意地
「馬術のベテランまで貴方には叶わないわね」
レベッカは新聞を読んで呟く。
相変わらずメディアは誇張しているが事実だ。
「あれ程の腕なら野盗に落ちずとも働き口はあったはずなんだがなぁ‥」
ケイトの寝顔を見ながら答える。最近は夜泣きが減ってきた。僅かに言葉も上達してきた。
まだまだ赤ん坊だがな。
いつものように出勤した。
執事のクラントに呼び止められる。
「ジャン殿。大事なお話があります。応接室へどうぞ」
「了解です」
部屋に入り事情を聞く。
「実はあなたに政府から引き抜きの話が来ています。政府直属の護衛にならないかと」
「俺は戦場で散々な目に会いました。国境での戦闘でもやはり軍隊や政府の狡賢さが見えました。お断りします」
「これまでの活躍や運の強さを見込んである程度の条件は飲むと仰っています」
「家族を養える金額があれば問題ありません。死んでしまったらどうにもなりませんから」
すると応接室の陰から拍手が聞こえた。
「いやはや。流石はデザートストーンの英雄だ。益々君の力が欲しいよ。何でも言ってみたまえ」
政府高官らしき人物が出てきた。
初めから対面しろよ。馬鹿野郎。
「ジャン殿。大変心苦しいのですが、受けてもらわないとデザストン商会の存続に関わります。後生です」
クラントが頭を下げた。
「お偉いさんよ。汚い真似しないと戦争も政治も出来ないのかよ?恥ずかしい連中だ。だからミスばかりするんだ!」
「君の意見にはごもっとも。しかし並外れた技術と度胸は有効活用しなくてはならない。重ねて言うが条件を飲むよ?」
「殉職時の給金•遺産分配。個人の権限。プライバシーの侵害についてアレコレ物申すが良いのか?」
「なんなら大臣や首相の署名もするよ。是非来てくれ!」
俺は普通の雇い主ならクビにされてもおかしくない条件を沢山提示した。
「これだけかい?安いね。もう少し考えてもいいよ?」
「死ぬ時は死ぬ。それだけです。残された家族の補償が出来ていれば引き受けます。商会に泥を塗る訳にもいきませんしね?」
クラントやトラビスなど商会には世話になった。
引き受けるしかないだろう。
「思い切りの良さは強さの証かな?近々連絡するよ。ありがとうジャン君」
上から目線で癪に触る奴だった。どうせ次はまた違う高官が担当者だろう。名前など忘れた。
政府高官が退出すると、真っ先にクラントが謝ってきた。
「商会はこの恩を忘れません!政府が見限っても我々はあなたをいつでも歓迎します!」
「クラントさん。商会の立場もあるでしょう。俺は恨んじゃいません」
「会長は生憎取引先で忙しく申し訳ありません。後ほど連絡あるかと思います」
俺の予想ではトラビスは前々から打診を受けて今は政府に利用されて別の場所に行っていると思う。
敢えて執事から話を通させる。
俺の返答を陰から聞いて姿を見せたり、隠れたりを判断したのだろう。
やっぱり嫌な連中だ。
「クラントさん。お世話になりました。会長にも宜しく伝えて下さい。お達者で!」
心は売っちゃいない。
新たな戦いが幕を開けようとしている。
ケイトの成長具合が出鱈目で申し訳ありません。
地球ではない何処かという事でご容赦願います。




