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手まりの森(第一章)  作者: 羽夢屋敷
14/29

序 ~終わりのはじまり/ 14~

佐伯の予想通り、やはり〝祓衆〟の一員であった「葉月」。

その口から、佐伯が持つ謎の『札』の正体が明らかにされる……


  挿絵(By みてみん)



「最初に言ったでしょう、『最近死んだ奴がいる』って……そいつ、新橋の駅前で早朝に〝窒息死〟したんです。人が行きかう中で窒息死って!……ありえないでしょ!」


 興奮して捲し立てる佐伯の一挙一動を厳しい表情で凝視していた葉月だったが、突然、何かに気付いた様子で、その視線を佐伯の脇にあったカバンの方に向けた。


「佐伯さん、そのカバン…………あなた、何か持ってますね」


 刺すような視線を自分のカバンに向ける葉月の様子に、佐伯は少し戸惑いながら答えた。


「ええ、確かに一つ妙な物が入ってますよ………その死んだ男に預かった札がね」


 佐伯はそう言って一度深呼吸し、ゆっくりとカバンを開くと、中から新聞紙にくるまれた固まりを取り出し、それを広げ始める。


「六ツ鳥居の取材に行ったそいつの恋人から預かった物だと言ってましたよ。もっとも、その恋人ってのもとうに亡くなってるんですがね。……その男が言うには、この札を持っていたから死なずに済んでいたと………まぁ、お守りのようなもんですかね」

 

 新聞紙の中から出てきたその札を眼にし、葉月の表情が硬直する。




「こっ…………これは…………『生贄の札』!?」




 葉月は目の前に現れたその「札」を奪うように取り上げ、食い入るように裏表を確認しだす。


「間違いない……これは生贄の札です。………こんな物がまだ世に出回っているとは……この札、出所はわかっているんでしょうか?」


 心なしか葉月の手は震えているように見えた。その緊張感が佐伯にも伝わってくる。


「え?確か、その彼女が取材時に六ツ鳥居の神主からもらったとかだったような……」


「神主?……竜頭神社の神主に?……それはあり得ない!あそこは事件後20年間封鎖されてる場所ですよ………しかしこの札…………どういう事だ?……」


 葉月は目の前に現れたその「札」を再び新聞紙でぐるぐる巻きにすると、ポケットから白い小包を取り出し、中に入っていた粉をその上にふりかけた。


「お守り……ではないんでしょうか?」


 佐伯の質問をよそに、葉月は目を閉じて何やら経文のような言葉をつぶやいている。



 読経は、ほんの30秒ほどで終わった。


「佐伯さん、この札は私の方で預かりましょう。……あなたが持っていてはいけません」

「………つまり、お守りではない?」


 葉月の表情が更に険しくなる。


「お守り!?……とんでもない!………これは『生贄の札』と言って、呪いの封印式に用いる大変危険な代物ですよ。しかも、効果を発揮するほど邪気をため込んでいく……下手をすると禍魂物にもなり得る」


「まがたまぶつ?」

「はい。簡単に言うと、災いをふりまく〝呪いの塊〟といったような物ですね……これを持っていた男は、こんな物騒なものをどうやって保管していたのやら………」

「庭に埋めていたらしいです。自分の家の」


 佐伯の返答を聞き、葉月は「ああ」という感じで何度かうなずいて見せる。


「なるほど。庭ですか……それで直接邪気を浴びずに済んでいたのか……あっ」


 葉月は突然何かに気付いたようにハッとし、新聞紙をカバンに入れるその動きを止めて佐伯の方を振り返った。


「佐伯さん……あなた、これを持ち歩いて一体どれくらいになります?」


 葉月の眼差しの奥に嫌な何かを感じ、佐伯は慎重に考えてから答えた。


「東京を離れる前日からなので………10日間くらいですか」


「10日!………10日ってあなた………あなた、その痣の他に症状は?」

 葉月の過剰な反応に、佐伯の不安感は否応なしに高まっていく。


「一度ひどい鼻血がでました………あとは、たまに痛みが出る位ですが……10日間これを持っていた事にそんなに問題が?」


 葉月は一瞬何か考え込む様子を見せたものの、そのまま新聞にくるんだ札を自分のカバンの奥にしまい込み、入れ替わりにペンを取り出した。


「佐伯さん……あなたのその首の痣、ハッキリ言いますが呪痕ですよ。それは……」

「じゅこん?」

「呪いが発現する前に、呪詛をかけられた対象に現れる兆候です。そしてこの札……私の見立てでは相当な量の邪念が蓄積されてますね。ただ………」

「ただ……ただ何ですか?」

「……ただ、不思議なのは佐伯さん、あなたです。こんな恐ろしい代物を長い間持ち歩いていて、今だに鼻血程度とは………」


 葉月は話しながらウォーターグラスの下に引いてあったコースターを抜き取ると、その裏にどこかの住所を手早く書き記し、佐伯に差し出した。


「比叡山にあるウチの本部の連絡先です。この取材が終わったら、私の名前を出してそこに連絡してください。〝呪詛をかけられた〟と言って」


「祓衆の……本部……」


「ええ。そこなら本格的な清めの儀式が受けられますから………札も預かりましたし今の佐伯さんの状態でしたら、その呪いを抜き去るのも十分可能なはずです」


 葉月は自分のカバンの留め具を確認した後、テーブルの上のペンをカバンのポケットにしまいこんだ。


「わかりました……東京に戻ったら必ず。………しかし腑に落ちません。こんな札をなぜ北見の彼女が持っていたのか。神主にもらったなどと嘘を言ったのか……」


 佐伯の疑問に同意するように頷きながら、その言葉尻に葉月が言葉を重ねる。


「誰に渡されたかはともかく「生贄の札」自体は昔、蝦見糸界隈では相当な数が作られましたから。………ああ、誤解なさらないでください。人を呪う為ではなく、そもそも封印儀式に利用する為に作られていたんです。この札は……」


「封印儀式?」


 余計な事を言った、という感情が葉月の顏に露骨に表われ、その馬鹿正直さに佐伯の緊張が少し緩む。葉月は気まずそうに続けた。


「佐伯さんがさっきおっしゃったように、六ツ鳥居の封印の起源は本当に古いですから、封印が緩むというか……ある時、閉めたフタがズレてしまうような事件が起きたんです。

それで、その時に古い術式から新しい術式に封印術式を変えたのですが、そこで使われたのがこの「生贄の札」なんです」


「2種類の封印を使っていたと………あぁ、そう言えばこの札にそっくりな別の札を知り合いの教授の本で見ましたよ。札の裏側に妙な四角い記号がついていたヤツを」


「四角!……」


「四角の中に『〇』と漢字の『人』みたいなマークがたくさん書かれていて………」

「『絶界の札』ですよ!それは。………我々が作った最強の〝封じの札〟です」


「絶界の札……最強の………???」


「さきほど『封印術式を新しくした』と説明しましたよね………実は、正確には「せざるを得なかった」んです。本来なら〝封印が緩んだ〟のであれば、古来の最強の術式で対応するのが正式な処置だったんですが……」


「?……なぜ、そうしなかったんですか?」

「〝札の作り手〟が居なかったんです。我々の中には既に……」

「作り手……」


 そこまで言うと葉月は厨房の方に顔をやり右手を上げた。

 それに気づいた例のウェイトレスがいそいそとこちらにやってくる。


「私、コーヒーをお代わりしますが佐伯さんは?」

「いえ、結構。……私はもう3杯目なんで……」



 *********





  16時30分 京都駅 3番ホーム



「まさか、自分が他の人間にこんな形で封印の札の説明をする羽目になろうとは……今迄色々と奇っ怪な場面に遭遇しては来ましたが………今回は、何とも不思議な感じです」


 少し引きつった慣れない作り笑いを見せながら、葉月は佐伯に対してというよりむしろ独りごとでも言うかのように、ぼそっと吐き捨てた。


「こちらこそ、見送りまでしてもらう展開になるとは…………あの……身分を装って近付いてしまった無礼……お許しください」


 後頭部をかきかき、すまなそうに陳謝する佐伯に対し、葉月は苦笑いしながら「仕方あるまい」という風に首を左右に軽く振って見せた。


「……いやしかし、一般の人が自力でここまで調べられるとは……正直驚きました」


 いかにも感心されている。という状況に佐伯は若干バツの悪さを感じる。


「調べたというか、偶然が重なっただけですよ……巡り合わせが良かったんでしょう」

「巡り合わせ………ですか……」


 その言葉に葉月は少し考え込むように反応した。


「痛っ……」

 佐伯がうなじの部分に手をやって顏をしかめた。


「!……大丈夫ですか?首……」

 心配する葉月を制するように、佐伯は軽く笑みを浮かべて即答する。


「いや、少しズキッときただけです……先日は何とも無かったんですよ。痛みがあったり無かったりで……」


 佐伯の首の包帯を凝視していた葉月は、不意に自分の襟元のボタンを一つパチンと外し、自分が付けていた何かを佐伯に手渡した。渡されたのは、細い皮紐のペンダントだった。


「これは?」


 ペンダントの先に付いた2センチ程の小さな石を手に取り、佐伯が質問する。


「勾玉。お守りですよ。子供の頃に祖父にもらったものですが……それ、佐伯さんにあげます。」

「まがたま……そんな貴重な物を……いいんですか?私なんかに」



 ――ジリリリリリリリリリリリリ……!――



 列車の発車ベルが鳴り出した。


「東京に帰ったら、必ず祓衆の本部に連絡してくださいよ。今はそれ位で済んでますけど油断ができない状況に変わりはないんですから……」


 葉月はまだ何か言いたい事がありげな様子で、しきりに先頭の駅員の方に視線をやって

いる。



 ――リリリリリリリリリリリリリ……――



「本部に連絡すれば万事問題ないとは思いますが、もしもの時は……」



 ――発車いたしまーす!……ちょっとそこっ、白線の内側まで下がって!――



「もしもの時は『舟越ケイコ』を訪ねなさい!彼女は××××……」

 葉月の言葉などお構いなしに、列車の扉は冷たく機械的に閉まった。





「舟越ケイコ?………自閉症の娘が一体なんだっていうんだ?」


 葉月の姿が視界から消えるのを見届け、佐伯は自分の乗車席に向かい車両通路を進む。

 車両中ほどで席に着いた佐伯は、上着を脱いで両肩に付いた水滴をパンパンと弾く。


「パキン!」


 上着を叩く音にまぎれて、乾いたものが弾けるような音がした。


「?……何か踏んだか?」

 足元に目をやるが、特にそれらしいものは見つからない。

 佐伯はカバンから愛用の手帳を取り出すと、挟んだコースターを引き抜き、葉月が記したメモを自分の手帳に書き写す。


 ――記事をまとめるには十分すぎる情報量だな――


 佐伯はしばらくその手帳をじっと眺め、満足げにそれをカバンに戻した。

「しまった。利恵たちに土産を買い忘れた……こりゃ由香里が怒るな」

 家族に九州土産を買ってこいと頼まれていた佐伯は、その事を突然思いだし、外の景色に目をやりながら小声で呟やいた。


「大阪土産で我慢してもらうか……」



 東京の家族の事を想い、佐伯の顏が自然とほころぶ。




 

 真っ二つに割れた勾玉が、

 座席の陰でぼんやりと不吉な光を放っていた事に


 その時の佐伯が気づく由もなかった。






        ( 第一部 ~終わりのはじまり~  完 )


~あとがき~


第一部『 終わりのはじまり 』は、

今回投稿分で終了となります。


今まで読んでくれた皆様、

本当にありがとうございます。


第二部のタイトルは『 見えざる世界 』!


既に妻子の居ない東京に戻った佐伯は

その後、どんな道を進んでいくのか?


第二部の開始は来週を予定しおります!

乞うご期待!



(羽夢屋敷)

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