生きる
多くの人が行きかい、活気あふれる城下町。
屋台や店が立ち並び、人々が笑顔で挨拶を交わす。
歩きやすいように道は舗装され、ところどころに治安を守る騎士が立つ。
そこに住まう人々は、まさしく陽の光が当たる場所で生きていた。
だが、光差すところには必ず影ができる。
太陽の光が一筋も通らない地下深くの下水道。
人知れず繁殖を続ける魔獣たちの唸り声に混じって、声にならない絶叫が響く。
痛みに慣れるため歩きまわること数時間。
激痛に耐えることができず、また倒れこむ。倒れこんだ衝撃で全身がバラバラになりそうなほどの痛みが襲ってくる。
「う……あ……。」
かすかに苦痛の声が漏れる。それは吐息にも似た苦悶の声。それが、いま出せる精一杯の声だった。
時間をかけてなんとか立ち上がり、引きずるように歩みを進める。
どこにいくのかなんてわからない。
行く当てもなく、ただ暗闇の奥へ奥へと進んでいく。
あれからどれくらい歩いたかわからないが、やがて一匹の魔獣に出会った。
魔獣もあたしも、お互いに見つめ合ったまま動きを止める。
魔獣といっても最低ランクぐらいの雑魚。
小さな体に、赤い両目が妖しく光る。細長い尻尾と白く突き出た前歯がうっすらと見える。
このような下水道を縄張りにしており、人の暮らす足元で生活するだけのもの。だから特別討伐されるようなこともない。
ひっそりと生きている。
まるで、あたしのように。
普通の人からしたら雑魚だが、あたしからしたら違う。なにせ戦う武器がなにもないのだ。
魔獣にとっても、あたしは少し大きな生きている餌程度の認識だろう。
逃げなどせずにむしろ向かってくる。
魔獣があたしの足元にたどり着き、匂いを嗅いだ後に鋭い前歯を足に突きさした。
痛みは多少襲ってきたが、他の痛みが強すぎて気にならない。
ぼんやりと、魔獣も見る。
反応がないことを不思議に思ったのか、もう一度突き刺してくる。
痛いな……。
あたし、このままこの魔獣に食い殺されるのかな。
まぁ、なんでもいいけど……。
奴隷になって、ゴミとして捨てられ、魔獣に食われて死ぬ。
なんでもいい。
もう、なんでもいい…………。
思いとは裏腹に、あたしはもう片方の足を上げて、思い切り噛みついてくる魔獣に降ろした。
「「ギャッ!」」
お互い短い悲鳴を上げて、魔獣はあたしの足元でピクピクと痙攣した後動かなくなる。
あたしの方は振り下ろした足からつたわる衝撃に耐えられずに倒れこんでしまった。
本当に、こんなところで死んでもいいの?
声が聞こえる。
実際に聞こえているわけじゃない。
あたしの中の、もう1人の自分が訴えてくる。
こんなところで、魔獣に無残に食い殺されていいのか?と。
あたしにはなんの力も、生きる希望もない。
でも殺した。
お前は、自分を殺そうとしている魔獣を殺した。
それはなぜだ?
もう完全に動かない魔獣を眺める。
わからない。
なぜあたしはこの魔獣を殺したのだろう。
別に死んでもいいはずなのに。
簡単だ。
死にたくないからだろう?
あたしは、這いつくばりながらなんとか体を動かし、魔獣と向き合う。
自分が殺した魔獣を。
大きく口を開いて魔獣の腹に嚙みついた。
肉を食いちぎる力なんてない。
まるで血を吸うように、崩れた肉体から内臓を無理やり吸い出すように、あたしは魔獣を喰らった。
血の匂い。内臓の臭さに口が、胃が、脳が拒否反応を起こす。
それを無理やり抑え込み、飲み込む
内臓が焼けるように痛い。
痛いのは慣れている。
この程度の痛みで死ぬことはない。
魔獣の心臓辺りから、小さな魔石がコロンと出てくる。
かみ砕くほどの力はないのでそのまま飲み込む。
魔獣に何度も何度も噛みつき、ちぎり、小さな塊にして肉を喰らう。
笑えない声で、あたしはあたしを嗤う。
あたしはここで生きてやる。
例え、どんなことをしてでも。