#14 置いてきぼり
互いの時間割を見比べた時、俺とサクマユウキは2つの授業で相席することになっていた。
こっちの授業でも一緒になるね、とお互いに喜んだ。
が、それはほんの一瞬のことだった。
待って、これとこれも俺受けられるかも、とサクマが自分の時間割を変更し始めたのだ。
俺はビックリするしか出来なかった。
サクマユウキという人間が想定外過ぎて理解できない。
サクマとそのクラスメイトのオオヌキ、ハカマダが軽快に会話を続けていたあの直後もそうだ。
サクマが言ったのだ。
「じゃあ、紹介も済んだところで、悪いけど二人で話させて。言っただろ? 今、俺、口説いてるとこなんだって」
その時のサクマの表情は、結構な真顔に見えた。
「オーケー、オオヌキは俺が引き受けるよ。ほら、語彙力変態、大人しく俺と無駄話しとこう」
ハカマダはそう言いながら椅子にちゃんと座り直すと、前を向いた。
オオヌキはまたチラッと俺を見る。
こっちも真顔だ。
そして多分俺は固まった愛想笑いのままだ。
2秒と経たずに目線を戻したオオヌキに、サクマはにっこり微笑んだ。
皮肉っぽいニヤリ笑いを返して、オオヌキも椅子に座り直した。
前を向いて、サクマと俺に背を向けたオオヌキとハカマダは、二人で親しそうに話し始めた。
二人が現れてから、結局一言も話せなかった俺は、完全に置いてきぼりだ。
で、愛想笑いがひきつり始めた俺に、サクマが言ったんだ。
「も一回タドコロの時間割見せて。ほら、この授業、俺のにも組んである!」
そこから、こっちの授業でも一緒になるね、のくだりへと戻る訳だ。
正直俺にはよく分からなくて戸惑うだけだった。
なんでサクマはこんなに俺と話したがるんだろう?
既に数えきれないくらいの「友達」がいて、なに不自由なく好きなことを楽しんでいる(らしい)。
基本合同授業を受けないような俺と、わざわざ親しくなる必要がどこにあるんだろうか。
なんで時間割を変更してまで、俺と一緒の合同授業を受けようとするんだろう?
そりゃあ、気が合う相手がいれば、合同授業が気楽なのは俺でも分かる。
だけど、サクマにはどの授業にも気の合うクラスメイトがいるはずだ。
オオヌキやハカマダみたいに遠慮なく話せる仲の「友達」を遠ざけてまで、新しい「友達」を口説くことに意味なんてあるんだろうか。
なんでそんなににこにこ嬉しそうにするんだろう?
会って三回目の、自分の名前すら覚えていなかったような、気が合いそうってだけの相手に。
気の合うやつとの合同授業は楽しいって言ってたけど、まだ楽しいと感じられそうなことは何一つ起こっていない。
俺は愛想笑いをひきつらせていただけだ。
「よっしゃーぁ! 四限と五限以外タドコロと同じ授業にした。たくさん話して仲良くなろうぜ。俺のことはユウキって呼んで」
窓から射し込む朝の日差しを背に浴びた、キラッキラな笑顔だった。
――――戸惑うしかなかった。