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勇者の初期装備

ネズミ型の魔獣を食べだしてから数日。

始めは食べるたびに吐きそうになり、飲み込むたびに内臓が焼けるように熱かったが、近ごろだいぶマシになってきた。

魔獣を普通に食べられるようになってきたのが、良いのか悪いのかわからない。

そして毎回小さいながらも魔石を食べていたので、魔力が徐々に蓄積されたのか、私の体は少しずつ治ってきた。

とはいえ、まだまだ元気に動けるわけではない。折れていた骨が少しだけくっついたという程度。動くと激痛が走るのは変わらないが、この激痛も大分収まってきたように思う。

前までは痛みで気を失うことがあったが、最近ではそれがない。その分ずっと痛みを感じてるわけだからどっちがましかと聞かれると微妙。

この下水の構造も大分把握できてきた。

闇に眼が慣れたのか、光がほぼ入らない場所なのにだいぶ視えるようになっている。

暗闇の時にはわからなかった異臭の正体などもわかるようになったがいまさらだ。

たかが人間の死体を見た程度では揺るぎもしない。

この骨、使えるかもしれない……。

頭蓋骨を外し、崩れていく骸骨から背骨を抜き取る。

壁にたたきつけてみる。

バキン、と簡単に折れてしまった。

使えない……。

ぽいと、折れた骨を投げ捨てる。

下水の中で音が反響し、広がっていく。


その音を感知してか、足音がこちらに近寄ってきた。

この足音は……。

間違いなく二足歩行。

だが、人ではない。人が歩く音とは違う。

これまで何度か遭遇した魔物だ。

角から現れたのは人に近い姿をした、RPGでは定番の敵。

ゴブリン。


ゲームでは序盤に現れて、簡単に倒せる雑魚モンスター。

だが現実ではそうもいかない。

なにせ相手は人に近い体形を持っている上、多少の知恵、そして武器としてこん棒をもっているのだ。

襲われたら一溜りもない。

一体、か。

これまでなら逃げ一択だったが、ここまで接近されては逃げるのも難しいだろう。

痛みはマシになっているとはいえ、動きが緩慢なのは変わらない。その上、このゴブリンは小柄だ。まだ大人になりきっていないのだろう。背丈が自分と同じぐらいなので細い通路に逃げることもできない。


倒すしかない……。


足元に落ちていた骨を拾いあげる。

勇者の初期装備が折れた骨か。ひのきの棒とどっちがましだろう?

相手も、私がそんなもので臨戦態勢を取ったのを見て笑った。

そんなものでなにができる?と言いたげな、嘲笑。


油断してくれている。

ありがたい。

その油断が命とりってことを教えてやんよ!


ゆっくりと近寄り、骨を振りあげる。

「ギャ!ギャ!」

ゴブリンは嗤いながら骨の軌道から横にずれる。

その瞬間、私は、渾身の力を籠めてゴブリンを蹴った。

「ギャ!!?」

まさか蹴られると思っていなかったのだろう。

ゴブリンは驚きの声をあげて倒れる。

私も、蹴った衝撃に耐えられずに倒れ込む。

全身が悲鳴を上げる。

いったいなぁもう……!でも、この程度の痛みはもう慣れた。

すぐさま立ち上がり、ほとんどダメージなどなかったであろうゴブリンと再び向かい合う。

怒りのまま向かってくるゴブリン。振り下ろされるこん棒を倒れるように避け、一歩だけ踏み込んで私はゴブリンの首元に噛みついた。

考えたわけじゃない。でも、私の非力さは自分がよくわかっている。殴ったり蹴ったりでダメージを与えられるとは思えない。だから、これが一番ダメージを与えられる方法……!

私たちは倒れ込み、ゴブリンは暴れまわる。

全身に痛みが襲ってくるが、つきたてた歯は離さない。

脈を打っているのがわかる。

おそらく、構造も人体とほぼ同じ。だったら……。

力を振り絞り、全力で歯を突き立てる。

鋭い犬歯がゴブリンの皮膚に穴をあけた。

途端に溢れる血。

ますます暴れるゴブリンに離されないように意地でも喰らいつく。

この程度の痛みで私は倒れない……。

もっと、もっと深く……!

突き立てられた歯がさらに奥へと刺さり、首元を流れる太い血管に到達する。

ひどい血の匂い。

嗅ぎなれた魔獣の血とも違う。

腐った血。

口の中に広がるいいようのない不快な味。


し、ね……!


渾身の力を振り絞って、首元の肉を、血管ごと食いちぎった。


最後に一つ絶叫を残し、ゴブリンは絶命した。


噴き出る血を全身に浴び、動かなくなったゴブリンを眺める。

「はっ……はっ……。」

体が酸素を求めているが、うまく呼吸することができない。

興奮のためか、痛みはさほどない。

荒い息を何度も繰り返し、少し落ち着いてきたら今度は口の中に広がるねっとりとした血の味と不快な臭い。

胃の中からこみ上げてくるものがあるが、無理やり抑え込む。貴重なエネルギー源を吐いてたまるか。

ネズミみたいな魔獣を殺すのとはわけが違う。

人型の、自分よりも力をもっているであろうゴブリンを殺した。

不快感の次にこみあがってきたのは高揚。

「は、はは……あっはははは!!!」

明るく、甲高い笑い声が暗い下水道に響く。

全身は血でドロドロ。体はボロボロ。

全然ゲームのように簡単には倒せない。

ゴブリン一匹でひどい有様だ。こんなんで勇者になんかなれるわけがない。

でもいい。

それでいい。

結果はどうあれ、私は生きている。

生き延びた。

「そうだ……そう簡単に死んでやるものか……!」

鋭い犬歯をむき出しにして、獰猛に笑う。

まだビクビクと痙攣しているように動くゴブリンの、ぽたぽたと血が垂れる首に、もう一度噛みついた。

ぐっと力を籠め、首の肉をちぎる。

初めて魔獣の肉を喰らった時のような不快感や内臓の痛みを感じるが、そんなことはもう気にならない。

今はただ、勝利の晩餐に酔いしれる。


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