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手まりの森(第一章)  作者: 羽夢屋敷
13/29

序 ~終わりのはじまり/ 13~

ついに〝祓衆〟であろう男との直接対峙が実現する。

果たして、佐伯はこの謎多き集団の実態にどこまで迫れるのか?



 挿絵(By みてみん) 



  6月28日 14時45分 京都駅北口 喫茶「桃源」


 待合せの時間より30分も早く着いてしまった佐伯のコーヒーは既に底をついていた。

 デスクに約束した長期取材はこの日が最終日であり、あと2時間ほどで発車する列車に乗れば、明朝9時には東京に戻れる手はずである。佐伯は胸ポケットの乗車券をもう一度取り出し発車時刻を再確認する。


「お冷、おかわり入れましょうか?」


 小柄の神経質そうなウエイトレスが作り笑いを浮かべて話しかけてくる。


「いや、ありがとう。もう水は結構」


 何だよ。という言葉が顏にそのまま書いてあるようなそっけない態度でウエイトレスは、ぷいとUターンして厨房の方に戻って行った。




「さすがに30分は長いな……」


 佐伯は胸ポケットから手帳を取り出すと、先ほど書きこんだメモに再び目を通した。



 ―――――――――


6/28、10:00 京都府立図書館

 祓衆→情報なし

 神水会→関連記事を発見(たぶん関与?△、してそう)

〇1940.8/29

「奥羽野ダム開発予定地で死傷者200人の大火災」

→同地域で1年前から原因不明の火災事故が多発している。

 ※38年に起きた大火災の被害者たちの祟りでは?との声があがる

 →国×住民

 神社を建立し政府主導で公開祈祷式実施→境内に清めの井戸が掘られる。

 施工担当業者=『神水建設』


12:50 京都市役所

〇神水建設:1955年に解体~執行部が中心となり宗教法人化

 →詳細情報なし

「風水研究グループ」としての正式な登記は現在存在しない


 ―――――――――



「完全に隠れミノだな。この神水会ってのは……」

 佐伯は両手で手帳をパタンと閉じるとそれをテーブルの脇に追いやり、厨房の方に向かい声をあげた。

「すいません。こっち、コーヒーおかわりで」

 丁度配膳から戻ってきた先ほどのウエイトレスが、一瞬眉を潜めてから瞬時に例の作り笑いを浮かべる。

 佐伯は小さく溜息をつき、窓の外に眼をやった。


――葉月宗雄……いったいどんな奴だろう?


 外は今日も曇天だった。行きかう人達が上空を見上げて傘を開きはじめている。窓越しでは分かりづらいが、どうやら一雨来ている様子だ。傘はどうする?ここで借りようか?などと考えていると、斜め前方から静かに声がかかった。


「あの……佐伯さんですか?」


 声のする方に眼をやるといつの間にそこに居たのか、細身で黒スーツを来た男が佐伯の目の前に立っている。スーツの中に来た黒シャツとその顏の上の黒いサングラスが、相手の〝色白さ〟をより一層際立たせていた。


「葉月さんですね……どうぞ。お座りください」


 男は二十代後半か三十代後半、佐伯よりは明らかに若そうに見えるものの、年齢が全く読めない不思議な雰囲気を醸し出していた。彼が席につくのとほぼ同時にウエイトレスがコーヒーを持ってやって来て、手早く空いたカップとそれとを交換する。


「ああこれ……ちょっと早めに来過ぎてしまいましてね……葉月さんは何を?」

「私もコーヒーをお願いします」


 男は静かにサングラスを外すと、佐伯の目の前にゆっくりと腰を下ろした。

 自分との受け答えでは見せる事のなかったウエイトレスの微笑みが鼻についた佐伯は、小さな咳払いで彼女を威嚇する。ちらっと佐伯の方に眼をやった彼女は、やっと人間らしい感情のこもった意地悪い笑みを佐伯に送ってみせた。


「早速ですが佐伯さん、いくつか質問させてもらってもよろしいでしょうか?」

 いきなり葉月に先手を取られ、佐伯はウエイトレスに構った自分に少し後悔する。


「え、ええ。問題はありませんが……」

「ぶしつけですみません。実は六ツ鳥居関係の話については、会の方針で口外してはならない事がすごく多いんです。部外者の方に対してはその辺のルールが特に厳しくて……」


 聞きたい情報の幅をいきなり狭められ、佐伯は「やられた」と心の中で舌打ちする。


「フリーのジャーナリストの方とお聞きましたが、沙奈江さんとは一体どういうおつながりで?」


 いきなり辛い質問だ。電話では勢いで『友人』と言ってしまったものの実際の所、佐伯は沙奈江の昔の情報など全く持ち合わせていないのである。

 少しの間を置き、佐伯は開き直った様子で自分の名刺をテーブルの上にすいと差し出した。

 

「集敬社、第三企画室…………週刊誌の記者???」

「申し訳ありません。実はそれが私の本当の身分でして……」


 それまで穏やかだった葉月の表情が俄かに険しくなる。


「あなた……だましたんですか、私たちを!………じゃぁ『預かり物』って話も……」


「緊急事態だったもので………それに、こうでもしなきゃ恐らく会えなかったでしょう、お宅達には……」

 必死に状況を取り繕う佐伯をよそに、そそくさと脇に置いた荷物を取りまとめた葉月はいらついた様子ですくっと席から立ち上がった。目の前には2つのコーヒーを持ったままどうして良いのかわからず戸惑っているウエイトレスの姿があった。

 葉月は内ポケットの長財布から手早く千円札を取り出すと、それを彼女が持つトレーの上に置く。


「六ツ鳥居に関わった人間が変死したんです!………それもつい最近!」

 佐伯の言葉が空しく中を舞う。葉月は我関せずの姿勢を貫いたまま、出口の方へと足を早める。その後ろ姿に向かって佐伯が吠えた。


「身分詐称ならあんたも同じだろ!祓衆っ!」


 葉月の足取りがピタリと止まる。

 ゆっくりとこちらを振り返るその表情は、先ほどの人間とは同一人物に思えないほどの圧を発していた。葉月は何事も無かったかのようにすたすたと席に戻ると、上体を佐伯の方に近付け、ささやくようにこうつぶやいた。


「そんな言葉、一般の人達に聞かせちゃいけませんよ佐伯さん……」



 *********



  15時30分。


 30分毎に時を知らせる店内の鳩時計が「ポッポー、ポッポー」と二回鳴いた。


「なるほど。田代先生の所にまで話を聞きに行かれた訳ですか……この短期間でよくそこまで調べ上げたものです……。確かにあなたがおっしゃる通り、我々は大昔から存在する政府機関の一つです。ただ、発祥は大正時代どころではなく、1120年あたり、つまり鎌倉時代から続いている隠密集団でしてね。……公に出る事はまずありませんが、それほど昔からこういった政府規模で対応せざるを得ない奇怪な事件というものは延々と続いているんです……」


「鎌倉時代……からですか」


 葉月は周囲に客がほぼほぼ居ない事を確認しながら、なおも続ける。


「そしてあなたが追っている六ツ鳥居事件は、江戸末期に蝦見糸地区で起きたある大火災がその災いの原因となっているんです…………途方も無く深いんです。闇が……」


「江戸時代!?」


 佐伯の反応に葉月は小さく頷いて見せる。


「我々の先代達が大規模な封印儀式を行って蝦見糸一帯を安定させたと伝わっています。そのほころびが六ツ鳥居事件だとでも言いましょうか……」


 佐伯は一瞬は驚いたものの、直ぐに怪訝そうな顏で返す。


「いや、解せませんね。……それほど昔の事件がどうして何十年も経ったこの昭和の時代に突然表出するんです?しかも普通の家族に対する惨殺事件ですよ?……そもそもアキって子の周りで起こった一連の異常な現象はその事件と一体どう繋がるんですか?」


 佐伯の激しい問かけに返す言葉を見失った葉月は、テーブルの上の水を一口飲み込んでから慎重に言葉を選ぶようにして再び口を開いた。


「事態は本当に複雑極まるんですよ、佐伯さん………とにかく、アキにはとんでもない大怨霊が憑依していたんです。舟越夫婦は柔和な我々の処置に納得せず、途中から勇み足になってしまい…………残念ながら命を落とされてしまった……」


 そう言ってうなだれる葉月からは先の異様な威圧感は既に無くなっており、その姿からはむしろ悲痛感さえ感じ取れた。だが、佐伯は葉月が聞き捨てならない情報をこぼした事を見逃さなかった。


「経緯はどうあれ、あなたは隠し事が多すぎるようです。……いや、あなたと言うべきではありませんね。祓衆そのものがです」


「?」


 訝しげな表情を見せる葉月に対し、佐伯はなおも続けた。


「舟越夫婦は公式には『行方不明者』とされていて、警察の上層部もその生死については本当に確認ができていないんです。なぜあなたが、その二人が〝既に死んでいる〟と断言できるんですか?」


 佐伯の鋭い視線から葉月は思わず眼をそらす。


「それともう一つ。六ツ鳥居事件が起きる少し前、蝦見糸周辺で百人以上の神隠しが起きたって話……その異常な話も江戸時代の事件と何か関わりがあるんじゃないんですか?それを調べてた記者も死んじまったそうじゃないですか。事件に関わってすぐに!」


 葉月の額にうっすらと嫌な汗が滲んでいた。佐伯の言葉は止まらない。


「それに、大規模に封印したと言ってましたが、ちゃんと効いているんですか?そんな大昔の封印が!?」


 突然、それまでうつむき加減だった顏を上げ、強い視線を佐伯に投げつける葉月。


「それだけは断じてありません!封印は今でもしっかり作用してますよ!……でなければ今頃あの辺りはもっととんでもない事になっているはずです………我々祓衆が身を削ってそれらを守り抜いてきたからこそ……」


 葉月がそこまで言ったところで佐伯がその言葉を遮った。


「じゃぁ、これはどう説明するんですか!」


 言葉と同時に佐伯は自分の首に巻かれた包帯をときほどいた。


「!」


 葉月の表情が、それまでとは全く種類の違う顔付きへと変容する。


「そ、その痣は……………………まさか……」




 佐伯の首筋には、数日前とは比べものにならないほどの濃さに変わってしまった「太く、赤黒い一本のライン」がクッキリと浮かび上がっていた。



                    (つづく)

~あとがき~


第一部『 序 ~終わりのはじまり~ 』は、

今回投稿分で最後の予定でしたが、

予定以上にボリュームが膨れてしまった為、

2回に分けて投稿します!


こちらのアップ時点で作業は進んでおりますので、

2~3日で次回分をアップできるかと思います。


宜しくお願いいたします!


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