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第三師団

 


「は? マジで言ってんの、七回目の婚約なんて!?」



 クリスティーナの隣にいたエドワードが、口をあんぐりと開けた。

 普段は爽やかな男なのに、その表情は少し滑稽だ。

 透き通るような深みのある青い空の下、帝都郊外にあるヴィクトール帝国軍司令本部の戦空艇団訓練場にて、クリスティーナは第三師団の訓練を行っていた。



「エドワード、職務中なのに感情が表に出過ぎよ。ここが戦場なら敵に思惑を気取られるわよ」


「無茶を言うなよ、クリス閣下。これが驚かずにはいられるか。それにここは戦場じゃねーし、訓練中だから」


「その気の緩みを訓練中でも持ち込まないように」


「持ち込ませたのは、誰なんだよ……」



 げんなりした副官に対して、肩をすくめたクリスティーナは、空へと視線を向けた。

 澄んだ青空を背にして、堂々たる存在を見せつける空飛ぶ戦艦・戦空艇。プロペラを勢いよく回転させて、その巨体は浮かんでいる。

 クリスティーナは耳のイヤーカフを触り、通信機を起動させた。

 ジジー、ピッと通信回線のノイズの後に軽やかな音が鳴り、交信を開始する。



「こちら、クリス。戦空艇訓練は順調よ」


『こちら、マルス。んじゃあ、そろそろ終了ってとこか』


「こちら、エドワード。聞いてくれ、みんな! クリス閣下が七回目の婚約をしたんだってよ!」


『はあ!? あたしの超推しのクリス閣下が、また婚約させられらたの!?』


『うるさい、モニカ。俺の耳元でしゃべんな!』



 戦空艇内で訓練中の団員に通信を入れれば、エドワードの暴露で大騒ぎになってしまった。

 だからといって、にぎやかに大騒ぎするのは第三師団では日常茶飯事なのだが。



『閣下、戦空艇に上がって来いよ。その面白い話を聞かせろ』


「面白いって、マルスあなたね……まあ、いいわ」



 軽く息を吐くと、クリスティーナは近くに待機させていた、小型迎撃艇カヴァルリーに跨った。エドワードもそれに続く。

 操縦桿を操作すると、ブーンと低い羽音のようなモーター音が断続的に鳴り始めた。

 カヴァルリーがふわりと浮き、空に向かって走り出す。

 バラバラバラ……と、勢いよく回転するプロペラ音が、近づくほどに大きくなった。

 二機のカヴァルリーはぐんぐんスピードを上げて、あっという間に戦空艇の甲板に着艦した。

 ひらりとクリスティーナが降りると、ざっと爽やかな風が吹き、彼女の艶やかな髪が光を含んでキラキラと靡いた。



「クリス閣下、クリス閣下―!」



 戦空艇内に入室したとたん、うわーんと声を上げて、肩までの髪を振り乱して駆け寄ってくる女性がいた。クリスティーナと同じ紅の軍服を着た、数少ない女性団員のモニカだ。



「どういうことですか、また婚約したって!? 七回目ですよ、七回目」


「どうもこうもないわよ、モニカ。勝手に皇太子殿下がお決めになられたのよ」


「あたしの崇め奉りたい孤高のアイドル・クリス閣下が、また人のものになるなんて! 今度はどこの国の王子様ですか!?」


「今度の相手は、本国の貴族ですって」


「本国ぅ!?」



 目を白黒させて興奮するモニカを、ニヤニヤしながら近づいてきたマルスが、クリスティーナから引き離した。



「モニカ、うるさい。静かにしろ。閣下、大分面白いことになってんな。本国の貴族がお相手だって?」


「そうなの」


「とうとう悪女殿下は海外に相手がいなくなったか」


「本国ならオレだって貴族だ。副官のオレだって候補になったんじゃ……」


「エドワード、お前は下級貴族の三男坊だろ。相手は皇女だ。現実を見ろ」


「ひ、ひどい」


「エドワード、大丈夫よ。わたくしは結婚なんてしないわ」


「……エドワード的には大丈夫じゃないだろ」



 笑顔で堂々といつも通りのことを言ったのに、背中がしょんぼりしてしまったエドワードの肩を、励ますようにマルスが叩いている。クリスティーナにはよくわからず小首を傾げた。



「で、今度のお相手はどんなヤツなんだ? もう会ったのか?」


「皇太子殿下のお友達ですって。公爵家の次男よ」


「おお、さすがは皇女様」


「でも、まだ顔合わせをしていないわ」



 クリスティーナは眉根を寄せた。

 婚約は勝手に決まってしまったが、当の相手に会っていない。

 レオンハルトから新たな婚約を告げられてから、すでに一週間が経っているが会う気配が訪れないのだ。



「閣下は七回目の婚約破棄を狙っているのか?」


「当然でしょう。さらに最短記録を目指すわ。これで本当にチェックメイトよ」



 ふふ、とクリスティーナは口の端を上げた。

 天才機械士シキ・ザートツェントルについて、表向きに流れている情報はすでに粗方つかんではいる。

 しかしそれだけでは足りず、本人に近づいて内情を探りたいところだ。

 人は内側ほど、後ろめたいことを隠しているものだから。



「ちなみに六人目の記録は?」


「過去最高のひと月半よ」


「骨のない王子様だな」


「わたくしはこの戦空艇とともに朽ちるつもりよ。わたくしにとって軍人であることと、この第三師団が最も大切なのだから」


「女神、ここに女神がいるわ! クリス閣下、好き!!」


「うるせぇ!」



 目を輝かせたモニカが、勢いよくクリスティーナに抱きつこうとしたが、間一髪でマルスが首根っこをつかみ、ぐえっ、と潰れた声が響く。

 モニカとマルスの言動に、周りにいた団員たちはどっと笑い声を上げた。


 第三師団の団員たちは、クリスティーナをボスとして慕っていて「皇女」として扱わない。

 第三師団特有の理由もあり、身分を超えた仲間・家族のように思っているから、会話もざっくばらんとしたものだ。

 第三師団がなくなる、軍人でなくなるなんてことが起これば、きっと生きる意味を失う、とクリスティーナは本気で思っている。



(だから、わたくしは必ず婚約破棄を成し遂げる)



 改めてクリスティーナは心に誓う。

 これまでの婚約者たちは例外なく高い地位の者であり、皇女であるクリスティーナを求めるが、軍人の部分を否定してきた。

 今度の婚約者も公爵家の人間だ。きっとこれまでの婚約者たちと変わらない。



「クリス閣下! 通信部隊からの出動要請です!」



 団員の一人がクリスティーナのもとへ駆けこんできた。

 団員の言葉に、艇内にピリッとした緊張感が走り抜ける。

 その空気感とは裏腹に、クリスティーナの胸の内は静かに沸き立つ。

 けれども、彼女は師団長として表情を変えず、冷静な声音で報告を促した。



「報告を」


「帝都から距離三百の地点に、ワイバーンの群れが出現。数はおよそ十!」


「ワイバーンが? わかったわ。みんな、出撃するわよ!」



 凛とした声でクリスティーナが司令を出せば、おう! と団員たちの威勢のいい声が戦空艇に響いた。





お読みいただきありがとうございます(^^)


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