#6 ミリ
西暦2050年、ニュートリノ研究に画期的な発見がなされた。
電荷を持たない限りなく無に近い素粒子、ニュートリノは、逆に電気情報を荷すことで、捕え、自由に操作し、使用出来ることが証明された。ニュートリノに電気情報を乗せるという革新的な技術とともに。
その無限の可能性は世界レベルで管理され、倫理的制約も課しながら、各種研究が進められている。
その中でも、一番早く、簡単に開発が進んだのが、AIアシスタント研究である。
2050年当時、世界中の先進国では少子高齢化が進み、司法・立法・行政の三権も高齢者に支配され、高齢者優位の社会構造が強化されていた。それにより、少子化は進む一方、教育レベルも低下、わずかばかりの使えない若年層では増え続ける「贅沢な高齢者」を支えきれるはずもなく、人類文明は破綻する、と言われ始めていた。
そうした時代背景ゆえに、ニュートリノ研究で主導的位置にあった日本とアメリカの研究者は、最も早く世界に研究の成果を示し、人類に希望をもたらし、無限の研究に十分な資金を集めるには、と考えた。そして、選んだのがAIアシスタントによる教育システムである。
既にアメリカを中心に開発が進んでいたAIアシスタントソフトウェアの電気情報を、日本で発見された技術でニュートリノに乗せるだけ。既存の技術に多少の調整を加えるだけで良いこのアイディアは大成功をおさめた。
『人類の輝かしい後継者一人一人にオンリーワンの教育を』
資源のニュートリノは無限にあったし、先進国では少子化が進んでいたため、あっという間に普及した。
NAITEAの普及により、若年層を取り囲む社会構造も大きく変化し、高齢化社会も、それが抱える問題も少しずつ解消されてきている。
「えぇっと……説明書! 説明書! 確かこの辺の棚にっ」
帰宅するなり書棚を探す。
大体のことがデータで済むから紙媒体なんて家に殆どない。
すぐ見つかるとは思ってたけど。
「なんだよっこれ……っっ! めっちゃ分厚ぇぇ」
ミリはバックアップデータをサーバーと同期しているから、プロジェクターがなくても家のコンピューターから呼び出せる。でも、プロジェクターに頼り過ぎて、もう何年もコンピューターからは『NAITEAシステム』を起動していない。
案の定、起動を受け付けて貰えず、ソフトの再セットアップを要求された。
「えぇっと、俺のIDを入れて、NAITEAソフトの最新ヴァージョンをダウンロード、と」
他にもアシスタントサービスはたくさんある。
それを使えばもっとスムーズに出来るのかも知れない。
けど、使い慣れていないから、自分でやった方が早い気がした。
たかだか、ソフトのセットアップなんだ。