#7 会いたい
NAITEAシステムは他のソフトに比べて格段に重かった。
こんなにダウンロード画面を見せられることもそうそうないからヤキモキする。
待望のダウンロード完了が表示されるや、ソフトウェア起動が始まる。
リロンリラントゥルリラ~
警戒な電子音とともに起動画面が表示された。
「NAITEAシステムにようこそ。NAITEAシステムは専用プロジェクターと併用することで、最大限のアシスタントサービスを提供する教育的支援システムです。プロジェクターのシリアルナンバーを入力してください」
「えっ……」
プロジェクターは壊れてるんだよ、新しいのはまだないし。
俺は説明書のページをめくる。
目次を見ては、該当しそうなページを開き、を繰り返す。
「トラブルシューティングかな……、ヘルプ……、こんな時には、みたいな」
書いてない、書いてない、書いてない。
新規で開始する時は購入したプロジェクターのシリアルナンバーを入力。
一度利用を停止したユーザーが再開する時は、使用するプロジェクターのシリアルナンバーを入力。
使用するプロジェクターを変更する時は、新しいプロジェクターのシリアルナンバーを入力。
プロジェクターが壊れたかなと思ったら、サポート窓口から新しいプロジェクターを発注しよう! そして、新端末が届いたらプロジェクターの変更手続きをしよう!
「くそぅ……っ……、新しいプロジェクターがないとダメなのかよ……っ」
ポケットから取り出し、机の上に並べられていた事故番号のカード、そして、壊れたプロジェクター。
途方にくれた俺は、ただ、それを眺めていた。
分厚い説明書はパラパラとひとりでにページを繰り、あるところまで行くと止まった。
何気なくそのページを見る。
『はじめに.』
NAITEAシステムはプロジェクター端末を利用した3Dアシスタントエージェントだ。
仮想世界の技術革新が進むほど、現実との間に深く広がっていく溝。
2050年当時限界かと思われていた仮想と現実の乖離を埋めるのに、ニュートリノは最適だった。まさに天啓だった、と言われている。
形のない仮想な情報と、現実を繋ぐ、「限りなく無に近い粒子」。
プロジェクターはニュートリノに電気情報を投射することにより、ニュートリノを媒体とした、自由自在で多機能な3Dアシスタントを出現させることを可能にした。
どこかでも聞いたような賛美文句を流し読みながらページをめくる。
アシスタントの名前はユーザーが自由に設定出来る。
だが、そういうのを面倒がるユーザーにはありがたい、開発者側が用意したモデルネームが七種類設定されている。
男性アシスタント用モデルネーム、アル、ギル、ウィル。女性アシスタント用モデルネーム、シリ、ミリ、リリ。無性アシスタント用モデルネーム、テラ。この七種類だ。
NAITEAシステムで使用しているAIソフトウェアの元となる、会話認識型支援システム「Speech Interpretation and Recognition Interface」に敬意を示してのモデルネーム設定だという。
俺のミリも、両親がこのモデルネームから選んだ。
パタンッと説明書を閉じ、手を机上に力なく転がした。
俺は椅子の背に身体を投げ出して、天をあおぐ。
「待つしかないのかよ……急いで帰ってこないで、プロジェクター探して店回れば良かった……」
とは言ったけれど、プロジェクター現物を置いている店はそうないし、ミリなしであちこちの店を探して回るなんてのは、非効率過ぎて現実的ではないことも分かっていた。
待つといってもせいぜい数日だろう。
必死になって手段を講じなくても、新しいプロジェクターを手に入れてるはずだ。
「……やっぱり俺、おかしいのかな……。こんなにもミリに会いたくて仕方なくなるなんて……。ミリ……」