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手まりの森(第一章)  作者: 羽夢屋敷
3/29

序 ~終わりのはじまり/ 03~

〝六つ鳥居惨殺事件〟の謎を追い、禁忌の森に足を踏み入れた雑誌記者 佐伯一郎。

 森の奥で、生首の霊が撮影された『手まり堂』を発見し、その中を覗き見るが、堂の中には得体の知れない何かの姿が…

  挿絵(By みてみん)



 扉の隙間から見えるその先に先ほどの人の姿は無くなっていた。


 慎重に内部をくまなく探ってみるが、視界に入ってくるのは、古びた壁面の隙間から差し込む数本の微かな外光と、その光に照らされてぼんやりと浮かび上がる無数の美しい〝手まり〟だけであった。

「おいっ!……誰かいるのか?…………神山か?」

 返事はない。

――堂には裏口があった――という館長の言葉を思い出し、堂の裏方向に回って行くと、左側面の一番奥のところに七~八○センチ程度の高さの小さなにじり口を見つける。

「ここもか……」

 見つけた片引き戸の中央には、正面扉にあったのと同じ札が貼られており、見るからに〝入るべからず〟というオーラを漂わせている。堂内への侵入を諦めた俺は、再びお堂の周囲を探索する事にする。


 手まり堂が建っている敷地自体そもそも狭く、堂の裏手も人ひとりが歩けるほどの範囲が歩道として若干整備されているだけで、その周囲は鬱蒼うっそうとしたやぶになっていた。

 古びた建物には所々隙間が生じており、俺は堂の背面を移動しながらその内部を覗き見し、先ほど遭遇した人物を視界に収めようと躍起になる。

「中にいたヤツ!……居るなら返事しろっ!」

 恐怖心の裏返しで飛び出てしまった必要以上に大きな声が辺りに響き渡る。

 だが、やはり返事はない。


――気のせい?……いや、確かにハッキリ見えたはずだが……疲れのせいか?


 圧し掛かってくる不安感を必死に抑え、俺は気を取り直して再び堂の前面に回ってみる。

 手まり堂と真正面に対峙し、再度全体を俯瞰で眺めてみるが、建物の左右に一~二メートルほどの空間が見られるだけで、他に眼に入るのは、お堂の手前左側に生えた一本のなぎの古木だけだった。

「……雨も来そうだし、とりあえず一旦戻るか」

 俺は、今しがた遭遇した〝何か〟の記憶を強引に無かったことにするかの如く、小走りで元来た階段の方へと足を進めた。 

「?……何だこれは?」


  挿絵(By みてみん)



 階段を降りようとした俺の眼に、来た時は気付かなかった妙な物が飛び込んできた。

 上りの角度では気付かなかったのだが、石段のすぐそばの地面に、道の幅程度の間隔をあけて二つ、ポツン、ポツンと四角い〝石版〟が置かれている。石版の中央には見たことのない〝小さな記号〟が描かれており、よく見ると地面に若干の窪みが見うけられることから、石版が幾度となく置き外しされている事が見てとれた。

「何かのフタかな?」

 石版のサイズは厚めの野球ベース程度で、簡単に動かせそうである。

 俺は抑えきれない衝動にかられ、これを持ち上げてその下を確認する。

「何だ?……この穴は……」

 石版の下に現れたもの、それは直径十五センチほどの円筒状に掘り抜かれた穴であった。

 穴の奥は薄暗くハッキリとは見えないが、底部に砂利のような物が敷き詰められている。

「何かを入れる穴?……だろうか?……」


     『カカッ!!』


 上空で雷の音が鳴り響いた。それに呼応するように辺りは急激に暗くなる。


 沸き出す衝動は、速まる鼓動をねじ伏せた。俺は、反対側の石版も同じように確認する。

 現れたのは同じように円筒形に掘られた「穴」であった。

「……何かを立てていた?」

 なおも穴の中を観察していると、中に煙草の吸殻ほどの〝小さな黒い破片〟が、いくつも散乱している事に気づく。

 俺は慎重に穴の中に手を入れ、破片の一つを取り出した。

「木………焦げた木の破片だ」


『むああああっ』と、突然、後方から異様な気配を感じる。


 反射的に振り返り、気配の先、梛の木の方に眼をやる。

視界には何も入らない。だが「確かに何かがそこにある」ことを本能が感じ取っていた。

俺は最大限の注意を払いながら、慎重に古木に近寄っていく。

「?……ここ………何か埋まっているな……」

 正面からは木の陰で見えづらかったが、梛の木の脇に枯れ木と枯葉がこんもりと積んである部分、〝意図的に何かを埋め隠しているような部分〟がある事を発見する。

 俺は手近に落ちていた太めの棒を拾い上げ、その小山を崩していく。

「………井戸?」

 姿を現したのは、薄汚れた小さな井戸であった。

 井戸は、木製の分厚い板で封がされており、板の上にはボーリングの玉ほどの楕円形の石が置かれていた。石には先ほど見た石版にあったのと同様の記号が施されている。俺は、わけのわからない衝動に突き動かされるままに、その石に手をかけた。


『………………ヤ…………………メ…………………ロ………………』


 井戸の奥の藪からすり潰したような男の声が聞こえ、俺は暗闇に眼を向ける。




「!」





  挿絵(By みてみん)


 視線の先に現れたもの……物?……嫌、人?………

 俺の思考は一瞬で静止し、体は凍りついた

「何だ?どうなってるんだ!………動けっ!………動けってチクショウ!」


 その異様な何かは、ゆっくりと、だが、着実にこちらに近付いてくる。俺は懸命に体を動かそうと四肢に命令を出し続けるが、全ての神経が断線しているかのように、俺の身体は前のめり状態のまま、ピクリとも反応しない。気付くとその〝人型をした何か〟は、俺の眼の前、わずか一メートルほどの所まで近寄ってきていた。

ソレはしばらく俺をじーっと見つめていたが、すーっとこちらに手を伸ばす……


『ガガーーーーーーーーン!』


 一本の落雷が梛の木に落ちた。

 俺は衝撃で後方にはじけ飛ぶ。

 はっと目をやると、眼前に居た〝異様な何か〟は消え失せていた。


『ザザーーーーーーーーーッツ……』


 突然、石つぶてのような大粒の雨が森に降り注いだ。

 俺は転げ落ちるように階段を駆け下ると、神社を素通りし、脇目も振らずに森の出口に向かい走り続けた。

「何なんだ!……一体これは、何なんだ!」

 俺は土砂降りの雨の中、うわ言のように同じセリフを繰り返しながら、宿に向い全力でペダルを踏み続けた。




  *********

 



 降りしきる雨の中、古びた番傘をさしてこちらを伺っている宿の婆さんの姿が見えた。

どこをどう走ってきたか、全く記憶には無かったが、日暮れ前に何とか宿に辿り着く事ができた俺は、安心のあまりに婆さんの前で力尽き、ぬかるみで自転車ごと横転してしまう。

「す、すいません。自転車……ドロドロにしちゃって……」

 俺の言葉を遮り、婆さんが真っ青な顔でわめきちらした。

「なに呑気なこと!あんた!……その血!……一体どうしたんね!?」

 婆さんに言われ、自分のシャツに眼をやると、どこかで大量の返り血でも浴びたように、シャツは〝誰かの血〟で真っ赤に染まっおり、泥水と混じって異様な状態を見せていた。

「これ…………誰の血だ?………」

 血だらけの自分の姿に狼狽する俺に婆さんは人差し指をきっと向け、こう告げた。

「なに馬鹿なこと言いよっと……鼻じゃ!……あんたの鼻から血ぃが出とるんじゃっ!」

「???」

 俺は自分の鼻に右手を当ててみる。

 殴りつけるように頭上に降り注ぐ水滴とは確実に異なる〝生暖かい濃厚な液体〟が瞬時に手のひら一杯に広がる。液体は手首から下方へ流れ落ち、まるで赤い蛇が高速で上腕を伝っていくように奇妙な軌道を描きながら、地面へと吸い込まれていく。

「あ、あんたその血の出方……は、早く止めんと!……えれぇ事になる!」


 

 婆さんの必死の呼び掛けを最後まで聞かぬうち、俺は泥の海へと崩れ落ちた……



             (つづく)

~あとがき~


前回お知らせした「手まりの森」の『アナログカードゲーム』についてですが、

4/25日から、某ゲームのネット販売コーナーにて展示~販売を予定しておりましたが、

運営サイドより「販売が4/27以降になる」との連絡がありました。

(それまでは「売り切れ」状態で展示されるとの事です)


もし、入手を検討されておられる方は、

恐れ入りますが4/27以降に再度ページの方をご確認ください。


また今回、

同じく〝Jホラーを題材にしたアナログゲーム〟という事で

『トイレの香夜子さん』

というゲームも少数ではございますが出展しております。


ホラー好きなお方は、是非、こちらも観てみてください!


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