#24 Love
「みんなは、どんな風に考えて、結婚っていうゴールに向けて進めてるのか……実は知りたい」
そう言いきってから目線を上げると、真っ直ぐ自分に向けられる三人の顔とかち合った。
うわっ。なんだろ、この感覚。
「結婚はゴールなのか? 通過点だろ、卒業後のことを考えたら、次のライフステージのスタートでもあるし」
「ヒラタちん、言うねー。タドコロが言うのは、さっき言ってた卒業までに相手を見つけなくちゃっていう意味でのゴールだろ?」
「それこそ、ミワが言ってた歯車的思考じゃね? 俺は卒業したら結婚しなきゃいけないから相手を探してるっていうよか、人生のパートナーを探せるのは今だから探してる」
「おぉ。また男前な発言を。ヒラタちんこそ俺を惚れさせてどうしたい」
「もうそのネタいいわ。ユウキも自分が、じゃなくて世の中が求めるから結婚する考えなのか?」
「……そう言われると、そうなのかもしれない。……だからか、俺はタドコロの言うことに結構共感できる」
ヒラタと対話していたユウキが、俺に遠慮がちな笑みを見せた。
あ。なんか。
ユウキのこの表情、嬉しい。
「まぢかっ! 本気かよぉーっっ! え? お前ら男の熱情というか本能というか、そういうのが女に向かわないのか?!」
「ヒラター、声大きーい、女の子に聞かれたらヤバいやつー、ヤメテー」
すかさずミワがヒラタを窘めた。
この二人、本当に絶妙だ。
そう感心していると、ユウキがミワに向けて姿勢を正した。
「ミワちんはどうなの? お前が一番進んでるだろ。ミワもミワが女の子を求めてそうなったのか?」
ミワは頬杖をついたまま一度首を傾けると、目を閉じてから溜めた言葉を吐いた。
「んー。なんか言いづらくなっちゃったけどー」
そして、ぱちっと目を開くや言葉を続ける。
「俺は、世の中の求めに応じて歯車的に相手を選んだだけかな。だから、正直俺もよく分かんないよ、ヒラタが言いたい概念のことは。あれだろ? タドコロさんやユウキが知りたいのは。『LOVE』。ただ、相性があるってのは言えるかな、一緒にいる時の感覚が全然違うから。まぁ、それは男でもある話だけど」
「どんな感覚?」
思わず聞いていた。
大人びた表情で口を動かしていたミワは、俺の問いにまた悪ガキっぽいにやにや笑いを浮かべた。
「ほわわぁ~んって力が抜けて落ち着く感じ。悪ぃねぇ、俺って何事もソツなく淡白なタイプみたい」
そう答えて、ふわっとキノコ頭が揺れる。
「激しいのはヒラタに期待しましょ。な、ヒラタ」
「そーは言っても、俺はまだ見つけられてないからなぁ。もしかしたら俺の思い描くものは幻想なのかもって失望がよぎることもある」
「ヒラタ、弱気になる、って笑うから。まだ始めたばっかりじゃん、探してれば見つかると思うよ? 過去の文学にも音楽にもあんなに残されてるんだからさ」
「ミワ~~っっ」
キノコ頭に触れようとするヒラタの手を、ミワの頬杖をついてない方の手がビシッバシッと叩き払う。
なんだよミワぁ、頭ガシガシさせろよぉっと笑いながら挑戦し続けるヒラタ。
させねぇわ、と頬杖をついたまま笑うミワ。
二人のやりとりにユウキと俺は声を出して笑っていた。
その、笑い声のほんの隙間に、俺の耳は確かに聞いたんだ。
「結局誰も分かってないのか」
そう呟いたのはユウキの声だった。




