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あなたの名前は……

「あなたの名前は初光よ。読み方はファーストライト」

 お妃様が言いました。彼女は生まれたばかりの皇子を抱いています。

「待て待て待て。私たちの子どもが将来恥ずかしがるような名前をつけたらいけないよ」

 若き帝が首をぶんぶんと振りました。

「我が国の正統的な名前をつけてあげないと。万十郎助左衛門がいい」

「いけません。あなた様こそ、皇子が自己紹介もできないようなお名前をつけようとなさっているわ」

 お妃様はその勝ち気な目を帝に向けました。

 気弱な帝は一瞬口ごもりましたが、黙っているわけにはいきませんでした。

「妃よ、私の名前は千十郎助左衛門なんだが……。私は自分の名を誇りに思っている」

「埃に思っていらっしゃるのね」

「漢字がちがーう!」

「では甘林檎ではいかが? 読み方はアップルパイよ」

「却下だよ……。きみのセンスを疑う……」

 怒りっぽいお妃様がキイーッとわめきました。

「わたくしの名前は蜜柑汁と書いて、オレンジジュース。あなた様は初デートのとき、甘くその名を呼んでくださったわ。このすてきな名前の進化形なのに、却下なのですかっ!」

 帝は超カワイイ外見のお妃様にぞっこんだったので、確かにやさしくその名を呼びました。でも内心では変な名前、と思っていたのです。フラれるのが怖くて、そんなことはおくびにも出さなかっただけ。

「オレンジジュースは素敵な名前だ……。女の子なら、そういうのもいい。でも男の子だよ。長男だよ。私の次の帝になるかもしれない子だ。せめて林檎助左衛門にしてくれないか。読み方はカタカナじゃない。りんごすけざえもんだ」

 帝はお妃様の目を見ないで、微妙にうつむきながら言いました。

「ではわたくしも妥協いたします。林檎助左衛門でいいですわ。ただし読み方はアップルヘルプレフトエモンです。これは譲れません」

「いやいやいや。それだけはやめてあげて。わけがわからなくなっているから。よし、助左衛門から離れるよ。シンプルに林檎でどうだい?」

「アップルと呼んでいいですか?」

「だめ……」

 帝は懸命に否定しました。伝統ある倭の帝としては、カタカナ読みを受け入れるわけにはいきません。

「きみの最初の提案を受けよう。皇子の名は初光だ。ただし、はつみつと読む」

「むうーっ、ちょっと嫌ですけど、仕方ありませんわ。ハツミツでいいですわ」

「ひらがなだよ」

「仕方ありませんわね」

 お妃様は唇を尖らせていましたが、「はつみつちゃん……」と我が子を見つめながらやさしく言いました。皇子は母親似の可愛らしい顔をしています。

「役所へ皇子の名前を届けてまいれ。名は初光だぞ」

 お妃様の気が変わらないうちにと、帝が小姓に命じました。

「はいっ」

 ハラハラしながら帝とお妃様のやりとりを見守っていたおっちょこちょいの小姓が役所へと走りました。

 彼は初光のふりがな欄にまちがって「はちみつ」と書きました。

 稀代のプレイボーイはちみつ皇子と蝶々姫の恋愛譚はまた別の機会に……。

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