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スキンシップ

 「ありがとうございました」


 会計を済ませたお客さんの背中を見送る。手が空いたのでテーブルの上に置いてある食器やコップの片づけを済ませる。


 俺は駅から少し離れた喫茶店でバイトをしている。店内の雰囲気は落ち着いており客層は大人が主で学生が気軽に来るようなお店ではない。まぁそこが理由でここのバイトをしているのだが。


 一人で黙々と仕事をしていると誰かが近づいてきた。


 「いやーやっぱり平日のこの時間は暇だね」


 今話しかけてきたのは同じバイト仲間の七瀬ゆい。俺と同じ学年でここから二駅ほど離れた高校に通っているが家がこのあたりということでバイトをしているらしい。この人も東雲先輩や大鳥さんにも引けをとらない程の美少女だ。

 だが一つ決定的に違うところがある。スキンシップが激しいのだ。現にいまも俺の腕を掴んできている。


 「そうだね。もう少ししたら多少は混んでくると思うんですけどね。あと離して」

 「ねーねー、暇だからお話ししよ。やだ」

 「やだ。バイト中なんだからダメだろ」

 「えーそんなことないのに」


 二人してマスターの方を見てみると作業しているため顔はこちらを向いていないが右手でオッケーサインを作っていた。


 「ほら!」

 「えー」


 俺が渋っているとほっぺをぷくーっと膨らませながらこちらを睨んでいるがあまりこわくない。小動物みたいに感じる。

 そうしているとハッとしたと思ったら急にニマニマし始めた。


 「そんなこと言ってると学校の男子達にバイト仲間の男の人とデートに行ってきたっていうもん」

 「はぁ?デートなんて行ってないだろ」

 「チッチッチ、買い出しに一緒に行ってるじゃないか」

 「あんなものデートなんて言わないだろ」


 マスターは忙しいからバイトである俺たちが食材や日用品などの買い出しの担当になっているのだ。


 「男女が二人っきりで買い物しているなんてもうデートだよ!」

 「そんなの詐欺だろ!」

 「ふふ、使えるものは何でも使うのが女の子なんだよ!」


 などと胸を張っている。

 こいつは自分の学校でアイドル的な立場だと前に言っていた。そんな人が押し倒された、ましてやどこぞの馬の骨にされたとなると何をするのかわからないわからないらしい。特に女子がと付け加える七瀬の顔はどこか遠くを見ている。

 なにかその学校の闇が見えた気がする。


 「はぁ、しょうがないな」

 「やった!」


 体全体でうれしさを表現する七瀬。


 「じゃあ、今日こそ和也のこと聞きたい」

 「嫌だ」

 「えーいいじゃん。教えてよ~」


 こいつはことあるごとに俺について質問してくる。

 どうしてそこまで知りたがるのかが理解できない。


 「学校ではどう過ごしてるの?友達は?勉強はできるの?」

 「まて、いきなり質問しすぎ。答えるのは一つだけな」

 「ケチ!」

 「答えてやるだけありがたいと思え」

 「えっと、じゃあ...和也ってさ彼女いるの?」


 いきなりぶっ飛んだ質問が来た。

 え、さっきの中からの質問じゃないの?


 「俺に彼女がいると思うのか?」

 「全然!」


 嬉しそうな顔をしながら即答された。最初っから分かりきってるのになんでわざわざ質問なんてしてくるんだよ。新手の嫌がらせか?


 「わかってんなら聞く必要ないだろ」

 「えへへ、いないって確信が欲しかったんだよ」


 後半はボソッと呟いたため聞こえなかった。


 「まぁ和也はいかにも非リアって感じたもんね!」

 「まぁ俺は確かに非リアだな」

 「開き直ってるんだ~」


 そういいながら楽しそうに、嬉しそうに話す七瀬に俺は一つ訂正をする。


 「七瀬、お前は非リアをなんだと思ってる」

 「え、リアルが充実していない人たちのことでしょ?」

 「違う。非常にリアルが充実している人たちを非リアと呼ぶんだよ」

 「そんなこと言ってるの和也だけだよ!?」


 なぜか哀れな物を見てくるような目をしている。


 「いや、そんなことはない。実際に俺は充実している」

 「どこらへんがよ」

 「どこらへんって...好き、だから」

 「...へ?」


 七瀬のほうをチラッと見ながら俺はそう言った。


 「えええぇぇぇぇ!?」

 「どうしたんだよ、急に大きな声なんか出して」

 「だ、だって!!あんた今までそういうそぶり一切見せてこなかったのに、いきなりそんなこと言うから」

 「ん?そうか。それは悪かったよ。でも好きなんだよ」

 「あぅ」

 「扱いが難しいけどでもそこがいいんだ」


 真っ赤な顔をしている七瀬が何か話そうとしている。


 「あの...新作のゲーム」

 「...は?」

 「あれをやってるときは本当に楽しい。シリーズものなんだけどな!今回は製作スタッフに新しく加わった人って作風がガラッと変わったんだけど...ってどうしたそんな顔して」

 「別にぃ」


 例えるなら好きな人が思わせぶりな態度で勘違いさせてきたみたいな顔をしている。


 「おい、どうしたんだよ」

 「別にぃ」


 お客さんが来たことによりここまでとなってしまった。

 もっと魅力を伝えたかったのに。あのゲームはマジで神ゲーだ。


 それ以降七瀬は「別にぃ」しか言わなくなってしまった。どうしたんだろうか。


『面白い』

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