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Routes 1 -リンカ-  作者: ひまうさ
素直になれない10のお題
24/33

3#…おまえなんか。

微妙に前回からお茶会が続いています。


 ディルはいつも俺に「我儘を言え」という。だけど、俺はそれを言われるたびに、どうしたらいいかわからなくて困るんだ。


 俺はずっと人様に迷惑をかけない生き方をずっとしてきたから、といえばそれまでだけど、ここに連れてこられてからもう十分我儘を叶えてもらってる気がする。


「武闘大会に出たいんでしょう?」

 そりゃあ、世界中の猛者が集まる大会だ。心躍らないと言えば嘘になる。だけど、その間にもしもディルに何かあったら、俺は俺を許せない。


「別に」

「出ることは無理でも、見てみたいんじゃありませんか?」

 ひと目みたいといえば、たぶんこの馬鹿王子はあっさりと連れて行ってくれるだろう。だけど、それじゃ、駄目だ。


 俺は俺に問いかけてくるディルの顔を見上げた。宥めるような口調だけど、実際の所ディルは泣きそうな目をしているんだ。こんなの、ほうっておけるわけないじゃねぇか。


 腕を伸ばして、その頬を両手で俺は挟みこむ。


「行かねぇっつってんだろ」

「……リンカ」

「今度言ったら、ぶっとばすからな」

 止めに頭突きを食らわせてから、俺はディルに背を向けた。


(……やべ、今がお茶会の最中で、サフラン姫とアリシア姫がいるの忘れてた……!)

 好奇心で目が輝いている二人の姫の視線に、耐え切れずに俺が視線を床に落とすと、肩に軽く何かが乗った。それから、首筋をくすぐる柔らかな金の髪と心地良いシャンプーの匂い。すぐにそれがディルと知れたけれど、俺は動けなかった。


「…………」

 俺だけにしか聞こえないように囁く声は、魔力を帯びて、この部屋どころか王宮全体を覆ったことだろう。世界が静寂に包まれ、俺はディルが時を止めたことを知る。


 いくら膨大な魔力の持っているディルとはいえ、ここまでのでかい魔法を使える時間はわずかだ。しかも、解除の方法が馬鹿げてるんだ。


「……リンカ……」

「ったく、なさけねーこといわせんな。俺は俺のためにいかねぇっていってんだ。もし俺がいない間に、ディルがかすり傷ひとつでも負えば、俺は俺を許せねぇ。だから、いかねぇだけだ」

 俺がディルの頭を押しやりつつ振り返って笑ってみせると、ディルはやっぱり泣きそうで。でも、目尻を下げて笑う顔は少し可愛いなんて、俺も思えるようになってしまった。


「俺はずっとディルのそばにいるって決めてんだ。だから、あんまりそーゆーこと言うな」

 マジで行きたくなったらどうしてくれる、と笑いながら俺はディルの口に、己のそれを軽く重ねた。


 とたんに世界に音が戻り、ディルの体が崩れ落ちる。いくらディルでもここまでの魔法を使えば、体力まで削られる大魔法なのだが、解除方法が俺からのキスっていうんだから馬鹿げてる。


 二人の姫には俺からディルにキスをしているのが見えたから何やら騒いでいるが、俺はそれどころじゃない。座り込んで体全体で深呼吸を繰り返す青い顔のディルに向かい、俺は笑顔で立てた親指を下へと向けた。


「ワガママ言えっつーなら、この解除方法をなんとかしやがれ」

「ふふふ」

 笑みだけを返答で返された俺はディルに近づいていって、その胸倉を掴みあげた。


「……この変態っ!」

「リンカ相手なら、それでも」

「っ、馬鹿王子っ!」

「はい」

 俺がどれだけの言葉で罵倒しようが詰ろうが、ディルは怒ることなく嬉しそうに笑う。それは俺がこうして自分から近づいてくるのが嬉しいからとかって理由なのは知っているが、こうも流されると俺も疲れる。


「……おまえなんか……っ」

 いつもの台詞を続けようとした俺は、もう一度我に返った。そして、そのまま手を話すと、王子は大きな音を立てて床に落ちたのだ。


「すごいですわね、あのディルを掴み上げるとか」

「でっしょー? でも、一番すごいのはやっぱり二人共周りがすぐに見えなくなることよね」

 いつの間にか元の席に戻って、俺たちを肴にお茶会を愉しんでいる姫たちを前に青くなった俺は、迷わずベランダから飛び出した。ここは二階だが、普通の宿屋の屋根程度の高さでは、俺には大した高さとはならない。手すりに手をかけ飛び降りようとした俺は、それより早く誰かに抱え上げられた。俺を抱えた誰かはそのまま落ちずに、空中へ留まり、室内に優雅な礼をする。


「僕たちはこれで失礼致しますが、お二人はごゆるりとおくつろぎください」

 もちろん、こんなことをするのもできるのも、世界で唯一ディルぐらいしかいないだろう。というか、普通はしないだろう。俺は、おまえさっき魔力を使い果たしたんじゃねぇのかと睨みつけるが、ディルの回復が早いのもよく知るところである。いろいろと破天荒な守護精霊に要求しているらしいが、破格の精霊の対応には驚きしかない。そのことはまた別の話として、だ。


「あんま無理すんじゃねぇよ、ディル」

 庭に降りてから俺がディルの首に両腕を回して肩に顔を埋めるなんてしんてしてしまったのは、やっぱりその体が心配になってしまったからで。柔らかく抱きしめ返してくれる力強さに、俺は小さく安堵の息を吐いた。


「リンカからどうしても我儘を聞きたかったんです」

「だから、さっきの解除……」

「それはダメです」

 しかし結局、そんなことをしたらリンカからのご褒美がもらえないでしょう、と平然と言い返すディルの鳩尾に、俺が即座に拳を叩き込んだのは言うまでもない。

裏的に「溺愛10のお題より#3#それが聞きたくて」

えーと、うん。

リンカはわかりにくいけど王子大好きです。

だから、嫌いとか実は言えなくなってる。

城に来る前は言えたはずなんですけどねぇ。


今回の裏設定。

王子はリンカを見つけてから、リンカのために作った無駄な魔法の解除方法を体のどこかにキスしてもらうことにしている変態さんです。

でも、それをリンカには「口」にするようにしか言ってないっていう(笑

えーどうしよ、考えるほどに王子が変態になってゆくー。

でもたーのしーなー(え

(2012/10/26)

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