転生したら奴隷だった件
紫色の花が咲く。
ーあら、咲いたのね。
女性の声が響き、次々に紫色の花が開花していく。
ー今度はなにを企んでいるのかしら。
呆れとも怒りともつかない感情の乗った声。
女性はただ、開花していく花を見る。
表の華やかさなど微塵も感じられない暗闇の世界。
腐ったヘドロや、生活排水、そしてなにかの死骸の匂い。
様々な臭いが混ざり合った場所で、バシャバシャと足音が響く。
臭いなど気にもならない。
気にしている余裕もない。
荒い息遣いの奥から、もう一つ、足音が聞こえてくる。
ズズ、ズズ……
と、なにか大きなものが這いずってくるような音。
鈍重そうな見た目と違ってずいぶんと追いついてくるのが早い。
ちっ……
軽く舌打ちをして、走りながら周囲に目を凝らす。
あそこだ……!
見つけたのは細い土管。下水の通り道。
小柄な体を活かして、ためらうことなく入り込む。
途端、悪臭が襲い掛かってくるが命の危機には変えられない。
追っ手は細い土管に入ることができず、しばらく唸っていたが、やがて諦めたのかズズズ……と去っていった。
「ふぅ……。」
そっと息を吐き、荒い呼吸を整える。
今日も生き残った……。
私の記憶にあるのは痛みだけ。
それは生きている時も、死んでからも同じ。
両親から奮われる暴力に耐えられずに私は死んだ。
そして、再び物心がついた時、私は檻の中でまるでペットのように暮らしていた。いや、ペットの方がまだましかもしれない。
私は、所謂奴隷だった。
毎日毎日ただ殴られるだけの日々。
何より辛いのは、檻の中で鎖に繋がれているために死ぬことすらできない。
ただただ奮われる理不尽な暴力に耐えるだけの日々。
神様……私は一体どんな罪を犯したというのでしょうか?
前世の記憶を持って転生。
そんな憧れていた転生物。
だが実際、憧れとはほど遠いただの地獄の延長。
最近の転生物では悪役令嬢に転生して逆転、とか、乙女ゲーの世界に転生、とかが主流なのに……。
なによ奴隷に転生って……。
しかも転生物にありがちなチートなスキルみたいなものもなし。そもそもこの世界にスキルらしいものなんてない。
はは、そりゃそうか……。
ゲームや漫画じゃあるまいし。
スキルって。
ステータスが見れるとかレベルが見れるとかあるわけない……。