極大射程
「今回は新設されたダムの入水式だ。ニューストン郊外だがいつも通り気を引き締めるように」
バートの説明でいつものように配置につく。
ニューストンダム。
水源の少ないデザートストーンにおいてかなり重要な施設となる。これまでは井戸水や河川から汲み上げた濾過水などでなんとかまかなっていたが、流石に首都を便利にするには必要なものだった。
計画から竣工そして完成まで数十年かかってしまった。
一応現在でも水道は使えるが一部の富裕層などに留まり、料金も高い。
このダムがきちんと機能すれば首都全体に水が行き渡り、水の使用制限も緩和される。
様々な大臣や施工関係者が集う場面となる。
俺たちは副総理大臣のアントンを護衛する事になる。
これまでより更に重要な人物だけにやや緊張する
現場に着けばいつも通り仕事をこなすだけだ。
「只今よりニューストンダムの入水式を開会します」
彼方此方から拍手が聞こえる。
政治家、建築家だけでなく新聞記者もいる。
ダムは護衛者達にとってかなり不利な施設だ。
広い割に歩ける場所や隠れる場所というのが限られているからだ。
そのほとんどが巨大な壁と水溜りのため致し方ない。
今回の武装は中距離•遠距離用が主だ。
バート、ザックはAK。
マチルダはマシンカービン。
俺は久しぶりにフルサイズのモーゼルに自前のスコープだ。
確かに狭い場所もあるが天井が無いエリアも多く、歩く場面も多い為このような選択にした。
当然全員がサイドアームも装備している。
「この度入水式に参加出来て大変光栄です。皆さんの弛まぬ努力が‥」
アントン副総理が演説を始める。
その時、ダムの向こう側で怪しい光を見逃さなかった!!
バートが手慣れた手つきでアントンを移動させる。
マチルダとザックは周囲の警戒と誘導。
俺は怪しき光原に同じものを向けていた。
シュパーン!!
演説マイクが粉々になった。
ほんの数秒前まで副総理がいた場所だ。
少し遅れて銃声が響く。
ドーン!
俺はその原因を確認していた。
距離にして800メートルくらいだろうか。
わずかに銃火が見えた。
これほどの距離から精度の高い射撃が行えるのは対物ライフルに他ならない。
銃声もライフルならパーンと軽い音だが、コイツは離れていても音がハッキリ聞こえる。
副総理の移動中もばかすか撃たれている。
着弾に時間が掛かるため外してはいるが、執拗に狙われる。
本来は外したら既に負けて同然だが、反撃されないと分かってやっているのだろう。
対物ライフルのような代物は一般には配備されていないのでアウトレンジで一方的に蹂躙できる。
「なるべく厚い壁に!!」
恐らく標的はアントンだが、関係者が巻き添いにならぬよう注意する。
対物ライフルの弾丸はブロック塀を軽く突き破る。
敵の発砲が繰り返されてある程度正確な場所が掴めた。
手持ちは射程不足のモーゼル‥やるしか無い。
ダムの監視所には小さめの旗がたなびいている。
おおよその距離と風向を頭で素早く計算する。
敵はまだ発砲している。
ヒュン!! シュパン!! ドーン!ドーン!
大口径の弾丸が風を切り、時折り壁に着弾する。
今だ!!
ダーン!!ジャキン!
モーゼルを放った。
遮蔽物に隠れながらスコープで着弾を観察する。
僅かに相手のスコープが動揺している。
命中はしていないだろう。
数秒の沈黙後、俺の隠れている付近に着弾し始めた。
どうやら同じ場所を狙い撃ちしているらしい。
対物ライフルなら壁をぶち抜いて俺を仕留める事もできるだろう。
落ち着いて狙い直す。
レクティルを微調整する。
左に5、上に8。
シュバ!!
どんどん壁が削られていく。
弾道の低下を考慮してやや上方を狙う。
ダーン!!
敵のいる草陰が僅かに揺れている。
それから数分何も無かった。
「皆さん。落ち着いて姿勢を低くして移動しましょう!」
バートの指示でゾロゾロと動き始める。
偉い肩書きの連中が四つん這いなのは少し笑いそうになる。
安全を確保した後に入水式は職員のみで行った。
その後の挨拶や会議などは秘書•側近が代理で行った。
「助かったぜジャン!!よくもまぁそのライフルで戦えたなぁ〜」
ザックはのほほんとしている。
「軍隊の知恵が役に立ったな‥」
一般的なモーゼルは良い個体でも500〜600メートルが狙撃の限界だ。
たとえ当たっても有効打になるほどの威力は疑問だ。
だが場合によってはやらなくてはいけない事もある。
修正射撃は迫撃砲の照準のように大体で何発か撃たなければならない。
後日、秘密警察の協力で狙撃現場を抑えられた。
現場には空薬莢と血痕が残っていた。
人が居ないという事は仕留めてはいない。
どうやら長期戦の予感だ。
最近忙しく更新出来ませんでした。
ご容赦ください。




