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『聖都』クラウディア

―――カァ


遠くで烏の鳴き声が聞こえたような気がして、ふと振り返る。

「どうしましたか?」

兎人族のミミが少し不安そうに、急に振り返ったフリーを見る。

「ううん、なんでもない。」

気のせいだろう、と前を向き直り改めて正面の壁を見る。

「すっげーな!」

「さすが聖都って言われているだけのことあるね。」

熊人族のベアと、虎人族のベンガルが子供らしさ全開で楽しそうに壁を見ている。

「本当に白い壁なんだね。」

猫人族のキャットも不思議そうに壁を見上げる。

フリーたちの前に現れた壁は、聖壁と呼ばれている真っ白な壁。

浄化作用や魔除けなど様々な魔法効果が付与されている壁らしい。そんな壁が数十キロに渡って続いている。

厳重な壁に守られているのは、王都にも匹敵するほど巨大な街。

『聖都クラウディア』

かつての聖女の名前を冠した聖なる都。

この世界で唯一、領主ではなく教皇が治める特殊な都。王家ですら、この都には強く出られないという話まである。

神に仕える神官たち。そして、神官を守る守護騎士。

教会を中心に回っているこの都は独自の法律も存在しており、あらゆる諍いが禁止されている。

『争いが禁止されてるって、面白いよねぇ。』

そのおかげで、たとえ獣人でも差別されることなく平和に暮らしていけると聞いた。

『冒険者ギルドもないのかな?』

それは知らないけど、あるにはあるんじゃない?禁止されているの、都の中だけだし。

『それもそうか。都の外にでた魔獣たちは倒さないとだもんね。』

聖壁に沿ってしばらく歩くと、ようやく入口を発見する。

みんな子供の獣人がぞろぞろ歩いてきたら警戒されるかと思ったが、門番をしていた二人の騎士は不信な顔をすることもなく事情を聴いてくれた。

「そうか、大変だったな……。」

女性の方など、兜脱いで涙をぬぐうほどだ。

全身を白の甲冑で覆い、厳つい恰好をしているが、兜を脱いだ姿はまだ年若い女性だった。

さらりと流れる金髪が太陽のようにきらりと輝く。

『なんか、シャンプーのCMにでれそう。』

リィンの呟きは置いといて。

「あたしたちも、中に入れる?あたしはともかく、子供たちは永住も考えている。」

「ん?ああ、もちろんだ。他の町では、獣人というだけで扱いが悪くなるだろうが、この都では安心してくれて構わない。教皇様も優しく受け入れてくれるだろう。」

涙を流しながらこの都の教皇がどんなに素晴らしい方かを語っている守護騎士の横で、中に入ったらここにいけばいいよと教えてくれる男性の守護騎士に話を聞く。

話を聞き終わり、都に入ろうとした時にぽんとフリーの頭に手が置かれた。

「大変だったな、ここまで。だが、これからはもう安心だ。」

にこりと笑う男性守護騎士にお礼を言い、フリーたちは都の中へと入っていった。

入る直前に、少しだけフリーが後ろを振り返る。

『どうしたの?』

さっきの男の人、動きが読めなかった。

『そりゃ門番任せているわけだし、それなりに強いんじゃない?』

まぁ、そうか。

『なにか気にあることでもあるの?』

ううん、なんでもない。

そういいながらも、フリーはなんとなく嫌な気配を感じていた。

どこからか見られているような、そんな気配を。


それに……。


はしゃぐ子供たちを横目に、都を囲う聖壁を見る。

この白い壁、なんだか閉じ込められたような感じがして、少し苦手。

本来安全なはずも都の中で、少しだけ嫌な予感を感じる。

それは野生の勘のようなもので。

気にしないように心がけていたが、常にフリーの心の隅にあった。


都の中は非常に整っており、門から真っすぐな大通りとなっており、その先は教皇がいる教会へと続いている。

左右に商店が立ち並び、多くの人々が行きかっている。もちろんその中には、獣人の姿もある。

ミミたちも、街中を普通に獣人が歩いている光景に驚きながらも目を輝かせていた。

「ほらほら、みんな見るのは後だよ。まずは面倒みてくれるっていう孤児院に行こう。」

ミミが年長者らしく、ふらふらと歩いていきそうになるほかの子供たちを止めていた。

孤児院というと、あまりいい印象は浮かんでこないが、ここの孤児院は教皇がしっかりとお金を出してくれるおかげで裕福とまではいかないが最低限の生活は保障してくれている。

また、都の手伝いなんかも孤児の子供たちが行っているので、将来働き口を見つけることも可能らしい。

そこならば、きっと自分たちも受け入れてくれるだろう。


どの町でも見たことがないぐらい立派な教会の前に立ち、しばし全員で眺める。

「はっは!立派なものだろう?」

呆けている子供たちが面白かったのか、教会へと向かう人が話しかけてくる。

「あ、はい。立派すぎて、思わず見入ってしまいました」

突然人間に話しかけられた焦りから、早口になりながらミミが答える。

「そうだろうそうだろう。教皇様は立派な方だからな。教会も立派じゃなくちゃいけねぇと都のみんなでお金を出し合ったのよ!」

それが誉れであると言わんばかりに、胸を張って男性は教会の中に入っていく。

傍で聞いていたほかの住人たちも、その通り!と堂々と中に入る。

『慕われているんだね。町の人が自分たちでお金を出し合うなんて相当だよ。』

そうだね。

『反応が淡泊だなぁ。やっぱり神様は嫌いなの?』

別に。好きでも嫌いでもない。ただ、ここまで慕われるほどの人間がいるのかなと思っただけ。

『ここにいるじゃない』

うん、まぁそうだけど。

『なにがひっかかってるの?』

なんでもない。

『なんでもないって感じじゃないんだよなぁ』

話は終わりだ、とフリーがいまだに教会を見上げている子供たちの方を見る。

「入る?」

聞くと、子供たちは輝かせていた目を少しだけ曇らせて首を振る。

「獣人族が神に祈ることはないです。だって、神は人間族の味方だから。」

これまでずっと蔑まれていた獣人族だ。神に祈ってこの境遇がどうにかなるのならばとっくに祈っているだろう。

『そもそもなんでここまで獣人族って差別されてるんだろうね』

前も聞いてきたけど、詳しくは知らない。本来、人と人でしか交わらないはずなのに、人と獣が交じり生まれた異端の存在だからっていうのは聞いたことがある。だから、もっと差別がひどいところにいくと異端者って呼ばれる。

『さすがに度が過ぎると思うけど。だって見た目あんまり人間と変わらないじゃん。』

あたしにしか聞こえないからいいけど、その発言は人間族と獣人族の両方を敵に回すことになる。

『だよね。気をつけまーす。』

心配。

『さすがに大丈夫だよ!失礼しちゃうなーもう!』

フリーが肩をすくめて、改めて子供たちに向き合う。

「なら、もう行こう。嫌な視線は感じないけど、獣人族が集まっていたらさすがに人目をひく。」

「あ、はい。」

フリーが先導し、後ろに子供たちが続く。

確かに嫌な視線は感じない。

だが、常に見られているような気配はいまだ消えずに付きまとってくる。

リィン、なにか感じる?

『う~ん、特に変な気配も魔力も感じないけどな。フリーが気を張りすぎているだけじゃないの?』

それならいいけど。でも一応警戒はしておいて。

『わかったよ、任せて』


―――カァ


遠くで、烏の鳴き声が聞こえたような気がした。

読んでくださりありがとうございます。


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