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手まりの森(第一章)  作者: 羽夢屋敷
20/29

序 ~見えざる世界/ 06~

佐伯が最後までコンタクトを取ろうとしていた祓衆。

事件の調査にあたり、火野は祓衆のメンバーである

「葉月」に最初の的をしぼる。


火野の挑戦が始まる……

 

  挿絵(By みてみん)



   --- 怨 念 ---





 8月 1日 6時45分  京都駅前広場ベンチ。   


 今にも雨が降り出しそうな曇天だった。

 京都駅の駅前広場を行きかう人はまだまばらで、この時間は夜遅くに店舗から出されたゴミを漁るカラスと、ベンチに座っている人間に媚びる青い鳥の天下だ。

 早朝に京都に到着した火野は、売店で買ったあんぱんを口にほおばりながら、A4紙片に太字のボールペンでぐしゃぐしゃに描かれた「ジョン・ベイダー」の殴り書きメモをじっと見つめていた。

 先日の朝、会社に連絡し「しばらく休養したい」と告げた火野に対し、デスクの反応は予想以上に優しかった。「どっかの温泉でも行ってきなさい」と、いつものすっとんきょんな口ぶりで即答され、火野には1週間の休暇が出されていた。


 「クルッポー、クルッポー……」


 いつの間にやって来たのか、3匹の鳩があざとくチラチラとこちらを伺いながら火野の足元をウロウロと徘徊している。火野は食べていたパンの端を少しちぎって遠くに投げる。

 鳩たちは、何日も食事を取れなかった餓鬼がようやく食べ物にありついたかのような勢いで「われ先に」とパンの方に向い突進して行く。


 ジョン・ベイダーの殴り書きのメモには、三角屋根が付いた正方形とその底面に土台が付いた『お堂』のような形が描かれており、堂の真下には『×』印の記号が乱暴に記されている。さらに、建物の下には地面を表しているのであろう一本のヨコ向きの線が入っており、紙面の下側2/3を使い『人間の顏らしき物』が無数に描かれている。繰り返し見ているが、それは何とも言いようのない気味の悪い絵であった。


 挿絵(By みてみん)


「ここにその『絶界の札』があるって事だよな」


 佐伯の最後の言葉が『ここで札を探せ』というものだった事から、このメモの場所、つまり「手まり堂の下を探せ」というのが佐伯のメッセージであるのは容易に想像がついた。

 だが、その絶界の札なるものが果たしてどういう物なのか、火野には全く見当がつかない。

 火野が京都に来たのは、札の情報を一番持っていそうな男『葉月』に会うためであった。


 足元に目をやると、鳩たちが懲りずにまた群がり出している。

 ――こんな意地汚い奴らが平和のシンボルとはな……――

 火野はカバンにメモをしまいながら顔をしかめた。




  11:03。


 曇天は更に深さを増し、昼間だというのに気持ちの悪いうす暗さになっていた。

 腕時計が若干遅れていたせいで、火野は11時少し過ぎに喫茶店のドアを押し開けた。


「いらっしゃいませー」

 奥の方から若い女性の声が響いた。


“店に入って左奥、窓側の席”

 火野はあらかじめ葉月に伝えられた待ち合わせの席に急ぐ。


 葉月は先に到着しており、こちらに背を向けて静かに席に座っていた。


「すみません。遅れてしまって……あ、火野です。佐伯の後輩の」

 火野は財布に携帯しているヨレた名刺をテーブルの上に差し出すと、やって来たウエィトレスにコーヒーを注文する。


「佐伯さん……お気の毒でした。……何と言ってよいものやら」

 葉月は低く細い声で、小さく呟いた。火野は軽い会釈でそれに応える。


「手帳を預かったんです。佐伯先輩から。……それで初めて事件の事を色々知ったという具合でして……早速ですが、この絵を見てほしいんです」

 この打合せの後、佐伯の手帳にあった「舟越沙奈江」の実家に足を運ぶ予定を組んでいた火野は、早々に本題に入った。


 火野はジョン・ベイダーのメモが描かれるまでのいきさつとTV局で起こった出来事を駆け足で説明すると、ようやく自分のコーヒーに手を付ける。


「おっしゃる通り、手まり堂の下を探せという意味でしょう………ただ、あそこは非常に危険な場所なので、長時間いるとやられてしまいますよ。身体が……」

 そう言って葉月はこの日初めて火野の方に視線を向ける。こちらを向いた葉月の顏は青白く、心なしかやつれて見えた。


「体だけは頑丈なんで。注意はするつもりです。時間とかも……で、さっき話したお札の事なんですが」

「ああ、絶界の札ですね。呪いを解くならあれは必要不可欠です。……儀式の時に必要なんです。あの札が」


 葉月は再びうつむき加減になり、小さな声で札の説明を始めた。

 複雑な事は分からなかったが、呪いを解くためには六ツ鳥居の森に現在張られている封印を再度〝組み直す〟必要があり、それには「札」と術式の知識がある「祓衆」が必要だとの話だった。


「そのお札ですが……一体どういう物なんでしょう?」

 暫く聞き手に回っていた火野は、一番気になっていた質問をやっと口にする。


「……そうですね。札に描かれている文字は昔の崩し文字ですし、見た事もない代物ならなおさら心配ですよね。……ちょっと失礼」


 葉月はそう言うと、火野の手帳の横に置かれたペンを手に取り、テーブルの端にあったナプキンを一枚取り出すと何やら奇妙な図形を描き出した。


「札の裏にはこの印が書かれてますから、これをお探しなさい」

 葉月はメモ片を火野の前にすっと差し出す。



「お客様、大丈夫ですか?……」



 突然、ウエイトレスが話に割って入ってくる。時計に眼をやると、既に40分が過ぎていた。40分も談話してコーヒー1杯ではさすがに困る、という所だろうか。


「す、すいません。じゃぁ、コーヒーお変わりを……葉月さんは?」


 そう言って前方を見るとそこに葉月の姿は無かった。驚いて立ちあがってしまう火野。

テーブルの上には、ぐちゃぐちゃな記号が書かれた何枚もの紙ナプキンが散乱している。


「ここに居た人はどこに行きましたかね?」


 ウエイトレスはいぶかしげな顔でこう答えた。

「そんな人ははじめから居ませんよ……」



 葉月からもらったメモをつかんだまま火野はしばし呆然とする。



「いや、しかし………こ、このメモは?……」




「独り言を言われながらずっと描いてましたけど………お客様がご自身で」




               (つづく)


~あとがき~


一気に筆を進めており、

ちょっと疲れがたまってきました…


外で少しお酒が飲めるようになった事が

気分転換になり非常に助かります。


せめて10時位までは

飲みたいもんですけどねぇ。。



(羽夢屋敷)

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