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手まりの森(第一章)  作者: 羽夢屋敷
28/29

序 ~見えざる世界/ 14~

福岡での独自調査で、

事件に関連する様々な物証を入手した火野。


幾多の情報が組み上がるとき、

そこにどんな真実が見えてくるのだろうか?


  挿絵(By みてみん)





    8月 6日  16時50分。


 「乗車券を拝見しますよー。お客さん、起きてくださいー」

 列車の中でうたた寝をしていた火野は検札で回ってきた車掌の声で目を覚ました。

 火野は慌ててシャツの胸ポケットから少し曲がった切符を車掌に差し出す。車掌は流れる様な動作で切符にパチンと穴をあけて次の客の方へと足早に去って行く。

 チンチキ、チンチキ……という小気味良い金属音と、パチン!パチン!という小さな炸裂音が演奏会のように静かな車内に響き渡っている。


「また寝てしまったのか……」

 体の方がよほど疲れていたのか、車窓を流れる景色を観る内、火野はいつしか睡魔の誘惑に落ちていた。目をしばしばと強く開け閉めし眼球に〝起床〟の号令を送りながら火野は荷棚に乗せたカバンのベルトに巻いた腕時計に焦点を合わせる。時間は五時を回った所だった。


「もう乾いてる頃だろ……」

 火野はカバンを手元に降ろし、中から古部邸で掘り出したノートを取り出す。ビニールに穴が開いていたのか結びが緩かったのか、開封直後は霧吹きをかけたように湿っていたノートは、若干弛んではいるが完全に乾いていた。ノートの表紙中央には大きく、


――かぞくのおこずかいちょう――


 と、子供が書いたようなかわいらしい文字が並んでいる。


「アキの字かな?……」

 それまで緊張していた火野の表情が少し緩む。火野はそのまま若干パリつくページをゆっくり開いていく……



――みんなでがんばっておこずかいをためましょう!ふぁいと!ふぁいと!――


――1点30円。10点こえたひとはぼーなす100円ついか。――



 表紙の裏には大人の文字で家族全員に向けた応援のような言葉と、その下には簡単なルールのようなものが書かれている。平仮名が多いのは末娘のアキにも読めるよう配慮しているからと思われた。


「この点数は?……何かのゲームの点数かな?……」


 ノートの初めのページには上部の余白に〝7月〟と明記があり、その下に家族7人全員の名前が横並びに書かれている。父「正造」の下には『正』の字、母「八重子」の下には『T』、他は、姉「照美」以外の全員に『-』の文字が振られ、正の下には『150円』、Tの下には『60円』、-の下には『30円』と記されている。お金の表記の下には横一直線に棒線が引いてあり、端には『とくてん』の文字、棒線の下には全員の得点の集計が数字で示してある。


「〝正〟の字集計だな。合計、1,5,1,2,1,0,1……何かのゲームでお小遣いを決めてるのかな?」


――さすがはお父さん。なんと150円です!照美は今月はざんねんでした。来月はもっとがんばりましょう!(母)――

☆げんざいの全とくてん=11点☆


 ページの最下部には結果に対する寸評のような言葉と、現在の全員の総獲得点が書かれている。ページをめくると次ページの上部には〝8月〟、その次のページには〝9月〟とあり、どのページも基本的なつくりはみな同じで、「正の字」、「お金」、最後に「寸評と合計得点」という体を成していた。

 一見するとノートは家族が何かを競争して小遣いを決めている、ほのぼのしい〝家族団らんの記録帳〟のように映る。


「こんなノートに一体何があるっていうんだろう?」


 火野はノートを閉じると慎重にそれをカバンに押し込んだ。





 *********


    8月 7日  10時30分  東洋大清水研究室。


 「とんでもない!この6人は罪人じゃないですよ。逆……はめられたんです。幕府に」

 清水は声を荒げた。

 

 朝早く東京に到着した火野は、駄目元で打ち合わせ時間を早められないかと清水に相談の電話を入れた所、「ならすぐ来なさい」となり、2時間前倒しで会合が始まっていた。先の電話で清水は〝巻物は既に解読済み〟だと語り、興奮気味に「巻物には現代には全く伝わっていない江戸時代の隠蔽事件が描かれている」と力説していたが、火野の来訪と同時に始まったその歴史解釈は確かに聞いたことがない唖然とするような内容であった。

 長机の上に乗った12枚の巻物の写真を前に清水の熱弁が続く。


「つまり、6人は病気の治療を妨害した罪で斬首刑になったという話は嘘だと?……」

 資料館の館長との話の食い違いに戸惑い、火野は清水の解説に口を挟んだ。

「いや、嘘という訳ではないんです。建前上〝そういう事になってしまった〟という話ですね。この場合」

 清水はそう言って巻物後半の斬首シーンに書かれた古文を指差す。

「ほらここ『医療妨害により斬首刑に処す』って書かれてますから。もし、これを資料として公開するのであれば、おそらくそういったタイトルがつくんでしょう。……ですからその館長が言った事が違うとか正しいとか、そういう話ではないんですよ」

「はぁ」

 きょとんとした火野の表情を見て、清水は一度咳払いする。

「この巻物……本当に興味深いです。今迄の歴史書とは全く違う事柄が書いてあるんです。これが事実だとすると、とんでもない一大事ですよ。これは。」

「一大事……」

「この巻物、天保七年に描かれた代物なんですが、この時期はどういう時期だったか知ってます?えーと、1836年です」

「1836年………ああ。……飢饉ですか?」

「そう。天保の大飢饉の後半って所ですね。……この飢饉の原因、何だと思います?」

「いやー、そこまでは……」

「一般には〝悪天候が続いた為の大凶作が原因〟とされてるんですが、この巻物……実に面白い」

「面白い?」


「〝疫病が原因だ〟と書いてあるんです。しかも外国から入ってきた」


「外国の……疫病?」

「主な症状は〝微熱〟と〝下痢〟なんで、死に至る恐ろしい病気って訳ではないんですがこの疫病の厄介な所は〝治らない〟って所だったようで、結果、まともに農作業を行える人間が激減していったとあるんです。そして面白いのはこの部分、この単語です」

 そう言って清水は古文の中の一箇所を指し示す。


「暗陥疫……あんかん……えき?……」


 読み方が分からず火野は首を傾げる。

「始めてみる言葉なんで正確な読み方は私も解りませんが、〝武器〟として〝病原菌〟が使われていた事が当然の事のように書かれてるんです。〝特定地域の損壊を目的に研究〟とはっきり書いてあるんですよ。……いやしかし、江戸時代ですよ……全く驚きです」


 清水は若干こわばった表情でなおも続ける。


「この冒頭の死体に集まる研究者のシーンですが、ここにある長い文章の前半に書かれているのが当時の飢饉の状況。そして後半のここ、〝この渡来の暗陥疫に対抗し新たな元菌の研究を開始せん〟とあるんです。これが村人が全滅した原因なんです」

「?……全員が病気になった?」

 火野の分かっていなさそうな反応に清水の動きがせわしなくなる。

「つまりー」

 清水は火野の真横に接近し、その耳に顔を近付けて内緒話でも伝えるように告げる。




『投薬実験をしたんですよ。村人を使って……』




 火野はゾッとして思わず後ろに飛び退ける。

「じゃぁ、これ、最後に首をはねられてる6人の行商人は……」

 斬首シーンの描写を指差して問いつめる火野に清水は呆れ顔で答える。

「行商人!?……違いますって、この6人は感染を免れた蝦見糸村の〝医師団〟ですよ。彼らは焼き討ちの一ヶ月前に、同じような症状の病気を克服した村に視察に出ていたんです。この絵のここ〝須我尊徳率いる医師団六名視察の為村を出立〟とあるでしょう」


「尊徳!?……そんとく…………どっかで見た記憶が」

 火野はハッとしてカバンの中から佐伯の手帳を取り出しページを送る。

「尊徳、尊徳………あった!」



―――――――


○古部亜紀に関する術後所見(報告書)

 ※1938 12/10 舟越沙奈江が作成

・12/3

 →アキから切除した尊徳の御心体を『祓衆』本部に運び

  陰陽術式を施す


―――――――



「尊徳の御心体……尊徳は名前……………!てことは!!」

 いきなり大声を出した火野に驚き、今度は清水が後方に半歩後ずさりする。

「〝尊徳の御心体〟がアキの腫瘍………つまり、アキに憑りついていた怨霊ってのがその尊徳だって事か……」

 ブツブツと呟く火野を横目に清水は説明を再開する。

「この医師団が村から出るにあたって、幕府は様々な妨害をしたようですね。ですがそれらを振り切って彼らは目的の地に到着し〝魍魎病〟の特効薬を手に入れたとあります……〝もうりょう〟とはまた……何とも気味悪いですが……」

「魍魎病なら知ってますよ。蝦見糸の供養碑にありましたから」

「そうですか。……いやしかし……つまり、秘密裡に隔離状態にあったようですね。この村自体が………そして予想に反して医師団が余計な物を手に入れて村に帰って来てしまった……」

「でも、それだけで斬首刑なんかになるんでしょうか?」


 清水は火野をちらっと見ると、村人達が無残に火の海でのたうつ場面の最後の画像に添えられた文章を指差して説明する。


「タイミング悪く、彼らが村に帰ったのは焼討ちが実行された直後だったんです。それで直訴したんですよ。〝藩主の黒田影成が治療法が無いと偽って病気を蔓延させた〟とね。ですが大元の首謀者は幕府ですから……まぁ、なるようになってしまったんです……」

「酷い話ですね」

 静かにうなずく清水。

「でも話はこれでは終りませんよ。着目すべきは巻物の最後の数行です」

 メモを取りながら話を聞いていた火野の手に力が入る。清水は文章を読み上げていく。


「刑の執行直後より斬首実行させし大名家に首の怨霊現れ一族に災いをもたらさん。また、この霊に近付く者、この霊を見る者、この霊の話する者、全て邪気にあてられん」


「……これって」


「そう。……ごろんぼうの祟りの始まりです」


 清水はその最後の一文の少し前の文章を示して補足する。

「それから、ここの部分も控えておくと良いでしょう」



〝尊徳無念の余り血涙を流しその首切断されしもしばしの間怒号止むことなし〟




 *********


  13時05分  集敬社 第三企画室。


 「いやー火野君。元気にしてたかい?……ああ、独自取材、ご苦労様ねっ!」

 入口の扉を開いた火野をいち早く発見し、デスクはその良く通る地声を響かせた。

 一週間ぶりに出社した火野に仲間たちの視線が集まる。


「おー火野ー。元気にやってたかー」

「自腹で取材って、俺らでもせんぞ。そんな事ー」

「火野君、随分焼けたんじゃない?」

 皆一様に火野を心配していた事が、その反応からわかる。


「えと、……皆さん長いこと休んでしまい、ご迷惑おかけしました」


「お前が休んだ如きで迷惑かかる三室じゃねーぞ~」

 火野の言葉に誰かが反応し、どっと笑いが起こる。

 デスクがニヤニヤと笑いながら近寄り、持っていた領収書をぴらぴらと鼻先で動かす。

「火野くーん。ちゃんと領収書、取って来てるでしょうね~?……福岡くんだりまで行って、ぐるぐる取材したらエライ事になってるでしょ?調査費?……」

「あ、ええ。それはもちろん……本当にありがとうございます。今回の処置……」

「そりゃ私も鬼じゃないですからねぇ。というより、君の給料知ってるし……無茶でしょ、あなた」

 再び部署全体がどっと沸く。火野は苦笑いしながら後ろ頭を掻く。


「そうそう、ちゃんとキミの注文通り用意しといたから。8ミリの映写機。いつ使う?」

「ありがとうございます!なら、今すぐにでも」

「OK、OK。……野崎~、ちょっと顔貸してくれー」


 デスクは映像系に詳しい野崎に声をかけた。


 火野はカバンからフィルム缶を取り出すとそれを野崎に手渡す。野崎は缶の蓋に差し込まれたタイトル紙をおもむろに引き抜き、それを裏返す。

「〝蝦見糸地区神隠し事件、事情聴取Nо.6〟……何かの事件の調査フィルムだね」

「え、え、え!?……そんな所に文字が」

 火野は驚いて目をしばしばさせる。野崎はニッと笑って説明する。

「たまにあるんだよ。こういうの。……あまり人に知らせたくないような資料ではね」

 デスクも意地悪そうな笑みで火野の反応を観察している。


――神隠し事件って……蝦見糸地区で200人位の人が行方不明になったアレだよな……その事情聴取って………これ、凄い資料なんじゃないか?――


 否応なしに火野の鼓動は高まる。それまでニヤニヤと火野を見ていたた二人だったが、こちらを全く気にせずフィルム缶を凝視する火野の真剣な眼差しに気圧され、互いに顏を見合わせて表情を固め直す……

 3人はフィルムを手に早足で映写室へと向った。




 野崎は手際よく機材をセッティングしていき、ものの7~8分で映像の再生準備を完了させると、最後尾の電灯以外の部屋の電灯を全て落とした。


「じゃぁ、再生させますよ」


 バチンという無骨な電源音が部屋に響く。カタタタタタ……という古めかしい機械音が流れる中、前方に準備したスクリーン上にモノクロの映像が浮かび上がる。


――蝦見糸地区大量失踪事件・事情聴取-第6回-<1942年7月14日>――


 画面に書き文字でタイトルが表記され、数秒後、おもむろに画面は事情聴取の場面へと切り替わる。

 カメラは3畳程度の狭い取調べ室を斜め上から撮っている固定カメラで、取調官の後ろ側から事情聴取される相手の様子を確認するようなアングルが取られている。

 画面が一旦真っ白になり、書き文字で対象者の〝名前と年齢〟が表示されると、すぐさま画面は取調室の映像に戻り、事情聴取の様子が流れ出す。

 取調べの内容は、取調官から提示された日時に被疑者が「どこで何をしていたか?」を細かく確認していくというシンプルなもので、調べられる対象によって日時は微妙に違うものの一人あたり大体10分程度の聴取が流れ作業の様に進んで行った……


「これ、あとどれ位あんの?」

 開始30分も経たない内に、デスクが野崎に質問する。

「このフィルムだと2時間分はないでしょうから、おそらくあと1時間位ですかねぇ……ああ、私、お茶でも貰ってきますわ。火野はちゃんと見てろよな」

 野崎は気を効かせて部署の方にお茶を取りに戻った。



 同じような質問と同じような答えが延々と繰り返される中、デスクが堪りかねて火野に愚痴り出す。

「火野くーん。これ、本当に重要な証拠品なの?眠くなるほど同じ感じなんだけど……」

「デスク、そりゃ火野が可哀そうですよ。……コイツだって観るの初めてなんでしょうからね。このフィルム。……それにこの量だとそろそろ終わりですから」

 野崎が火野をフォローしつつデスクをなだめる。


「あ、そ。終わるならいいんだけどさ……」

「あっ!止めて!……一旦止めてください!」

 デスクの言葉に被るように火野が声を上げた。野崎は慌てて再生をストップする。


「なんだよ火野?どしたの?」

 画面は〝古部正造〟と明記された映像で一時静止している。

「古部です……六ツ鳥居事件で死んだ一家の……アキの父親がこれら喋るんです……」

 火野の説明にデスクの表情から笑みが消えた。



 スクリーンには取調官が二人、一人は古部とテーブル越しに対峙して座り、もう一人はテーブルの横にカメラの方を向いて立っている、という状況が映し出されている。

 取調べは他の被疑者同様、所々に他愛のない談笑なども入り、和やかに進んで行く。

ところが話が「大量の人間への被害」という話題になった辺りから、古部の様子に変化が表れる。返答の所々に異常な速さのすっとんきょんな声色が混じり、その度に取調べ官はギョッとするのだが、声色が変わったかと思うとすぐに元通りの冷静な反応に戻ってしまうのでどうにも注意ができない。二人は明らかに異常事態が起きている事を感じ取ってはいるものの、動揺を隠しつつ話を進めている様子だった。

 そんな流れの中、テーブルの横に立っていた取調官が言った『今は戦争の事が大事やけんこっちはどうもねぇ』という言葉から状況は急変する。


『なんちゅうたおまえ』


 突然、古部がその取調官を睨みつけ、まるで伸びたカセットテープの音声の様な不気味な声で彼に文句を言いだしたのである。


『おまえなんちゅうまえたおまえな。あーーん!』


 取調官は慌てて言葉を取り繕うが、気が動転してうまく返答ができない。

「いや、別に悪気があって言う取るんでは……そうではなくて、今ん時期が……」



『カアァーーーーーーーーーーーーーーーッ!!』



 古部は突然奇声をあげて立ち上がると、何かに取り憑つかれたようにわめき始める。

 その言葉は、動物の声とも機械音ともとれるような、どう聞いても人間の声とは思えない身の毛もよだつ音質で発せられ、聞くものの耳に突き刺さる。


『我ワ憎シミノ権化ナリ!……ナリッ!……権化ナリッ!』


『災イヲ成ス者ナリッ!………ナリッ!……災イ成スッ!』


『復讐ノ権化ナリッ!……権化ッ!……復讐ッ!……権化ッ!……復讐ッ!』



 二人の取調官はそのあまりの異様な光景に言葉を失い、棒立ちになっている。 

 カメラに気付いた古部は、カメラの方を向いて恐ろしい形相で吠えた。



『一族数百人ノ無念、我ラ六人ガ思イ知ラセテクレルッ!』


『我ラ六人ワ決シテヌシラヲ許サナイッ!』


『未来永劫、決シテ許サナイッ!』



『死ヌノダッ!!……ミナ死ヌノダァーーーーーーッ!』

 古部が絶叫しながらカメラに飛びかかり、彼のアップ画面で映像は静止、そこでフィルムは終了した。


 真っ白なスクリーンを見つめたまま無言で佇む3人の横で、フィルムの切れた回転リールが「カツカツカツカツ……」と乾いた音を発し続けている。


 静寂を破り野崎がデスクに話しかける。

「やらせ……とかじゃないですよね。コレ……」

「……………………。」

 デスクは顔をこわばらせて真っ白な画面に目をやったままピクリとも動かない。



 火野の頭の中で、突然「神隠し事件」の情報がぐるぐるとまわる。

「災い……復讐………大量失踪……………」


 何かに気付いた火野は、カバンの中から〝古部家のお小遣いノート〟と佐伯の手帳を取り出す。火野はノートのページをちぎれんばかりの勢いでめくり進め、あるページで突然動きを止める。



  ――――――――――――――――――――

 <6月>

合計、7,7,7,7,7,5,7


『今月はみんなであいであをだしてがんばったのでごうけい47点もとれました!(母)』

『みんながんばったので7点ずつわけます。照美はすこししっぱいしたから5点(父)』

『ひどーい(照美)』


 ☆げんざいの全とくてん=173点☆

  ――――――――――――――――――――



「6月に47………これ……どっかで見た記憶が……」

 火野は、今度は佐伯の手帳のあちこちのページを確認する。

「6月……47……6月……47………6月………」


「!」

 手帳をめくる火野の手が止まる。



  ――――――――

 〇6/21

  :

  :

  所長の話

   :

   :

  ・奇妙な失踪事件が多発→2年で200人近い「神隠し」

 (※1962年6月→園児バス47人が突然消える事件アリ)

  ――――――――



火野は再びノートを手に取り、そこに書かれている数字を凝視した。

「……47人……………47点」


火野はページに書かれた数字と家族の感想に目を走らつつ、あちこちのページを見直す。

ノートを持つ火野の手がワナワナと震えだす。


「この神隠しって………まさか………」 



「火野!……おい!……鼻血!!」

 突然、デスクが火野の方を指差し大声を上げる。

 火野が自分の左手を鼻先に持っていくと、ぐっしょりとした生暖かい感触が返ってくる。 

「お前それ……すごい量だぞ!……ここ、このままでいいから部署に戻ってすぐ横になれ、横に……」

 デスクはありったけの気力を振り絞って火野に指示を出した。野崎はどうしてよいか分からず、真っ青になって二人の様子をおろおろと見ている。

 

 口元を片手で覆いながら、火野は小走りに部署の扉をくぐり、どさっと談話コーナーの椅子に身を投げる。


「古部一家……狂った家族達……6人の医師団…………そういう事だったのか……」


 テーブルのティッシュを大量に引き抜き、口元と手元の血を素早くふき取ると、火野は残りのティッシュを丸めて鼻腔にねじ込みながら考えを整理する。



「火野さーん。丸尾って人から電話入ってますよー。」

 状況が全く分かっていない若い新人が、部屋に駆け込んだ火野に明るく声をかける。


――丸尾?……あの人、一体どこからかけてんだ?――


 火野は、どう探しても行方が掴めなかった丸尾からの突然の電話に苛立ちを覚えながらも、素早く席に戻り受話器を受け取った。


「お久しぶりです。火野です」

「火野か?よかった………お前今、体調はどうだ?」

「?……体調ですか?……悪くはないですが、今鼻血が」

「鼻血!?……首は!?………ガガ―ッツ……ガガガ―ッツ」

「首?………丸尾さん、なんか雑音が……」

「……の…ガ―ッツ……ガガ―ッツ……の………い…で……ガガ―ッツ…」

「丸尾さん!……聞こえませんよ、丸尾さん??」


「……舟越……ガ―ッツ……ケイコだ!……ガガッ……ケイコを訪ねろっ!……ガ―ッ」


「丸尾さん!?……ケイコって、舟越無一の娘の?」

「プツッ!………プ――ップ――ップ――ップ――ッ……」


 電話は切れてしまった。



 会話を聞いていた前の席の同僚が、青い顔をして火野に手鏡を向けている。


「火野君、その首………何?その線…………」


 鏡を覗き込み火野は愕然とする。

 そこにはくっきりと、2センチほど太さの赤黒い一本のラインが写りこんでいる。

 それはもはやアザというより一種の図柄のように強烈な自己主張をしていた。

 火野の全身から記憶に新しい嫌な汗が噴き出す……



「……嘘だろ…………………」




 火野はその無慈悲な刻印を凝視したまま、

 今にも爆発しそうな鼓動を必死でおさえていた。




              (つづく)


(あとがき)


~あとがき~


いよいよ次回は最終話です!


最終話はあらかじめ投稿日程を決めて、

ジャストタイミングで配信したく思います。


<配信日時>

2021.7/22(木曜)

22:00

※更新予約単位が1時間単位であったため時間調整しました!!

(あしからず……)



ホラー好きなお友達への情報拡散大歓迎です!


それでは

22日の22時に……



(羽夢屋敷)

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