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手まりの森(第一章)  作者: 羽夢屋敷
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序 ~終わりのはじまり/ 02~

〝六つ鳥居惨殺事件〟の謎を追い、生首の怨霊伝承が残る禁忌の地「蝦見糸えみし村」を訪れた雑誌記者 佐伯一郎。

 事件が起きた呪いの森に、いよいよその足を踏み入れるが…



  挿絵(By みてみん)



 12時40分。


 資料館を出てしばらく自転車をこぎ進めていると、頭上のはるか奥の方で、ごろごろという低いうなり音が響いた。気が付くとそれまで照りつけていた太陽はいつの間にか陰っており、肌をかすめる空気は生ぬるい湿気を帯びだしていた。

「まさか、また降るんじゃあるまいな……」

 雨の中の忌地探索なぞ勘弁願いたい――という気持ちに急き立てられ、ペダルを踏み込む足に自然と力が入る。

 俺は、目的地に急ぐ子供のように立ち漕ぎを始めると、その体勢のまま森の入り口に構える大きな梛の木の前に自転車を滑り込ませた。


 六つ鳥居の森は、七~八〇〇メートル四方の区域が小山のように盛り上がったところにその全体を覆うように大型の広葉樹が生い茂っている〝見るからに陰鬱〟な森であった。  

 外側から内部へと続く無数の暗がりは、得体の知れない怪物か何かの口の中を彷彿させる。俺は資料館を去り際に館長からもらった森周辺の地図に眼をやった。


 森の入り口のすぐ奥には黄色と黒のロープが張られており、中央には「関係者以外立ち入り禁止」と記された看板が無造作に置かれている。俺はそのロープをくぐり抜けるとそのまま二十メートルほど続く長い石段を登って行く。

 石段を登りきると道は二つに分かれており、地図上は左側が「六つの鳥居」へ続く参道、右側は手まり堂が置かれる『龍頭神社』へと繋がっているようだった。俺は『手まり堂』を調べる為、右斜め上方へと延びる山道を進む。


 道なりに十分ほどいくと、平らに整備されたエリアが広がっており、その奥に古い作りの神社が姿をみせた。神社の手前には一・五メートルほどの木製の円柱があり、そこに荒削りに〝龍頭神社〟の四文字が刻まれている。

「ここが龍頭神社か……手まり堂はこの近くのはずだが……」

 俺は地図を片手に神社の裏側に回ってみる。辺りをよく見ると、生い茂った藪の中に子供の背丈ほどある〝紙垂のついた縄〟が巻かれた大きな岩を発見する。

 岩の裏側には、入り口から続いた石段の半分にも満たない細長い石段が急こう配で上方に続いていた。


 ――この階段は見覚えがあるぞ――


 俺の目に飛び込んできた石段。それは、先だって自分が東京で観た映像にあったものと同じ石段である事がすぐわかった。

 目的地までの経路は頭の中にしっかり残っていた。俺は大岩の横をすり抜け、記憶の映像と周囲の景色を頭の中で重ねつつ先を急ぐ。


「あった!」


 暗く細い階段を登りきると、五~六メートル四方の小さな平地が切り開かれており、その中央に記憶に新しい小さなお堂がぽつんと佇んでいる。お堂の正面に対峙し、そのたたずまいを慎重に観察していると、いやが応もなく東京で見た恐ろしい映像が脳裏に浮かびあがる。

 思わず目を逸らしたくなる衝動を必死で抑えつつ、俺はなおも観察を続ける。


「あっ?」


 お堂に少し近づき正面扉をよくよく調べると、その取っ手付近に〝真新しい札〟が数枚貼られているのを見つけ、はっと我に返る。数日前に東京で確認した映像は〝六年前に撮影された映像〟であり、その時は既に森は封鎖状態にあった訳で、つまり、事件後に誰かがこの封鎖された森に入り、わざわざここにこの札を貼った訳である。


「ここを管理していた神山は行方不明のはずだし……一体誰が?……」


 記憶を整理してみると、それまで気付かなかった一つの疑問が湧く。


 ――北見から授かった札、あれはそもそも死んだスタッフが「六つ鳥居で神主にもらった」って話してたよな――


 ここ数日の間に、あまりにも奇妙な出来事が起きすぎていたからかもしれないが、こんな単純な矛盾に全く気が付いていなかった自分に驚く。

 そういえば、今しがた通り過ぎてきた神社も、作りは古いものの、それなりに清掃が行き届いているような感があり、資料館の館長が言っていた『事件後は誰も近寄らず、神社もお堂も放置状態のはず』という説明とはどうも状況がくい違っている。

「神山が戻っている?………まさか………」

 俺は一旦お堂から視線を外し、階段の方を向き直って大きく深呼吸をした後、自分の頬を両手で二~三度叩いて頭を整理しようと試みる。もし、神山が事件に関わっているのであれば、これほどの事をしでかした後、事件発生現場に戻って普通に生活をするだろうか?否である。

 混乱する頭をかきむしりながら、俺はつじつまの合う回答を紡ぎ出そうとしていた。


「ガタン」


 不意に聞こえた背後からの物音にギョッとしてお堂の方を振り返る。音は完全にお堂の中から聞こえたそれであった。急激に速まる鼓動を抑えつつ、俺はゆっくりとお堂の扉に近づいていく。


「誰か居るんですか?」


 返事は無い。俺は扉に生じた板と板の隙間に片目を近づけた。

「?」

 二センチほどの隙間から内部を確認してみるも、目が暗さに慣れていない為だろうか、真っ黒い状態が見えるだけで室内の様子がまるでわからない。

「何だろう?内側から黒い紙でも貼ってるのか?………………うわっ!!!」


 しばらくその隙間に自分の眼球を押し付けていた俺は、向こう側の『黒色』が、突然ぎょろっと下方に移動し、ぬめりを帯びた『白色』に変わったのを確認し、後方に転がり落ちた。


 ――眼だ――


 驚愕のあまりに、身体がピクリとも動かなかった。

 誰かが内側から同じように隙間に眼球を押し付け、こちらを覗き込んでいたのである。


「ギャーッ、ギャーッ、ギャーッ、ギャーッ」

 どこから飛んできたのだろうか、数匹のカラスが上空で狂ったように叫んでいる。


 俺は勇気を奮い起こし扉の前に戻ると、おそるおそる再度その隙間を確認した。


             (つづく)


~あとがき~


少しだけの書き足しとなりますが、UPしてみました。

関連情報となりますが、実は、同タイトルのアナログカードゲームを今月末に開催予定だった『東京ゲームショウ』にて展示販売する予定でした。


ですが、残念ながら昨今のコロナ騒ぎでイベント自体が中止になってしまい、会場で大々的にゲームを発表する事ができなくなってしまいました。。


当ゲーム以外にも新作をお披露目するはずだったので、本当に残念です…



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