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ダークトレント討伐。そして現れたモノ……

重苦しい魔力の籠る森に、アルの静謐さすら感じられる祈りが静かに響く。

「祈りって魔法の詠唱みたいなもの?」

『魔法が使えない獣人にそんなこと聞く?』

「なに?ちょっと拗ねてるの?」

『別に。便利だなとは思うけど、わざわざあたしが使えるようになる必要はない』

「必要があれば私が使えるもんね」

『そういうこと。詠唱は結局、魔法のイメージを高めるために必要だったりするだけだから、特別必要ってことはない。でも、いまアルがやっているような祈りは、神の力を分けてもらうために必要な儀式だから詠唱とは違うとかなんとか……』

「ふ~ん……いろいろあるんだね、魔法のルールも」

アルは命を賭して時間稼ぎをしてくれているリィンのために!と決死の想いで祈りを捧げているが、そんなアルの心境とは裏腹に、リィンはわりと余裕だった。

「う~ん、こっちの攻撃の効きは確かに悪いけど、向こうの攻撃も別に通らないんだよね。」

むしろ、完全ノーダメージなこちらより、わずかではあるが傷ついている向こうの方が分が悪いだろう。

不意をついてくる根っこ攻撃は地面をコンクリートにすることで対処した。

爆発の実は火球で防げる。

刃のような黒い葉も、炎の盾で防ぐ。

向こうの手数はそれだけのようで、ごり押そうと思えば押せるだろう。

だが、せっかくアルがなにやら頑張ってくれているので任せたいと思った。

『それに、アルはなにか隠している』

だねぇ。

無理やり暴きたいとは思わないけど、気にならないといったら嘘になる。

まぁ、大体想像はついてるけどね。

『隠しているのはこちらも同じ』

確かに。だから別に、アルからなにも言ってくれなくても言及したりしないよ。ただ、せっかくできた冒険者仲間だからもっと仲良くなりたいなとは思うけど。


「リィン!」


祈っていたアルから声が届いた。

「まぁ、この戦いが一段落したらデートに誘ってみますか。」

『きっと振られる。』

なんてこというんだ君は。恋愛百戦錬磨の私に向かって。

火球が爆発したタイミングで後ろに下がり、アルの横に立つ。

「間に合わせてくれて助かったよ」

「よくいうわ。結構余裕そうに見えたけど?」

「ま、あれぐらいならね」

「自信なくすわ~ほんと」

言葉こそネガティブだが、アルの瞳に陰りはない。全身から真白の魔力があふれ出ている。


爆風を吹き飛ばし、トレントの太い枝がまるで槍のように幾本もアル目がけて飛んでくる。

本能で察したのだろう。


あれは、止めないと危険だと。


「させない」


鋭く、短い言葉と共にフリーが双剣を抜き、四方八方から襲ってくる太い枝を悉く切り落とす。

「え、リィン……魔力が…………」

「いまのうちに」

紅い瞳が、アルを映す。


まぁ、いいか。リィンが何者でも。たとえなにかを隠していても。

それは、私も同じだし。


自然と、アルは笑っていた。

「言われなくても!―――邪悪なるものに天罰を与えよ!ホーリー・レイ!」


アルから迸る真白の魔力が、白い光の柱となり空へと上がっていく。

上空まで上がった光が空中で弾け、数多の光の矢となり降り注ぐ。

ちいさな矢の一本一本に込められた神聖なる魔力。

その力は、すべての闇を滅する。

闇に侵されたダークトレントは光の矢が刺さった箇所から浄化され、黒い霧のようなものが舞い上がる。

リィンが黒く染め上げた大地も、次々と浄化されて緑が芽吹く。

「へ~光魔法ってこんなこともできちゃうの?さすがにこれはできそうにないな……」

「これまで真似されちゃったら私、もう聖都を出ていくわよ……」

祈りの体制のまま、呆れた口調でアルが言う。


すべての光が注ぎ終わり、森の真ん中にぽっかりと空いた穴。

そこには、わずかに芽吹く緑と大きな樹だけが残っていた。


「いやすごいね、アル」

魔法でここまでできるのかと、感心した様子でアルに称賛の声をかける。

「ふふ、ありがとう、リィン。リィンが時間を稼いでくれたおかげだよ。あと、いいところ見せたくてちょっと張り切っちゃった」

へへ、と笑うアルがかわいらしくて、ついつい頭を撫でたくなる。この世界では完全に私の方が年下だというに。

『変態……』

失礼だな。私はただかわいい女の子が好きなだけだよ。

『意味は同じ』


―――やってくれたな、小娘ども。


強敵を倒し、緩んだ空気やアルの魔法により浄化されていた神聖な気配が霧散し、重く息苦しい空気へと変質する。

せっかく芽吹いた緑は枯れ、木々が萎れる。


リィンは一瞬で戦闘モードへと切り替わり、声のした方へ向かって火球を放つ。

だが、当たれば爆発する火球は、爆発することなく闇へ飲まれて消えていく。

「あなたね、ここにダークトレントを生み出した張本人は」

警戒を弱めることなく、いくつも火球を生み出したまま突然の来訪者へ声をかける。

「なかなかいいじゃないか。誰かを確認することもなく、一瞬の判断で攻勢に打って出る。見事な判断力だ」

そこには、まるで闇が人の形を成しているかのようなものがいた。

全身が真っ黒で、鈍く光る鋭い爪と、ねじれた2本の紅い角。

纏う気配は禍々しく、溢れでる魔力が木々から生命力を奪っているかのよう。

「まさか、魔人……?」

アルの声が、さきほどダークトレントと対峙したときとは比べ物にならないほど震えている。

「魔人、ねぇ。」

『こいつは強い』

だね。こいつにはさっきほど余裕ぶってる場合じゃないな。

「いかにも。俺は魔人ドレアム。元はただのトレントとはいえ、俺の力を宿したものを葬り去るとは。なかなかの力量だ。」

すぅっと、自然な動作で向けられた掌から、黒い魔力が集まり飛んでくる。

咄嗟に、火球を迎撃のために放つが、さきほどのように飲み込まれて消えてしまう。勢いを殺すこともなく、黒い魔力はリィンの腹部に直撃し吹き飛ばされる。

「リィン!」

アルの意識が、吹き飛んだリィンに向けられた直後、ドレアムがアルに肉薄していた。


「お前が一番厄介そうだ」


自分のすぐ目の前に現れた魔人。

「……!?」

囁かれた言葉に、息を飲むアル。

一瞬で、死を覚悟させられるほどの圧。

「させない」

吹き飛んだリィンは、空中で回転し、背後にあった樹を蹴り弾丸のように突っ込む。

「ほう、お前、面白い肉体をしているな」

放たれた魔力を双剣で切り裂き、ドレアムに剣を突き立てる。

剣は腕に深く突き刺さったが、まるで痛痒を感じていないかのように、ドレアムの瞳がフリーを映す。

「お前はどちらかというと俺たちに近い。お前、魔人ではないのか?」

「あたしはただの獣人」

双剣が抜けない、と判断してすぐに剣を手放す。武器を失ったが、一瞬でフリーの両腕が狼の腕のように変わり、鋭い爪を一閃させてドレアムの腕を切り落とす。

「部分的に獣化したか。味な真似を。俺の腕を切り落とすとは、いい切れ味じゃないか」

腕を拾い、刺さっている剣を抜き地面に放り投げ、断面をくっつける。

「リィン!魔人に物理攻撃は効かないの!体内の魔石を破壊しない限り再生される!」

「めんどくさいやつ」

『私の魔法で消し飛ばす?』

そんな余裕は与えてくれないと思う。

「再生できないほど、細切れにしてやる。」

十ある爪を鋭く光らせ、フリーの紅い瞳が獰猛に光る。

「お前とやりあうのは楽しそうだが、今はまだお前たちと戦う気はない。ただ、トレントを倒したものたちを確認しておきたかっただけだ」

ドレアムが空へと飛び上がり、二人を見下ろす。


「異常な力を秘めた獣人の女と神聖魔法を使う女。それが確認できただけでも十分な収穫だ。戦いの場は、別に設けてやる」


それだけいうと、ドレアムは闇に包まれて消えてしまう。

気配が完全になくなるのを確認して、ようやくフリーは戦闘態勢を解く。

重い空気が霧散し、森の爽やかな空気が戻ってくる。

「あれが魔人」

『やっぱりああいうのっているんだね』

やっぱりって?

『いや、この世界ってファンタジーだからきっと悪魔とか魔人とかそういう悪いやつもいるんだろうなって』

別に詳しいわけじゃないけど、魔人だから悪いやつっていうわけではない。

『そうなの?』

悪いやつが多いってだけ。人間も一緒。

『フリーからしたらそうなるか……。』

リィンから少しだけ悲しそうな感情が伝わってくる。

あまり事態を理解していないフリーたちは普段通り呑気なものだ。

「魔人がこんなところに現れるなんて……」

そんな二人に対して、事態を理解できているアルの口調は固い。

「珍しい?」

「そうね。普通は……いや、魔人の普通なんて知らないけれど聖都の近くに現れたなんて話は聞いたことがない。しかも、トレントに力を与えたって言っていたわよね?」

「言ってた。俺の力を与えたトレントって」

「なにを企んでいるのかしら……。なんだか、ひどく嫌な予感がする。とにかく、戻ってギルドに報告しにいきましょう」

「ん」

歩き出すフリーの後を、不思議そうについてくる。

「なんだか口数減ったね。口調も違う気がするし」

「そんなことないよ?ちょっと疲れたし、びっくりしただけ」

と、フリーのまま答える。


『あははははは!!!』


途端、自分の中に響くリィンの笑い声。

リィン、うるさい。

だけど、きっと笑うだろうなと思っていたから、突然の笑い声に驚くようなことはない。

『だってあのフリーが!笑顔で!ちょっと明るく振舞ってる!!!』


「あははははは!!!」


「うわ!びっくりした!急に笑いださないでよ!」

「あははは!ってあ、あれ……?」

そこでようやく自分が表に出てきていることを知った。

ちょっとフリー!突然ひっこまないでよ!

『笑った罰』

だって可笑しかったんだもん!

「あははっ」

思い出してまた小さく笑う。

「なにどうしたの?魔人の魔力に当てられておかしくなっちゃったの……?」

アルが一歩引いて、回復させようと手に魔力を集める。

「大丈夫だよ。ちょっとおかしかっただけ。」

「いまおかしいのは完全にリィンの頭だよ……?」

困惑気味だったアルの表情が一転、笑顔に変わる。

「あんなことがあったっていうのに、リィンは変わらないね」

「状況がアルほどわかってないからだよ」

「それでも、ダークトレント倒して、魔人の攻撃もろに喰らってそこまで平常で居られるリィンがすごいなって。」

「楽観的なだけだよ。あいつ、ドレアムとか言ったよね?次あったら私の魔法で消し飛ばしてやるから!」

「ふふ、リィンなら本当にできちゃいそうだよね。あ、でもさ、トレントの根から私を守るときの双剣捌きや、魔人の腕を切り落とした時も獣化した腕でやってたじゃん。あれなんでなの?気分?」

「単純に詠唱が間に合わなかっただけだよ。」

「身体強化魔法発動させていたよね?トレント狩っているときは一回も双剣抜かなかったのになんでなのかなって思って。そもそも、リィンほとんど詠唱してないじゃん」

鋭いな~アルは。

「特に深い理由はないよ」

あれをやったのは私じゃなくてフリーだからね、なんて言えないし。

「ふ~ん。まぁいいけど。」

これは、ちょっと怪しまれてるか。でもまさか魂二つあるなんて思われないでしょうし、大丈夫か。

「あ、いうの忘れてた」

数歩先にでて、両手を後ろで組みこちらに振り返る。


「ありがとね、リィン。助けてくれて!」


そして、笑顔でお礼を言った。

その笑顔が、本当に可憐で。


思わずリィンはアルを抱きしめていた。


「え?」

『ついにやった。もう言い逃れできない。』

アルの困惑も、フリーの言葉も聞こえないふりをして。


「かわいいねぇ、アルちゃんは。アルちゃんこそダークトレントを浄化した魔法すごかったよ!」


よしよしよしよしと頭を撫でまわす。

嫌がるかな?と思っていたが、アルは驚きの方が勝っているのか固まってリィンにされるがままだ。

これ幸いと思いっきりかわいがるリィンからは見えていなかったが、されるがままになっているアルの表情は喜んでいるような、悲しんでいるような。


そんな、複雑な感情が浮かんでいた。

読んでくださりありがとうございます。


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