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こみゅりょくのけしん

村を出て、小高い丘を駆け上り、一度だけ村の方を振り返る。


『悲しい別れだったね……。』

「別に。知り合ってすぐの人間を信頼する方がおかしい。」

『異世界って大変だね。』

というか、フリーの人生が過酷すぎただけか。

「そう?わりと普通。」

『私はずっとフリーの味方だよ。』

「逆にどうやって敵になるの。」

『もう!気持ちの問題だよ。』

「よくわかんない。でも、ありがとう。」

淡々としているフリーの様子を感じて、ふと疑問に思ったことを聞いてきた。

『そういえばフリーって怒ったりしないよね。』

「え?」

『いや、さっきみたいに騙されてむかつくー!とかそういう怒りの感情っての?あんまり感じたことないなって。』

「怒りってなに?」

本当に知らない様子でフリーが聞き返してくる。

『なにって……イライラ~!とかむかつく~!とか、とにかくそんな感じだよ。』

「よくわかんないけど、たぶん感じたことない。」

『お、おお……そうなんだ。』

きっとこれまでの人生が過酷すぎて怒りとかいうレベルじゃなくなっちゃったんだろうな……。

『大丈夫だよ、フリー。あなたが怒らない分、私が代わりに怒るから。』

「なんだかよくわからないけどよろしく。」

『任せて!私、怒りに関しては大したもんだから。私を怒らせたら大したもんですよ!』

「よくわからないけどいつものことだからよろしく。」

『やっぱり辛辣なんだよなぁ。』


こうして、フリーとリィンの初村訪問は終わった。

ひどく短く、そして悲しい別れだった。


とにかく情報は得ることができた。

とりあえずこのまま次の町に向かう。

『服も手に入ったし、体も拭けたし、多少清潔になったんじゃない?』

「前の状態より少しまし。近くで逃げ出した奴隷として通用する程度。」

『まともな服、着たいね。』

「あたしは別にどうでもいい。」

『もうちょっと自分に興味もとうよ~。』

丘を下り、街道に出るまでの間延々とこんな服が着たいあんな服が着たいだの言い続けるリィンに適当に相槌を打つ。

「そもそもこれまでまともな服なんて着たことがないからわからない。」

『あぁ、そうかそれで反応が薄いのか。トンカツ食べたことない人間がトンカツ食いてぇとはならんだろ理論ね、はいはい。』

「とんかつがなんなのかはわからないけど、多分そういうこと。服の形をしているものを着るの自体珍しい。」

村でもらった服の端を少しだけつまむ。

『これまでの格好って……あ、布か。』

そういえばはじめの格好って服を着ていたというより布を体にまとっていたという感じだった。

「そういうこと。」

『わかった!じゃあ、町に着いたら私がフリーに似合う服を選んであげるね。』

「うん、まぁよろしく。」

『任せて!私、おしゃれに関してはちょっとうるさいから!』

「おしゃれに関係なくリィンはうるさい。」

『そういうことじゃないんだよなぁ!』

少しだけ間があり、

『おしゃれに関係なくうるさいってどういうこと?私のことうるさいと思ってるの?』

「そういうこと。」

『だからどういうことだってばよ!』

だからそういうことだって。


傍目には1人で走る少女。

実際はこうして常に喋り続ける同居人がいるのでにぎやかに。

二人は街道に沿って走り続ける。

フリーとリィンは交代しながら一度も止まることなく走り続け、本来は1週間ぐらいはかかるであろう距離を、4日で踏破した。


街道の先に、村にはなかった門と石の壁が見えてくる。

「お~町だ町!初町だよフリー!」

『見ているものは同じだからわかる。』

「どうしたらいいの?ねえねえどうしたらいいの!?」

『なんでそんなにテンション高いの?あたしたちは住民じゃないから町に入ろうと思ったら門番の許可がいる。違法の奴隷商人から逃げ出したって言ったらたぶん大丈夫。』

「せっかくなら堂々と入りたかったけどそこはしょうがないね。じゃあ特に待っている人もいないみたいだしこのまま突撃するよ?」

『撃破したらダメ。』

「わかってるよ。言葉の綾、綾。」

『代わった方がいい……?』

「だ~いじょうぶだって!心配性だなぁ、フリーは。」

フリーが珍しく不安に思いつつも、門番に突撃していくリィン。

ノリノリなリィンがいかにも逃げてきました!みたいな迫真の演技をかましてまんまと侵入に成功。

「侵入って言い方はちょっと……。」

『似たようなもの。実際、嘘ではないけど本当でもない。』

「入ってしまえばこっちのものだよ。」

『そうとも限らない。暴れたら衛兵に捕まるか外に放り出される。』

「そんなことしないって!さ、まずは門番の人が案内してくれた宿屋にいこう。」

初老の門番はみすぼらしい恰好をしたリィンに驚き、涙し、親切にも宿屋と少しばかりのお金をくれたのだ。

宿屋は、門番の息子夫婦、そして孫が営んでおり、儂の名前を出せば断れることはないといってくれた。

「いい人だったね。」

『そんな人をノリノリでだますリィンの気がしれない。』

「全部信じてくれるからついつい……。」

『まぁでも、だまされる方も悪い。』

なにか、えらく力のこもった声だった。

フリーが奴隷堕ちした原因でもあるのかな。

これからは、ちょっと控えよう……。

反省しつつ町を歩き、異世界の町だということで再びテンションが上がり、あっちこっちにフラフラするリィンをフリーがたしなめる。

「なんか異世界~って感じではないけど、やっぱりこういう町ってテンション上がるよね。」

『異世界~がどういう感じかわからないし、別にテンションも上がらない。それよりもあまり目立つ行動してほしくない。』

もうすでに奇異な目で見られているので手遅れだとは思うが、これ以上注目を浴びるとめんどうなことになりそうだ。

「まぁ確かにこの格好でウロウロしていたら悪目立ちするか。おとなしく宿屋に向かうよ。」

『それもあるけど……。』

珍しく言いよどみ、その先を話さないフリーを疑問に思いつつも目的地である宿屋が見えたので思考を切り替える。

「このまま普通に入っていって大丈夫かな?」

『紹介されたっていえばきっと大丈夫。できる?リィン。』

「大丈夫大丈夫!私のコミュ力を見せる時だよ!」

『こみゅりょくのけしん。』

「そういうことだよ!」


リィンは力強く返事をすると、灯りが漏れる木製のドアを開いた。

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