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#2 いつも一緒

 aVEBO(アベボ)の前の通りは人でいっぱいだった。

 

「やっぱり平日でも混んでるなぁー、この時間帯。俺、こーゆースペースあんまり知らないからどうも苦手」

 

 人混みは慣れだとも聞く。

 けど、ヘタレな俺はついミリに愚痴が漏れる。

 

「来るなりもみくちゃにならないだけ、マシじゃない? ほら、前に全米チャート入りアイドルの新曲リリース日に」

 

「来ちゃった時な! あれはスゴかった! うっかりミリの手を放しちゃって、身動きは取れないし、押し潰されるし、死ぬかと思った」

 

「私は大丈夫だって言ってるのに、トオルが周りの人を押し退けようとするから余計押されたんだよ」

 

 お姉さんの教育的指導、といった感じの冷静なトーンでミリが言う。

 こういう時、俺に勝ち目はない。

 

「あんなの始めてだったからパニくったんだよ……。手を繋ぎさえすれば良かったって言うんだろ?」

 

「そうですっ。何回もそう言ってるのに、トオルってば全然聞こうとしないんだもん」

 

 思い出しても冷や汗が出る。

 建物の壁際まで押し流されていたミリを助けなきゃって、必死で圧に抗って人混みを押し退けた。

 慌てる俺に「手を」ってミリが呼び掛けてるのに、

 ミリが押し潰されないようにって、両手は折れそうなくらい壁を押さえてた。

 勢いに負けてミリに覆い被さってしまった時、いつもと違う、左耳からミリの声が聞こえた。

 

「トオル、優しいトオル。私は大丈夫だから、トオルが怪我をしてしまうから、私の声を聞いて。聞こえる? トオル、このまま、ただ、手を繋いで。私の手を、握って」

 

 思い出したら、恥ずかしさにいたたまれなくなってきた。

 ミリにあんな風に言わせてしまうとか。

 ミリはきっと俺より良く覚えてるはずなのに、全然気にする素振りなく、いたずらっぽく笑っている。

 俺はそっと呟いた。

 

「あの時は、本当ゴメン。もう、次は放さないから」

 

 ミリの手も、ミリの声も。

 反省を示す俺に、いつものようにミリが微笑む。

 

「そ。こうやって、手を繋いでさえいれば……私はトオルと一緒だから」

 

 左手と繋がれている俺の右手に、もう一方の手、右手を添えると、ミリは両手を胸元に引き寄せた。

 いつものように?

 少なくとも俺はいつも通りではなく、その仕草にドキッとした。

 俺の顔ではなく、俺の右手に目線を落として微笑んでいるミリ。

 騒ぎだした鼓動がどんどん早まっていく。

 

「え、なに? そーゆーことも……するの?」

 

 どぎまぎして、つい、聞いてしまった。聞いてすぐ、しまった、と思った。

 何を聞いているんだよ俺は。

 ミリの大きな瞳が再び俺を捕えている。

 

「あ、いや、えっと、……びっくりして。今の質問は、忘れて」

 

 慌てて質問を上書きする。

 返事代わりなのか、しっとりと微笑むミリを後目(しりめ)に、俺はaVEBO(アベボ)の中へと入って行った。

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