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奇策妙計

「でも以前聞いたのだけど、国王陛下は情熱的に己の伴侶にと、ユメノに打診したと聞いたわ」



 こちらに来ていた時に、耳に胼胝ができるほど聞いた話だ。

 国王とユメノは十歳ほど離れているのだが、彼女の美しさと聡明さに惚れて求婚したらしい。

 どれだけ王妃は大切にされているか、愛されているかを、ロマンス好きの王宮付の侍女たちが常に噂していた。



「ええ。陛下はそうでしたが、ユメノは渋々でしたけどね。王妃の地位を何と思っているのかしら」



 カエデが溜息を零した。

 カエデの言葉からユメノの価値観を推測するならば、従属国の王妃なんて、帝国の令嬢と比べたら田舎者ということなのかもしれない。

 シキへの気持ちは恋情だけではないようだ。



「じゃあ、この嫌がらせはシキとわたくしが婚約したからってことかしら」


「おそらくは。二度婚約が成立しなかったシキが三度婚約した。それが皇女殿下だったから、ユメノが動いたのではないかと。王弟殿下をけしかけて、破談を狙っているのかもしれませんね」



(婚約破棄はわたくしも望んでいるけれど……)



 ちらりとシキを見れば、不満げに顔をしかめていた。

 その姿にちくりと胸が痛む。



(どうして、胸が……)



「私が破談になんてさせませんよ」


「シキ」


「せっかくティナの隣に立つ権利を手に入れたのです。破談なんてありえません。ドルレアン王家には分からせる必要がありますね」



 やけに気合の入った口調で言ったシキに、クリスティーナは眉根を寄せた。



「何をする気なの、シキ」


「パーティーに出席します」


「え、出席するの? わたくしは断る選択肢もあると思っているのだけれど」


「ティナ、ここに滞在している理由が理由だけに、断るのは悪手ですよ。それに相手がティナの状況を、どこまで把握しているのかはわかりませんしね」


「それは、そうね」



 ドルレアンに何の打診もなく国境を越えているクリスティーナは、今の時点では不利な状況だ。しかも、討伐作戦で怪我を負っているなど、情報を掴まれていては面倒だ。

 帝国の皇太子であるレオンハルトが手を打っているだろうが、問題が表面化しないだけで不利な状況に変わりはない。



「参加をすればティナに恥をかかせたり、怒らせたりするような何かを仕掛けてくるでしょう」


「全くどちらが悪女かわからないわね」



 面倒ね、と表情で物言うクリスティーナに、シキがニヤリと笑った。



「だったら、こちらも仕掛ければいいのですよ」


「仕掛ける?」


「レオンも言っていたでしょう? 婚約者とイチャイチャするように、と。存分にみせつけてやればいいのです」


「イ、イチャイチャを?」


「イチャイチャを」



 クリスティーナはとたんに頬を真っ赤にさせた。



「そ、そ、そ、そんなのできるわけないでしょ!?」


「できなければ、恥をかかされて、婚約を破談に持ち込まれて終わりです。いいんですか、帝国の皇女が一従属国の王妃によって恥をかかされ、婚約を終わらせられるなど。皇帝陛下やレオンの権威が落ちるだけでなく、帝国国民にも影響が出ますよ」


「う……!」



 シキの言うことが正論過ぎて、ぐうの音も出ない。

 クリスティーナだって、己の立場をわかっている。

 王弟と婚約していた時、ユメノから嫌がらせを受けて必ず返り討ちにしていたのは、シキが指摘したことが起こりかねないと思ったからだ。



「大丈夫ですよ、ティナ。いつも通りのことをすればいいだけですから」


「いつも通りって、そんなことしていないわよ!?」


「ふふ、初心で照れ屋さんですね。そんなところも好ましいですが」


「やっていないからね!?」



 にこにこと微笑みながら、クリスティーナの髪をさらりと撫でるシキに、さらに真っ赤になったクリスティーナが噛みついた。

 そんな姿に、ほう、と溜息を零した者がいた。カエデだ。



「まあ、十分にイチャイチャされていますよ、殿下。心配ございません。機械が恋人のような孫が、婚約者を大切にしている姿を見られるなんて。長く生きていて良かったわ」


「カエデの言う通りだ。ありがたい」


「ティナ、二人からもお墨付きをもらったことですし、パーティーには出席と返事をしましょう。帝国の威信をかけて」


「し、仕方がないわね」



 納得はいってはいないが、公爵夫妻も感謝の眼差しでこちらを微笑みかけてくるし、帝国の威信もある。

 押し切られるようにクリスティーナは頷いた。



「すぐにでも殿下の出席の旨をお伝えしよう」


「お爺様、お願いします」


「では、急ぎパーティーの準備をしなくては!」



 そうと決まればやることは一つとばかりに、カエデががたりと席を立った。



「パーティーは今から二週間後ですから、殿下には王都にあるリヒトホーフェン家のタウンハウスへ移っていだきますわ。そこでパーティーへ向けて準備をしましょう。リヒトホーフェン家が総力を挙げて、殿下をより美しく磨き上げますわよ!」


「あ、ありがとうございます」


「ユメノの存在が霞むくらい、まばゆく麗しく仕上げますからね。久しぶりに腕がなるわ!」



 勢いにのまれたクリスティーナが、シキにこっそりと聞いた。



「任せて大丈夫かしら……?」


「安心してください。お婆様の腕は確かですよ」


「さあさあ、殿下。今からドレスの採寸をしましょう。セリ、お願いね」


「かしこまりました」



 応接室に控えていたセリが、ぱんと一つ拍手をすると、数人の侍女がさっと現れた。

 ぽかんとするクリスティーナを取り囲むと、あっという間に応接室から連れ出した。

 いつから待機していたのか、一糸乱れぬ動きを見せる、よくできた侍女たちである。







お読みいただきありがとうございます(^^)


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