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#20 必要ないもの

「次の授業終わったら昼休みか、タドコロって昼飯は?」

 

「いつも学食」

 

「俺も。じゃ昼飯も一緒に食お? で、一端解散か」

 

 

 廊下を移動する人影はだいぶ少なくなっていた。

 俺はユウキと、今度は二人横並びで歩く。

 

 

「さっきの……」

 

「ん?」

 

「女の子たち、良かったの? もっとゆっくり話していかなくて」

 

「あー、いいのいいの、十分。……もしかして気ぃ遣わせた? 悪ぃ」

 

 

 謝られてしまった。

 予想外の展開にその事実だけが反響する。 

 謝られてしまった。

 俺は気を遣ったんだろうか?

 俺がどうだったかは良く分からないけれど、ユウキに気を遣われたのは確かな気がする。

 

 

「……」

 

 

 考えたけれど、言うべき言葉が見つからなかった。

 話しやすいといっても、人と(・・)こうやって(・・・・・)話すのは初めてなんだ。

 

 

「女の子とは、そこまで話し込まないことになってるんだ」

 

 

 何も応えない俺の代わりに、ユウキが言葉を続けた。

 

 

「サクマの名前に期待されると面倒なことにもなるからって。まー、実際話しててあるかな、とは思う」

 

 

 極めてサラッと言われたせいか、すんなり腑に落ちてきた。

 そうなんだろうな。

 そう思ったら、何も考えていないのに、言葉が口をついて出て来た。

 

 

「モネの話って何? 趣味の話? ユウキ、絵画とか見に行っちゃう人?」

 

 

 出て来た声は、自分で思っていたより軽快で楽しそうだった。

 あぁ、俺って、こんな風に話すんだ。

 ちょっとした驚きとともに、ふんわりと思い出す。

 ミリと話す時の、休憩時間、放課後の自分。

 へぇ……。全然違うじゃん。

 

 ユウキが爽やかな笑顔でモネの話を始める。

 俺はそれに楽しく耳を傾ける。

 

 ミリは(・・・)人間(ひと)じゃないから。(・・・・・・・)

 

 三時限目の部屋までの移動と、休憩時間と、俺らはくだらない雑談をした。

 趣味の話とか、好きなものとか。

 意外とそれだけで時間が消費されていく。

 

 NAITEA(ナイティー)システムが普及してから、俺たち(・・・)は他人と接する機会が著しく減った。

 学校教育終了後の社会でも、人間同士が直接対面するような機会は稀だからだ。

 殆どの人間が、生まれてから死ぬまでの間に人間関係を構築するのは家族(・・)だけだ。

 両親と、婚姻相手と、子どもと。

 対人スキルなんて大して無くても人生を全うできる。

 サクマユウキみたいな奴の方が珍しい。

 必要のないものを、無理に習得する必要はない。

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