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手まりの森(第一章)  作者: 羽夢屋敷
12/29

序 ~終わりのはじまり/ 12~

沙奈江の実家で、思いもよらない重要情報を手に入れた佐伯。

〝祓衆〟との接点となるであろう「謎の男」とコンタクトを取る事はできるのか?



挿絵(By みてみん)





         --- 呪 符 ---





 ―――――――――


 東亜風水研究グループ 神水会

 京都支部 主任研究員

 葉月 宗雄

 京都府○○市○○町○○○

 電話○○○-○○○○


 ―――――――――


「風水研究グループ………か」

 京都駅近くの安宿に寝床を構えた佐伯は、昼間に沙奈江の実家で教えてもらった恐らくは祓衆の関係者であろう男の情報を自室で横になりながらぼうっと眺めていた。

 一時間ほど前、最初にこの連絡先に電話を入れてみた時に受話器を取ったのは若い女で

「そういう者はこの会に所属していない」と、一方的に通話を切られてしまった。

 だが、その口調からそれが女の見え透いた嘘である事を容易に感じ取った佐伯は、すぐさま電話をかけ直すと「自分は行方不明の沙奈江の旧友で彼女から『何かあったら島根の娘に届けて欲しい』と頼まれて預かっている物がある」と捲し立てた。案の定、相手の態度は豹変し「折り返し連絡するのでしばらく待機していてください」と、それまでとは打って変わった丁重な返答を受け、佐伯はしばし静かに身を休めていた。


「預かっている物といったら、東京で北見に渡されたあの変な札だけだがな…」


 佐伯は部屋の隅に無造作に放られた自分のリュックに眼をやる。

 薄汚れた小さな馬革製のリュックは、思い起こせば自分が新聞社から雑誌社へと転勤した初日から常日頃持ち歩いているいわば『相方』のような存在でもあった。

 佐伯はそれを眺めながら、ふと東京に残してきた妻子の事を考える。


「利恵が買ってくれたんだったな。コレ」


 6年前、集敬社への転職が決まった時に、妻が自分の貯めていたヘソクリをはたいてそのリュックを自分に買ってくれた時の情景が胸に浮かぶ。


「大事に使いなさいよ~。私の一年分の〝隠し財産〟の賜物なんだから」

「隠し財産てお前……そもそも俺が稼いできた金だろ……と言うか、ヘソクリなんてお前、

いつの間に?」

「ふふふ。正当な私の賃金です。一点くらいイイ物もたないとね」


 当時の、色々な事に嫌気が差し半ば自暴自棄になっていた情けない自分の姿と、そんな自分を何気ない優しさで支えてきてくれた大切な人の顏を思い起こし、佐伯ははっとする。

「適当なところで切り上げて記事にしちまう方が懸命だと思うがなぁ」

先日の丸尾の言葉が頭の中に響いた。


「確かにここいらが潮時かもな……」


 今更ではあるが、予想だにしなかった事件の深層部まで深く深く入りこんでしまっている自分を戒めるように、佐伯の口から小さな呟きが漏れた。




「佐伯さーん!葉月という方からお電話ですよーーー!」


――来た――

 中空を漂っていた意識を瞬間的に身体の中に引っぱり戻し、佐伯は宿の玄関に設置された黒電話に飛びついた。


「かわりました。佐伯です」

「佐伯さんですか……私、東亜風水研究グループ神水会の葉月です。……沙奈江さんから何やら預かっているものがあるとのお話ですが……一体何を?」


 佐伯は寄ってきた魚の為にあらかじめ用意した台詞をまき餌のように放つ。


「蝦見糸の……手まり堂に関係する物らしいのですが」

「手まり堂!…………」


 それまで機械の様に冷静なトーンだった相手の口調が瞬時に乱れた。


「あ、預かった物とは?………今、それは手元にあるんですか?」


 先方の明らかな動揺を確信した佐伯は、更に追い打ちをかけた。


「それが、箱に封をされた状態なので私も中に何が入っているのかわからないのです……

どうでしょう?一度直接会ってお話できませんかね」


 しばし無反応の時間が流れた。電話の向こうから何人かが何やら相談している微かな声が伝わってくる。2~3分おいて葉月がむせ返ったような声で慌ただしく告げた。


「わかりました……では明日、京都駅近辺でお会いしましょう。駅前の『桃源』という喫茶店はご存じですか?」


――かかった――



「この男から全てを聞き出してこの取材の幕を閉じよう……」佐伯はそう心に言い聞かせながら、手帳の上を走らせるペンに力を込めた。



               (つづく)

~あとがき~


とりあえず、第一部『 序 ~終わりのはじまり~ 』は、

次回投稿分で最後になります。


与えられた「書ける時間」を大切にして、極力進めていきますので、

みなさま宜しくお願いいたします!


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