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白雨の雲

作者: 綾瀬夏

1200字(Word換算) お題:駐車場 アイスティー 雨


 俺はコンビニの軒下で一人、とある女性を待っていた。

 五月も後半に差し掛かり梅雨に突入したのだろう。今日も白雨によってうっすらとしか日差しが差し込んでいない。

 このコンビニは人がごった返す都内の駅前から一本路地に入ったところにあり、その女性が待ち合わせしやすいからと指定してきた。小さめの駐車場には車ひとつなく、人通りも駅前と比べると圧倒的に少ない。確かに人探しをしない分、待ち合わせにはうってつけだ。

 先ほどコンビニで買ったアイスティーを口に含む。アイスティーはカップの半分ほど入った氷で程よく冷えていた。ミルクとガムシロップは入れなかったので渋みだけが口いっぱいに広がる。

「はぁ…」

 ぼんやりとため息をついた。

 この場所を指定した女性――島原魅音とはかれこれ二年付き合っている。

 今年の二月の誕生日には水色のスマホケースをプレゼントしたのだが、このスマホケースが俺の不安を増長させることになった。

 その不安とは……浮気だ。

 大学三年の時に知り合った俺たちは今年の四月からお互い新卒として、俺は建設関係、魅音はアパレル関係の会社に入社した。以降、何度食事に誘っても「今忙しいから」、「丁度立て込んでて」の繰り返しで、一向に会う機会がなくなった。

 不安になった俺はある日、魅音のSNSを覗いてみた。

 幸い大学時代から使っているSNSのアカウントを今も更新していた。以前、魅音にSNSを辞めると伝えたことがあったが、アプリを消すのを忘れていて俺のアカウントはそのまま残っていた。

 過去の記憶を頼りに魅音のアカウントを探すと、ものの五分で見つかった。魅音のアカウントには鍵マークが付いており、魅音が承認したアカウント以外は投稿が見れないようになっている。

 恐る恐るスマホに当てた指を前後にスライドする。

 何件か遡ると、魅音と数人の男女が写っている写真が投稿されていて、魅音の右手に握られているスマホは俺のプレゼントとは異なるスマホケースで着飾られていた。

 この時、俺の猜疑心は最高潮に達した。

 今日無理やりデートを約束したのは、その確認が目的だった。もし浮気していることが事実だったら別れよう、と俺の心は固まっていた。

 覚悟を決めていると俺が来た方向から魅音が急ぎ足で歩いてきた。

「ごめん!ちょっと遅れちゃった?」

 息を切らしながら黒のキャップを頭に乗せた魅音が上目づかいで尋ねてくる。

「いや、俺も今来たとこだよ」

「っていうか、ずっと会えなくごめんね!最近は上司や同僚との付き合いで時間がなくなっちゃって……」

しゅんと肩を落とす魅音は深刻そうに謝罪してきた。右手に握っているスマホは俺がプレゼントしたスマホケースに包まれている。

 アイスティーの中で固まっていた氷がシャリと音を立てて崩れた。

「いいよ、忙しかったなら仕方ないし。それより今日はどこに行く?」

 俺は彼女を傘に入れ、コンビニの駐車場を後にした。

 空を見上げると、分厚い雲が完全に日差しを遮っていた。

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