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揺れている……?
わたしどうしたのかしら。地面が揺れて……いいえ、違うわ。誰かに担がれている?ゆっくりを目を開けると、目の前に刺激の強いオレンジ色が現れた。
驚いて身体を起こそうとしたせいで、バランスを崩したピーターが慌てている。
「お!聖女様、起きたっすね!」
もう大丈夫であることを告げ、地面に下ろしてもらう。辺りを見回すと、ちらほらと花が咲いているのどかな草原が広がっていた。
「わたし塔に居たはずなのに……」
「坊っちゃんに運ばれてたんすよ!」
ピーターの話によると、気を失ったわたしを運んでいるリヒト様に偶然出くわし、そのままわたしを預けられたらしい。そして、リヒト様は何の説明もなしに、そのまま塔に戻っていったと。
「何かあったんすか?」
先ほどのことを思い出してみる。わたしはただリヒト様と向き合いたかっただけなのに……こう首をガッて!こうガクンって衝撃を感じて意識を手放してしまったのよね。
もうちょっとやりようがあると思わない……?あの人は話し合いってものを知らないのかしら!思い出していると、ふつふつと怒りが込み上げてきた。
「せ、聖女様?顔が怖いっすよ……?」
「あら、失礼。ちょっとね。一言くらい言ってやらないと気がすまないわ!」
そう。もう逃げるな!ってね。
「いいっすね!!ついでに殴っちゃいましょう!」
「そうね、そうしちゃう?」
ピーターと談笑しながら草原を歩いていると、何かが燃えているような臭いがしてきた。何だか村の方も少し騒がしい。
「ねえ、ピーター。もう収穫祭が始まったのかしら!何だか少し焦げ臭いし!」
「いや、収穫祭はもう少し日が沈んでから始まるはずっす!それに、焚き火にしては炎が強い……色もおかしくないっすか?」
ピーターの見ている方向に視線をやる。村の方向だ。確かにピーターの言う通り、村全体が炎に照らされているように見える。焚き火にしては火が強すぎるし、範囲も徐々に広がっているようだった。そして木の合間からチラチラと見える炎は、少し青みがかっている。
収穫祭の時間にはまだ早いというのに、あの炎、この騒がしさ。何かおかしい。ピーターも同意見のようで、二人で村の方へと駆け出した。
村へ近づくほど、村の人たちの声がはっきりと聞こえるようになる。収穫祭で盛り上がっているのかと勘違いしていたが、声が聞き取れるようになると、それが助けを求めるているものだと分かった。そして今度はしっかりと見えるようになった炎が……青い……
青い炎は王族の証だ。でもリヒト様は今は塔にいるはず……一体何が起きているの……嫌な予感がする。
木々を抜けてやっと到着したわたしたちが見たのは、青い炎に包まれる村だった。
「メイベル様!!!」
「ミーナ!無事で良かった!村のみんなは?一緒に来た家の者たちは!?」
村の惨状を前に、収穫祭の手伝いに行ったミーナが心配だったが、無事で本当に良かった。服は少し焦げている部分があり、顔も身体も煤だらけだが、怪我は無さそうだ。
「みんな無事です!護衛たちが村の人たちを避難させています!怪我している者もおりますが、みんなで協力して何とか移動している状況です」
「みんな無事なのね、良かった!ところで、どうしてこんなことに!?」
「そ、それが……」
途端に歯切れの悪くなるミーナ。何かを伝えたいが、どう言ったら良いのか迷っているように見える。一体何があったと……
「メイベル、こんなところに居たんだ」
聞こえるはずのない声がした。後ろにいる声の主を確認しなければ、という気持ちに反して身体が強張る。
恐る恐る振り返る。聞き間違いではなかった。聞こえるはずのない声の主がそこに立っていた。
「ルシウス様……おばあさん!!」
そこにはいつも通りの笑顔でこちらを見ているルシウス様。そして、ルシウス様に首を掴まれ、ほぼ引きづられている状態のマーシャがいた。
「あれ?久しぶりの再会なんだからさ、もっと嬉しそうにしてくれても良いんじゃない?」
「その方をお離しください」
「これのこと?」
いつも通りの笑顔で淡々と話すルシウス様。これ?と言いながらマーシャを前に突き出す。首を掴まれているせいで、息がうまくできずとても苦しそうだ。
「ルシウス様。どうかお離しください」
もう一度、今度は先ほどよりはっきりとした口調で言う。
「メイベルのお願いは何でも聞いてあげたいんだけど、それはできないな。ごめんね?これに聞かないといけないことがあるんだ」
「聞かないといけないこと?」
「そう、あいつの居場所だよ」
「あいつ……?」
ルシウス様の表情は一切変わらない。今までずっと見てきた輝くような笑顔。いつも通りの笑顔。なのに目には狂気が宿っている。笑っているのに笑っていない。
「やだな、とぼけちゃって。メイベルだって知っているじゃないか。会っているでしょ?まさか俺が知らないと思ってる?」
「何のことでしょう」
「俺に言わせないでくれよお。あいつの名前を言うと吐き気がするんだよお。そもそも、陛下もメイベルも何なんだよおお!あいつの話ばっかりしあがってよおお!次期国王は俺だぞおおお!」
狂気じみた表情でジリジリと迫ってくるルシウス様。
「お嬢様!お逃げください!!」
わたしを守ろうと、ミーナとピーターが前に割って入る。
「俺とメイベルの間に立つな!邪魔なんだよおおお!」
青い炎が燃え上がり、二人が吹き飛ばされる。
「ミーナ!!!!ピーター!!!」
ルシウス様は顔色一つ変えず進み続ける。
「うーん、君はできるだけ殺したくないなあ。君ほど国王の妃……いや隣に置く飾りとして相応しい人間はいないよ」
飾り?何を言っているの……
「だからちょっとだけ眠っててね」
直後、みぞおちに強い痛みが走り、わたしはまたも意識を手放した。




