幸あれ
「もう!頭ぐちゃぐちゃじゃない!」
アルが頬を膨らませて、手で髪を整える。
「ごめんごめん」
その横で、リィンが手を合わせて謝っているが、その顔はにやけたままだ。
「絶対悪いって思ってないでしょ」
そう文句を言うアルの表情も笑っている。
「いやだってそもそも、私が撫でまわす前からぐちゃぐちゃだったよ?」
あれだけの戦闘の後だ。
整っている方がおかしい。
「そういう問題じゃないの!」
「怒った顔もかわいいねぇ、アルちゃんは」
「私の方が年上なのに子供扱いして!」
怒ったのか、ふりなのか、フードを被ってしまう。
「アルちゃんって呼んでって言ったのはそっちじゃない」
「それはそれ!これはこれ!」
異世界にもそういう便利な言葉があるのか……。
それにしても、とアルが続ける。
「びっくりしたよ。リィンってそういうところも全然獣人っぽくないよね。」
「そういうところって?」
「え、っと。ほら、獣人ってやっぱり人間のことそこまで快く思ってないでしょ?聖都では争いが禁じられているから諍いは起きないけど、やっぱりどこか警戒しているというか……」
少しだけ言いづらそうにアルが答える。
「ほほ~ん、なるほどね。」
確かに、これだけ差別されているのに獣人の方から人間に触れるのは珍しいか。
「だから、そこまで親しいわけじゃない私にスキンシップ取ってくるって変わっているなって」
「アルは嫌だった?」
「ううん、嫌なわけない!」
問いかけると、慌てた様子で否定する。
「ちょっと、恥ずかしかったけど……」
照れているのだろう、深めにフードを被って顔を隠してしまう。
嫌ではないと。ならまた今度やってやろう。
『やめて変態』
フリーはやっぱり嫌だった?体はフリーだもんね。
『自分からしようとは思わないけど、別にリィンがやっても嫌ではない。そもそも、リィンの魂が同居している時点でいまさら感はある』
ふむ、フリーの許可もとれたか。
『やっぱり嫌。あたしまで変態のように扱われる』
フリーもアルのこと気に入っているでしょ?二回も助けたし。
『気に入っているわけじゃない。それに、あたしも戦いたかった。』
戦闘狂かよ。
森をでて、街道を歩きながらアルと他愛もない話で盛り上がる。
異常事態が起きているのは、この都にきて短いリィンも理解している。
だが、自分と歳の近いアルと話すのは楽しかった。
共闘もしたし。
「アルが使っていた魔法って普通の光魔法じゃないよね?ダークトレント浄化したやつ」
「そうだよ。あれは、神に祈りを捧げて、神の力を借りることで発動する神聖魔法」
「光魔法とは別物?」
「別物……なのかな?ごめん、実はあんまり詳しく知らないの」
ただ、とアルが両手を組んで祈るような仕草を取る。
「こうして祈ると、神の力というかそういうのを感じることができるの」
「ふむ」
ファンタジーの世界だからか?神に祈ることで本当に神様から力を授かると?
試しに、リィンも祈りのポーズをとってみるが、特になにも起こらない。
「よくわかんない……」
「熱心な教徒でも数百人に1人、授かるかどうかの力だからね。そう簡単には使えるようにならないと思うよ?」
アルが少しだけ困ったように笑いながら言う。
『もう一つ、理由がある』
フリー知ってるの?
『神聖魔法は知らないけど、神に祈らないと使えないというなら獣人は使えない』
どうして?
『神は、人間しか助けないから。獣人が神に祈ることはない』
あ~そういえばそんなこと言っていたね……。
祈るだけで助かるなら、獣人はこの世界でこんなにも迫害されてないとかなんとか。
「なるほどね。つまり、私はどうやっても神聖魔法は使えないということか」
納得し、思わず声にだしてしまった。
アルとの会話の流れでこれはおかしいはずだが、アルは理解したように少しだけ顔を伏せる。
「ごめんね、リィン」
「なんでアルが謝るの?」
「なんとなく……かな」
「変なの。私は別に気にしてないよ。残念だなとは思うけど、アルには光魔法を教わったしね」
リィンの笑顔に陰りはない。
その笑顔につられて、アルも思わず笑ってしまった。
やがて街道の先に都の聖壁が見えている。
「あ~ぁ、戻ってきちゃった。」
「戻ってこられない方がよかったの?」
「そういう意味じゃないよ。ただ、戻ったら戻ったでいろいろと仕事が増えるなーって」
「ギルドに報告するだけでしょ?そんなにめんどくさいなら私1人でやっとくよ?もとはといえば私が受けた依頼だし。」
「え?あ、大丈夫大丈夫!報告は私もいくよ!」
「じゃあなんで仕事が増えるの?」
「ほら、あれじゃん、こんなことがあったらまた討伐依頼とか増えるんだろうなーって!」
「あぁ~なるほど……?」
冒険者の依頼が増えるのはいいことじゃないのかな?いや、聖都が危機に晒されるわけだからいいことではないか。
「まぁいいじゃん。討伐依頼が増えたらまた一緒にいこうよ」
なんともなしにいうと、アルの足が不自然に止まる。
「どうしたの?」
振り返ってアルの方を見ると、ひどく驚いた表情をしていた。
「また、一緒にいってくれるの?」
「なんで?私は別に構わないけど……アルが、1人の方がいいっていうなら別に無理強いは……」
「いく!!!」
しないよ?という前に、被せ気味にアルが叫んだ。
「お、おお……なら一緒に行こうよ。あの魔人も、戦う舞台を用意してやるっていっていたし、きっとダークトレントみたいなやつ増えると思うよ」
「そ、そうだよね!どんなやつらが相手でも私とリィンの最強タッグでぼっこぼこだけどね!!」
「ふふ、なにそれ。でも、そうだね。二人で絶対、あの魔人をぼっこぼこにしようね。」
笑ってリィンが答えて、歩きだす。
―――神よ。このものに幸あらんことを。
「アル?なにかいった?」
「なんにもないよ!はやくいこう!リィン!きっと報告に時間がかかるだろうから、グズグズしてたら夜になっちゃうよ!」
二人は笑顔で駆けだす。
今日知り合ったばかりだというのに、その様子は長年の友のようだった。
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