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Routes 1 -リンカ-  作者: ひまうさ
素直になれない10のお題
25/33

4#ため息で殺した

「素直になれない10のお題」より

副題は(溺愛10題)より「4#隣の特等席」

 お茶会を抜けださせてもらった俺は、ディルに頼んで衣装部屋で着替えることにした。もちろん、ディルは部屋の外で待機だ。


「何入ろうとしてんだよっ」

 ごく自然に衣装部屋へ侵入しようとした馬鹿(ディル)は、とりあえず殴って動けなくしておく。


「何故ですか、リンカ~っ」

 蹲ってるディルの顔に思わず罪悪感が浮かぶが、俺は目を背けてため息をつく。


「……いいから、大人しくそこで待ちやがれ」

 部屋に入ってから、俺が気がついたのは今の俺の言葉を、ディルがどう読み取るか気がついたからだ。別に待たせる必要ないのに何いってんだ、とひとしきり身悶えてから、俺はふうと息をつく。とにかく、ディルが回復して来る前に着替えないと。


 ぐるり、室内を見回し、着替えを探しはじめた俺は、直ぐに頭を抱えた。俺は確かに部屋に一人で入ったはずなんだが。


「なんで、てめぇがいやがる、紅竜」

 室内には何故かよく見慣れた黒衣の男が待っていた。普段通りにフードを被っているが、雰囲気だけでも俺には紅竜だとわかる。男とは、それだけの長い付き合いでもあるからだ。


「今日もカワイー格好させられてんなぁ、リンカ」

「さっさと出てけ」

「着替えるなら、折角だし俺が持ってきたのも着てみないか?」

 急に投げ渡された黒い塊は、空中でほどけてふわりと広がり、その形を表した。


 黒のドレスに濃い桃色のレースと細いリボンをあしらった、シンプルだが上品で高級そうな品だ。その上、どう見ても。


「リンカ向きではありませんねー」

 俺の前で先に紅竜の投げたドレスを手にしたのは、部屋の外で待たせていたはずのディルだ。


「わかってねぇなぁ。案外そういうのも似合うんだぜ?」

 紅竜には悪いが、幼児体形の俺には間違っても似合いそうにない品だ。どちらかというと、さっき会ったアメリア姫のがよく似合うだろう。


「そうかもしれませんが、ここで「黒」なんて不吉な色は不要です。……お引取りいただきましょうか」

 にこやかにディルは話しているが、実際の所怒っているようだ。


「……俺は締め出されるのに、なんで他の男には……」

 その内容は、怒りはどうも俺に向かってきているようだが。


 ここは、衣装部屋で、国中で最高のドレスが集められている場所で。そんな場所でこの二人が戦ったりしたら、全てのドレスが塵と化すのは間違いなくて。


「っ、ディル!」

 俺は慌ててディルに抱きつき、その顔を見上げた。


「馬鹿、オマエ、また姫とシャルダン様にどやされんぞっ!」

「そんなことはどうでもーー」

「俺は嫌だからなっ! 俺が原因でディルが怒られるとか、俺の胃に穴を開けるつもりかよっ!」

 前回の二人の喧嘩は城内の庭園をひとつ吹き飛ばした。そこには世界に一つしか無い新種のサクラソウという花が咲いていたらしいのだが、二人の力の前で一瞬にして灰になってしまったらしく。


 俺はめったに見られない、シャルダン様に怒られるディルを見てしまった。姫が怒るのはしょっちゅうだけど、あの温厚なシャルダン様が怒るのだから、相当な品だったのだろう。俺は自分が原因であるだけに、逃げることも出来ず、かといってシャルダン様はディルが悪いと言って聞く耳持たず。非常に、いたたまれない状況に追い込まれたんだ。


 ディルは平然としていたが、その時のことを思い出した俺は、ディルから視線を逸らして、身を震わせていた。


「また後でな」

 紅竜が珍しくあっさりと立ち去ったものの、俺は少しだけ溢れそうな涙を堪えるのに必死で。


 本当に、本気で、あの時のシャルダン様は怖かった。絶対にあの方だけは怒らせてはいけないと、俺はあの時に思ったんだ。アルバよりも、ディルや姫よりも、めちゃめちゃ怖かった。


「あの、リンカ……?」

「っ、さわんなっ」

 そっと触れてきたディルから俺は体ごと顔をそむけて、腕で涙を拭おうとして、やめた。今着せられているドレスも高そうだけど、それ以外にここにあるどれもこれもが俺には不釣り合いなものばかりで。


「帰るっ」

 蹴破る勢いで衣装部屋を出た俺は、城内から神殿へと通じる通用口へと足を向けた。その間、ひと目を避けるのは本能的なものであって、別に泣いてるのをみられたくないとか、そんなんじゃない。


「リンカっ」

 追いかけてくるディルから逃げるように、小走りで俺は移動し、通用口の前で捕まった。


 扉を挟んで、俺を包み込むように抱きしめるディルは、珍しく息が上がっていた。


「逃げないで、」

「っ、逃げてなんか……っ」

「逃げないで、いつも僕の隣にいてくれて、ありがとう」

 意外なディルの言葉に、俺は目を見開いた。てっきり、謝られるかと思ったし、逃げたことを怒るかと思ったのに。


 俺がディルの隣にいられるのは、ディルがそうさせてくれるからだ。でなければ、俺なんかがここにいられるわけないってことぐらい、俺はわかってる。孤児で、何の後ろ盾もない、ただの子供の俺なんかじゃ、傍にいられないってことぐらい、わかってる。


 だから、だろうか。あの時も、ディルが怒られている時も、俺はその場を離れられなかった。姫やシャルダン様が、怒られているディルのそばにまでいなくていいんだって言ってくれても、俺は出ていくことが出来なかった。


「お、俺は……っ」

「そんなに辛いのに、あの時一緒にいてくれたんだ」

「……俺の、せいじゃねぇか……」

「でも、リンカが止めても聞かなかったのは僕だ」

「だからって……っ」

 振り返った俺の目の前にディルの整った顔があって、それがあまりに蕩けるような笑顔を浮かべていて、俺は逃げられないのに後ずさりたくなった。後ろの通用口は引き戸なんだ。


 ディルの顔が近づいてくるのに、俺は思わず両目を閉じて俯く。


「っ」

 目元を舐められる感触に、何度もされているのに、俺は体を震わせる。


「僕があの男と喧嘩をするのは、リンカのためもあるけれど、大半が自分のためだ。本当は、リンカを誰にも見せたくないし、誰とも話してほしくない。閉じ込めて、僕だけを見ているように調教してあげたい」

 あ、れ、何か、怖いこと言われてる気がする。


「だけど、それじゃリンカがリンカじゃなくなるから。そのままがいいから、僕は我慢しているのに。あんな風にため息で僕を殺しておいて、部屋の中で二人で楽しく話しているなんて、嫉妬に駆られても仕方ないだろ?」

 あれを、楽しくと言ってしまうディルが、流石に俺は怖くなって、目を開けて整った顔を見上げていた。ディルはいつもどおりに見えて、その綺麗な碧眼の奥に少しだけ昏い影が過ぎっているようだけど、それがどうか俺の気のせいであってほしい。


「ディ、ディル……?」

「僕の隣はリンカの特等席だ。でも、リンカの隣は? 僕はいつもそれが気になるんだ。僕以外がリンカの隣で笑うなんて、想像するだけでもそいつを殺してやりたくなるよ」

 俺はなにか、ディルのやばいスイッチを押してしまったらしいと気づいた。ディルが言うようなことは、絶対にないだろうことは俺にもはっきり言える。だって、それは俺がいつもいつも不安に思っていることなんだから。俺はいつディルに捨てられるか、ずっと怖くて仕方ないんだ。


 二人でそんな風に心配しているのに気がつくと、少しバカらしくなって、俺は笑った。


「……バーカ、そりゃ俺がいつも考えてることだ。ディルは余計な心配とか嫉妬とか、してんじゃねぇ。俺の隣はディルだけで手一杯だよ」

 ディルと出会ってから、いつも俺の隣はディルがいて。もう他の誰かといることなんて、俺には考えられないんだ。ディルと出会う前、どんなふうに生きていたかなんて、仕事以外のことが思い出せない。


 俺はディルの耳を掴んで引き下ろし、自分の額と併せて目を閉じる。


「だから、ディルの方こそ、俺から逃げようなんて思うなよ。俺はどんな時でもオマエの隣にいるから」

 たとえ、俺がディルに必要とされなくても、俺は生涯一番近くでディルを守るよ。


 俺がそう言うと、ディルは泣きそうな顔で笑って。それでーー。


「だ、か、ら、こんな場所で押し倒すんじゃねぇーっ!!」

 結局いつものように、俺に殴り飛ばされたのだった。

副題「4#隣の特等席」(溺愛10題)。

えーと、なんだろう。最後が耐え切れなくなりました。私が。

……結局オチをつくってしまった……。

案外、ディルと紅竜は仲良しな気がします。

喧嘩友達、というか。年齢的には近いのかな?

(2012/11/02)

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