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聖都の夜

聖都の夜は早い。

世が更ける前に、店はすべて閉まり、聖都自体が寝静まる。

道を照らすように、等間隔に置かれている仄かに光る白い光。

聖壁の上にも、等間隔で白い光が置かれている。

都の中心、教会だけが白く輝いている。


それは、夜の闇を邪魔しない不思議な白い光。

聖女が祈ることで生まれる優しくて、暖かな安らぎの光。


陽が昇っている時は常に誰かがいる教会も例外ではない。

魔を拒むように輝く教会の中は静まり返っている。

熱心な教徒も、夜までは祈りに来ない。

そんな、誰も人がいないはずの教会に、二つの影が伸びる。


「そいつは本当に魔人と名乗ったのですか?」


静かな教会に響く声。

深く、しわがれた男のもの。

「はい。魔人ドレアムと」

対して、もう一つの声は澄んだ女性のもの。

「魔人、ですか。……聖女の力で滅することはできますか?」

否定するように、影が動く。

「わかりません。魔人の力は強大で、簡単に滅することはできないかと思われます」

「そうですか……」

少しだけ、沈黙が下りる。

「しばらくギルドに行くのはやめた方がいいですね」

「それは……!?」

静かに話していた女の声が少しだけ荒げられる。

「冒険者の仕事は聖女じゃなくてもできます。しかし、聖女の仕事は聖女にしかできません。わかりますよね?」

同意を求める静かな口調だが、有無を言わさぬ強い意思を感じる。

「…………はい」

「いい子ですね。ギルドには警戒するように触れをだしておきます」

男はそれだけ言い残して去っていく。

女の方は悔しそうに拳を震わせる。


「約束、したのになぁ……」


震える声が、暗い教会に吸い込まれて消えていく。



「は~疲れた!」

ぼふっとベッドの上に倒れこむリィン。

『リィンでも疲れることあるんだ』

「ちょいちょい、失礼だな君は。私だって疲れますぅ~!」

『じゃあ代わる?』

「いや、もうちょっと起きてるからいいよ。私が寝る時に代わって」

とはいったが、自分が思っている以上に疲れていたのか、2人で今日のことを話しているうちにリィンが寝入り、フリーが表に出てくる。

いつもテンション高いリィンがこんなにも素直に寝るなんて珍しい。

特にすることもないし、剣でも振っておこう。

部屋を出て、階段を下りていく。

フリーたちがいま泊まっているのは、冒険者ギルド。

宿は一般の客でいっぱいになるから、ここのギルドは冒険者が泊まれるように部屋がいくつか用意されていた。

3階4階が宿泊部屋となっており、1階が受付、2階がギルドマスターや職員の部屋。そして地下1階には訓練施設のような広い空間がある。

普段は冒険者たちが訓練に使っており、新人や昇給時の試験に使われたりもする。

時間も時間なのでほかに利用者はいないと思っていたが、1人だけ先客がいた。

その人物は、広場の中央で静かに光の球を浮かせている。

邪魔しないように静かに近づき、しばし観察する。


あたしは魔法が使えないから、なにをしているのかいまいちわからないけどリィンも訓練っていいながらよくしているな、あれ。


静かに、祈るように両手を組み目を閉じている。

よほど集中しているのか、数メートルの距離まで近づいても目を開けることがない。

「こんな時間に特訓?」

なので、フリーの方から声をかける。

「うわぁ!!」

途端に光が弾け、周囲の闇が深くなる。

ところどころに設置された魔石が、黄色の光を放っている。

「びっくりした~どうしたのリィン、こんな時間に」

「それはこっちのセリフ。昼間あんなにトレント倒したのに、休まなくていいの?」

「いや、それはこっちのセリフでもあるんだけど……。」

訓練場にいたのは昼間、トレント討伐を共にしたアル。

昼間は白いローブを纏っていたが、今はシャツに短パンというずいぶんとラフな格好をしていた。

「あたしは平気」

昼間動いていたのはリィンだし。でも、アルは違う。

フリーがじっとアルの目を見る。

アルもアルで、フリーの目を見て離さない。


しばし、無言の時が流れ―――


「ねぇ、リィンって……」

なにかを言おうとして、やめて、視線をさ迷わせる。

「まぁいっか」

迷った結果、いうのをやめたようだ。

にこっと笑ってフリーの目を見る。

「リィンも特訓しにきたの?」

「そんなところ。アルもでしょ?」

「そうだね。なんかこれから忙しくなりそうだし。」

「魔人のこと?」

「そう。あの魔人がなにを企んでいるのか知らないけど、きっとなにか、とんでもないことを企んでいると思うの」

「トレントに力を与えたって言ってたし、ほかにも力を与えた者がいるかもしれない」

「やっぱりそう思うよね」

「アルは、明日も討伐いくの?」

「ん~どうだろ。明日は、多分いけないかな」

「そう」

「なになに~?はじめはあんなに拒絶してたのに、アルちゃんの魅力にやられちゃったか?」

うりうりと肩で体を押してくる。

こういうところ、ほんとリィンそっくり。

リィンと違い、物理的にも距離が近い。

「あたしも明日は依頼受けないかな。気になることがあるし」

「気になることって?」

「この都に大きい孤児院があるでしょ?そこにあたしたちが連れてきた獣人の子供たちがいる。その子たちの様子を見に行く」

「なるほどね~そういえば孤児院に獣人の子供が4人来たって聞いたな……」

「聞いたの?誰から?」

「あ、え、っと……教会の人から。ほら、孤児院の院長さんって教会の人でしょ?その人つながりで」

「ふ~ん……」

教会の人だって言ってたかな?忘れているだけか。

「あの孤児院って、どうなの?」

「なにその漠然とした質問は。」

「あたしがこれまで見てきた孤児院は、あまりいいものじゃなかった。」

「そういうことか。ほかの町は知らないけど、この都の孤児院は、うん、良いと思うよ?主に教会が力を入れているから、建物は綺麗だしごはんもしっかり食べられる。大きくなってきたら都の仕事を手伝いにいったり、冒険者になったりもする。」

「冒険者に?」

「そう。もちろん、望んだ子でちゃんと戦う力を持った子だけだよ?それでも、たまに亡くなる話を聞くけどね。」

アルが悲しそうに、目を伏せる。

ミミたちは、どうだろ?ベアとベンガルは冒険者になりそうだけど、ミミとキャットはならないかな……。

話をきいている感じ、悪い孤児院って感じはないか。

「心配事は解消された?」

アルが少しだけ身を屈め、フリーの顔を覗き込む。

「まぁ、少しだけ」

あたしが気にしすぎているだけだったらそれでいい。

「じゃあさ、ちょっとだけ勝負しない?」

いたずらっ子のような笑みを浮かべてアルが提案する。

「勝負?」

「そう。せっかくここであったし」

目を輝かせて距離をズイっと詰めてくるアルに、一歩引きながら答える。

「わかった」

断る理由は特になかった。

アルの魔法には興味があるし、昼間は見ているだけでつまらなかった。

そんなことをいうと、リィンに戦闘狂と言われるのだろうけど。

「そうこなくっちゃ!」

小走りで距離を取り、適当なところでこちらに振り返る。

「私、治癒魔法も使えるから怪我しても大丈夫だよ!」

「わかった。でも、気絶したら治せないからなるべく手加減はする」

「言ってくれるじゃん!」

アルの周囲に光の球が浮かびあがり、フリーは双剣を抜く。

「あれ?魔法じゃないんだ?」

「いまはこっち」

フリーの言葉の意味を少しだけ考えて。

アルが笑う。

「なるほどねぇ~。接近戦は不利だと思うけど」

「光の球なんて切り裂いてやるから」


向き合い、お互いに笑って―――


アルの光の球が撃ちだされるのと、フリーが駆け出したのは同時だった。

読んでくださりありがとうございます!

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