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真三十二話 彼女が私に残した物

 「本……?」


 「魔術書とか? いや、この世界で言うなら《スキル指南書》?」


 ヴィアが目を輝かせながらその本の表紙を捲った。そこにはこう書かれていた。




 『──……汝が願うは虚無の果て。我が行く末は永遠の夢。其の楽園は希望に満ち溢れ、王さえも欲す英雄の楽園。さあ、語ろう。これは其方の物語……──』




 「…………え~っと……」


 「物語……? 誰の?」


 読み終えたヴィアはその本を閉じると、


「ま、調べてみないとわかんないね。とりあえずアーサ王のところにでも、行ってみる?」


 「まあ、そうなるかな?」




                 ◇




 ──────シュン!




 「さて、着いたっと……」


 「ん? 王様はお出かけかな?」


 私とヴィアが屋敷内を歩いていると、セレンを見かけ、声を掛けた。


 「ねえ、アーサ王は?」


 「おや、お帰りなさっていたのですね。旦那様はシエテ様がヴィヴィアン様のところへ向かう際にお嬢様とアポロンへ向かうと仰ってましたが……聞いていたのでは……?」


 その言葉に私も「あ! そうだった!」と思い出す。その反応にヴィアが「はあ……」と呆れつつ、「それで? 向かうの?」と私に聞き返す。


 「う~ん……どうしようかな……」


 私が悩んでいるとヴィアが「あ!」と大声をあげた。


 「ちょっとヴィア! いきなり何!」


 「ああ、ごめん、ごめん。もしかしたら何か知っているかも知れない人物が居て、今それを思い出して、つい──」


 「誰の事?」


 私が首を傾げると、ヴィアは指を立てて答えた。


 「────ミネルバさ!」




                 ◇




 ──────シュワン!




 「ん~…………」


 「どうかしたの?」


 「あーその……私もモグもミネルバとはあまり仲が良くなくて……」


 「確か……賭け事に勝ったとか何とか?」


 「まあ、そんな感じ……」


 「しかしまあ、黒い地面だねえ~」


 見渡す限り焼け焦げた大地。ゼウスとの戦いが終わってもなお、ミネルバが焼いた大地は残っていた。ということはこの国に住民はもう……


 「とにかく、城へ行ってみよう」


 「だね」


 ……と、ここで思わぬ人物と遭遇する。


 「ッ! あ、貴女は!?」


 小さな体躯に似合わぬ顔の切り傷──間違いない。『ジャック』だ。


 「ん、天使のお姉さんか。何しに来たの? こんな辺鄙なところに」


 「天使w」


 ヴィアが「ぷっ」と吹き出す。


 「天使じゃないけど、まあいいか……。私たちはミネルバに会いに来たの。あなたは何故ここに?」


 するとジャックは手にしていたナイフを素早く構え、私に向かって投げた。




 シュッ!




 「ッ!?」


 「のわっ!」


 私達がナイフを間一髪避け、「いきなり何!?」と言うと、ジャックは指で私達の後ろを指してくる。「後ろ?」と言いつつ、振り返ってみると、そこには気味の悪いウサギの様な生物がナイフで刺され、ピクピクと痙攣していた。


 「な、なにこれ!?」


 ゆっくりとジャックが近づき、その生物を楽にした。


 「……御屋形様に頼まれているんだ。魔獣を駆除して欲しいとね」


 「御屋形様?」


 「ミネルバのことか!」


 ジャックは「はあ」と悪態をつきながら、その経緯を話した。


 「──……きっかけはマロー王が私達三人を闇の中から出してくれた時だった。


 『お前たちは自由だ。どこにでも行け』


 そう言われた私達だったが、元々行く当てのない者達。すると側に居たミネルバ──御屋形様が「うちに来い」と言ったんだ」


 「なるほど……」


 「ジャック以外は?」


 「ここにはいない。先輩はネプチューンに、ネヴィアのおばさんはアポロンに──」


 『アポロン!?』


 私とヴィアが驚く。無理もない。アポロンには今、アーサ王とミーヤちゃんが観光しに訪れている最中である。もし彼女が二人に出会ったら揉め事が……


 「まあアポロンがいるからへーき、へーき」


 「ヴィア……」


 急に不安になって来た私だが、もっと驚くことがジャックの口から飛び出した。


 「お姉さんたちの戦いは終わっていないよ」


 「え……?」


 「────……アルテミスが目撃らしい」


 「…………ッ!?」




                 ◇




 「アルテミス……でも、ゼウスが殺したんじゃ……」


 「それがどういう訳か生きていたんだよ」


 「ふぅむ……。これは如何に……」


 「スキルを使ったとか?」


 「いや、スキルを使ったのなら気配で分かるはずだし、何より仮にも元王様でしょ? 確かに簡単にくたばらないとは思ってはいたけど、このタイミングで──」


 ヴィアが話していると、ムムム? と唸る。


 「何か心当たりが?」


 「……もし、もし仮に殺されたのがアルテミスの分身とかだったら、どう思う?」


 「分身? 私でも出したことがないけど……まあ、ありえる、かな?」


 ミネルバやネプチューンしかり、王というより、龍族の生ける伝説みたいな人達だ。分身の一つや二つ……。


 「ねえ、モグのことと関係はないかしら?」


 「師匠と? ん~……ひとまず彼女と会って話すしかないね」


 「「師匠のことも含め、ミネルバならきっと、何か知っているかも知れない。急ごう、シエテちゃん!」


「わかった!」


私たちは手掛かりを見つけるために、城の上。ミネルバの元へ急いだ。




────シュワン!




「ミネルバ!」


「おう、シエテ! 元気そうだな」


「え? 本当にミネルバ? 前とは雰囲気が違う様な……」


「この眼鏡の性……というか、あたしは昔からこんなだよ。それより、どうした、慌てて……?」


大人びた印象のミネルバからは以前あった時の大柄なイメージとは正反対だった。その理由をヴィアが勝手に答える。


「あーそれはね、シエテちゃん。彼女はお酒が入ると……ッ! フゴフゴ!」


「あー! あー! な、何かあったんだよな? 早く言ってくれ! こっちも忙しいんだ! なっ? ヴィー!」


ヴィアが言いそうになった何かに過剰に反応したミネルバがその口を押さえ、私にここへ来た目的を聞いてきた。お酒がどうかしたのだろうか……?


「ぷはっ! わかったから! もう言わないから! 落ち着けよ、ミーナ!」


「ミーナ?」


「あれ? いってなかったっけ? 私とミーナはマブダチなんだぜッ!」


「こいつが勝手に言っているだけだ。気にするな。てか、本題は何だよ! 早くいいな!」


「あー! えーっと、とある本が見つかって、それがモグと何か関係があるんじゃないかとここに……というか、ここはどこ? 前の宴会場とは違う様な……」


あちこち探して、ようやく彼女を見つけた私たちだったが、この部屋には入ったことがなかった。三百六十度、本だらけである。図書館?


「ああ、ここは私の書斎さ。奥に簡単なテーブルと椅子、あとはこの本たちだけさ」


「どうしてこんなたくさんの本が?」


「ん? ヴィー、シエテに言ってなかったのか? 私が()()()だということ」


「魔術師!? 何それ!?」


「どうせここへ来たらわかると思ってあえていってなかった」


「うそつけ! 説明するのが下手だからだろ?」


「ばれたかw」


この感じからして仲の良さは本物の様だ。それよりも、


「この本を調べて欲しいの」


私が例の本をミネルバに渡す。


「ちょっと待ってろ。んーと、一階にアルバがいるからそいつにお茶とか菓子とか持って来させるよ」


「アルバ?」


「私の執事。おじいちゃんなんだけどね実の」


「ミネルバのおじいさん!?」


「まあ、いわゆる『お嬢様』ということさ。でなきゃ近づかないよ、こんないい女」


「あたしはお前の金貸しじゃねぇつーの。とにかく、そこで待ってろ」




                  ◇




──アルバさんから紅茶等をもらい、しばらく待っていると、螺旋階段からミネルバが降りてきた。それにしても大きなお屋敷だ。アーサ王のところよりもデカイ!


「……二人とも待たせたな。この本がどういう物かわかったよ」


「ほんとに! それで何なの、この本」


「まあ、落ち着け。その前に私が魔術師だという理由をシエテにみせてやるよ」


ミネルバが二人から離れ、白衣のポケットから紅い指輪を取り出すと、それを指にはめた。


「よし! ──《展開(アブリール)》……!」




ボワァァァア!!




ミネルバの前に巨大な火の玉が現れ、空中にとどまる。数秒の後、彼女が指輪をはめた手をサッと払うと、一瞬で消えた。これは一体……?


「ふふん! 驚いただろ! 今あたしはスキルを一切、使ってないんだ」


「ええ!? ん~でも、ミネルバは元から使えるから使ったんじゃないの~?」


いきなり火の玉のショーを見せられても彼女を知っている私やヴィアはスキルを使った、の一言でトリックがわかる。とても指輪がすごいものとは思えない。


「そうだなぁ……じゃあ、適当に……あ! おーい、君、ちょっとこっちへ」


ミネルバがたまたま通りかかったメイドさんをこっちに呼び寄せた。そして耳元で何か話すと、そのメイドさんがコクリと頷いた。


「シエテ! 今からこの娘が今のをするからちゃんと見ててよ!」


「はいぃ? え、いや、この人、ただのメイドさんなんでしょう? さすがに今みたいなのは無理──」




ボワァァァア!! …………シュッ




「ッ!?」




現れ方といい、消し方もさっきミネルバがして見せたことをそのまま出来ていた。もしかしてこれが……


「どう? 少しは信じたかな。あたしが調べていることの正体」


「人に……スキルを与える……」


「そ! あたしはこの指輪などの『魔術具』を唯一作ることが出来る文字通り『魔術師』ってわけ」


「スキルを人に……ッ! もしかして、アルテミスが使った人の武器って……」


「お、察しがいいね、シエテちゃん」


ヴィアが落ち着いた表情で言う。するとミネルバは本を私に渡すとこう言った。




「──この本はマリンとアルテミスが書いた本だと思う」




「モグ……何でアルテミスと……」


ようやく終わりが見えたはずの物語は、一冊の本によって再び動き出したのであった……。



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