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Routes 1 -リンカ-  作者: ひまうさ
外伝
20/33

外伝2#可愛い人

激甘、微えろ?

たぶん15禁程度です


まあ、直接的ではないですが…

 キィンと何かが弾かれる音がして、僕ははっと目を覚ます。

 傍らには眉根を寄せた厳しい顔をしている少女が、雲しかない窓の外の空を睨みつけている。


 少女は真っ白な女神の正装をしていて、背中の中程までようやく伸びた髪は白いベールと花冠で飾られ、その他は何の装飾もない。

 それでも、彼女――リンカは僕にとって誰よりも美しい女性だ。

 リンカが女神の眷属でなくても、おそらく僕は同じことを思うだろう。

 だって、リンカが美しいのは外見のせいではなく、硬い鉱石のような内面の強さからくるからだ。


 僕と出会ってからゆっくりと磨かれたリンカという名の鉱石は、既に万人が軽く目を細めるほどには輝きだしている。

 だから、僕は早くリンカを閉じこめてしまいたかったのだが。


 僕はリンカの腕を引いて抱き寄せる。

 だが、それでも僕の女神は険しい顔で外を睨んだままだ。

 かすかにリンカの淡い桜貝色の唇が動くのが見える。

 僕、以外の誰かに向けて。


「リンカ」

「黙ってろ」


 姿をどれだけ女性に見えるように飾っても、リンカの男言葉はとうとう今日まで直らなかった。

 二人で居るとき以外はきちんと使っているようだから、僕は特にリンカを注意を促したことはないが、シャルダンや姫は度々指導しているようだ。


 僕からすれば、気を許してもらえている気がするから、別にそのままでも構わないが、シャルダンが言うには叔母上に見せる弱みとなってしまうからだそうだ。


 僕のためというのなら、行儀作法で時々リンカがシャルダンや姫といるのは構わない。

 だが、今日ぐらいは僕だけを見ていて欲しいものだ。


「リンカ」

「あぁ?……っ!」


 無理矢理にリンカの顎を僕に向かせ、口を吸う。

 張りつめているリンカの神経がだんだんと柔らかくなって溶けてしまうのがわかっても、まだ僕は執拗にリンカの中を蹂躙し続ける。

 かすかに開いた目で僕がリンカの頬に暖かな紅が差しているのを確認するのと、彼女の正拳が僕の鳩尾に食い込むのはほんの少しの差だった。


「い、いきなりするな!」


 リンカは照れ隠しに笑っているが、しかし逃げずに僕の腕の中にいてくれるのは嬉しい。

 以前なら、この時点で反フィートは離れているのだから、たいした進歩だ。


「そんなこといわれても」


 リンカはとても可愛いからと僕が口にすると、リンカは首から上全部を赤く染め上げる。


「ば、か……」


 リンカの振り上げた拳が軽く僕の胸に当たった後、珍しく彼女はそのまま腕を滑らせて抱きついてきた。

 こんな風になってくれるまで、本当に時間がかかっているだけに、僕は嬉しくてリンカを抱きしめる腕に力を込める。


「バカップルがいる……」


 低い虚ろな声でいうのは僕の信頼する幼なじみであり、時の第二大臣にまでなったシャルダンである。

 その後ろで姫が温い微笑みを浮かべ、さらに後ろの影にカークが控えている。


「さっさと出てくればいいのに」


 三人がいることを僕はわかっていたけど、リンカが可愛い反応をしているのを、今日ぐらいは見せつけるのも悪くないと考えていたんだ。


「あーはいはい、式の前にあんまりイチャつかないの。

 リンちゃんのお化粧も落ちるわよ」


 姫はリンカを気づかうように近づいてきたが、リンカが僕にしがみついたままなのを無理矢理にはがすつもりはないらしい。

 最初から姫はリンカを気に入っていたようだけど、最近はますますリンカを強く味方してくれるから、僕も助かる。

 女性同士の問題に僕が手を貸すと、リンカのためにもならないから。


 と、急にリンカが僕から離れて、扉の影に控えているカークの元へ駆けてゆく。

 リンカは入口でカークと二言三言話してから、シャルダンを振り返った。

 縋るような目で。


「シャルダン様、その……」


 リンカが何を言いたいのかはここにいる全員がわかった。

 そして、そんなリンカを見て思うことも同じだろう。


「いいよ。

 カーク、行け」

「別にシャルに断る必要はないわよ。

 カークだって断れないって」


 今にも泣き出しそうな、限界まで下がった眦に縋る瞳、それに見てわかるほどの信用。

 どれをとってもひどくそそられる可愛らしさだ。


「たしかにそうだけど、お前らが言うな」


 怒りたいような泣きたいような情けない顔のシャルダンを、僕は姫と二人で笑う。

 これがいつもの光景で、ずっと続く姿だ。

 そんな中で、リンカだけが笑っていないのは、彼女がシャルダンとカークにだけは自分の立場を弱く考えているから、笑うに笑えないのかもしれない。


 僕の婚約者と決まった時から、すでにリンカは彼らの上にいるはずなのだけれど、それでもシャルダンとその執事に敬意を払うのは、シャルダンの人徳の成せる技ということだろうか。


「カークは、そんなことないと思います。

 シャルダン様たちが居なかったら、たぶんお……私の頼みなんてあっさり断りますよ」


 リンカは真剣な顔で言うが、頼んでいるときの自分の顔を鏡で一度見た方がいい。

 あれで断るようなら、よっぽどの理由だろう。


 困った顔のリンカを僕は招き寄せ、自分の膝に座らせる。


「リンカ、自覚が無いようだから言っておくけどね」


 あんまり他の人に可愛い顔をしたりとか、可愛いことを言ったりとかしないでくれ。

 抱きしめたくなってしまうから。


 どう反応したものか困っているリンカの小さな額に、僕は軽く音を立てて口付ける。


「このバカップルはこのまま馬鹿親になりそうね」

「いやいや、わからないぞ。

 ディルのことだから、子供に嫉妬するんじゃないか?」

「そうなったらそうなったで面白そう」

「……姫……」


 長い長い鐘の音が聞こえたあと、姫がはっと気がついた声をあげた。


「あ、そうだ。

 時間よ、二人とも」

「そうだ、それで呼びに来たんだよ!

 急げっ!」


 ひどく慌ててシャルダンが言う。


 そんな二人をリンカと二人で笑い、僕は彼女を抱えたままでいつものように魔法を唱える。


 今までいた僕の豪奢な部屋から、一転して石の回廊が続く大扉の前にいても、リンカは驚かなくなった。

 リンカの姿はどこにいても眩く見えて、僕は隣の女神に自然と膝を折る。


 リンカは僕を見下ろし、満開の向日葵みたいに笑って言った。


「こういうのは一日一回だけだぞっ」

「はいはい」

「はいは一回っ」

「はい」


 よし、と満足そうに頷くリンカの手をとり、僕はその甲に口付ける。

 それから立ち上がり、リンカの頭を胸に引き寄せ、旋毛にひとつ。


 この儀式が終われば、リンカはやっと僕のモノになり、僕はやっとリンカのモノになれる。

 その誓いをたてる扉が重い音を立てて開いてすぐ、祝福の歓声が僕らを包み込んだ。




――了

読了有難うございます。

王子とリンカの結婚話はお気に召しましたでしょうか?


なかなかゴールにたどり着かない二人を改訂中に、くっつけてみた短編でした。

(当然、友人からは本編の催促がありました(笑))


書いた年に、友人が式を挙げたり、私もプロポーズされたりと、今になるとイベント満載の年に書いたなあ……

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