつもりでしたが」


まったく見えなかった。ありがとう、フリー。

あたしも見えてない。勘で避けただけ。


左腕から長く変貌した爪を抜き取り、血を一舐めする。

「すべてが異質ですね。肉体構成も、魂も。ふふ、あなたたちは神にでもなろうとしているのですか?」

不敵に笑うダルが、紅い目で自分たちを見る。

「あなたたちが相手ならば有象無象の魔物たちでは厳しいでしょうね」

さきほど魔物たちを飲み込んだ闇の塊が再び出現する。

その中から、ダルが現れた時と同じように、ずるりと魔物たちが生まれる。

呑み込まれた時の姿とは異なる姿に変貌して。

闇のオーラというべきか、そういうものを纏い、全員が全員、禍々しい姿に変貌している。

強さも、さきほどとはくらべものにならないほど上がっているだろう。

「では、少しでも長生きできるように精々あがいてください。どれだけもつか、見物ですね」

最後ににやりと笑って消えていくダル。

残ったのは数十匹にもなる変貌した魔物たち。

どれもが多数の魔物を無理やり合体させたような、悍ましい姿をしている。

「ほんと魔人は趣味が悪い」

「というか、あのケルベロスもダルが作ったんだろうね。ドレアムってこういうことしなさそうだし」

「あいつの趣味が悪いだけか」

「はやくぶっ殺さないとね」

「うん。でもまずは、こいつらから」

「そうだね。早く解放してあげよう」


強さは確かに桁違いに上がっているだろう。

だが、おそらく魔物たちに自我はもうない。

魔人ダルからの命令を忠実に実行するただの人形。

無理やり呼び出され、殺され、まるで玩具のように扱われる魔物たち。


救いたいわけでも、恨みがあるわけでもない。


ただ解放してあげたい。


歪に捕らわれた魂を。


「おいで」

「私たちが、冥府に送ってあげる」


2人の全身から、紫色の魔力が立ち昇る。

読んでくださりありがとうございます!

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