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真二十九話 絶望の世界

「そんな世界、私が認めない! そのためにここにいる!」


 「認めるかどうかは我が決める。貴様の意見は求めていない」


 「だからそれを変えるためにここへ来たのよ……!」


 ガッ──────! 


 私が飛び出し、聖剣でマロー王に斬りつける……が、簡単に受け止められる。しかも指一本で。


 「ッ! これはどう? 【パーフェクト】……!」


 ピピッピパン!


 コミカルな音と共に生み出されたのは初めてこの世界に来た時、バナナの皮以外で出た、あの炎だった。だが、以前とは違う。明らかに出す意思をもって顕現させたのである。


 「ふん。弱いな」


 「なっ!?」


 一旦下がり、策を練る。無論、いつもなら側にモグがいたのですぐに実行に移せたが、もういない。だからこそ、私は焦ってしまった。その焦りが、仇となる。


 「貴様もこの程度だったか。ヘラとは大違いだ」


 「ヘラ? 誰の事?」


 「……ふ。ここまで来た褒美だ。少し、昔話をしてやろう。あれは百年前──────


              ◇


 ──────百年前、我には弟がいた。名は『ヘラ・アヴァロン』……そう、この世界では伝説の地と呼ばれている場所はあいつが作った。だがそのせいであいつは死んだ! とある竜があいつを殺したのだ」

 怒りを露にするマロー王。もしかして──


 「それって、龍族の誰かが人間の兵器を使ったって話?」


 「ほお。知っていたか。そうだ、昔の取り決めで決めたが、アルテミスがそれを無視したのだ」


 「ッ! アルテミスって、まさかアーサ王がいる──」


 アルテミスという単語に反応した私が思わず目を疑う。人間側だと思っていたアルテミスの王──『アルテミス』。そう言えば会ったことがない。他の国はそれぞれの龍王が守っているはずなのに、アルテミスだけは人であるアーサ王が国民を守っている。いくら人間が龍族に支配されているとは言え、厳しい強制力はない。というより、アルテミスだけがまるで迫害を受けている様に思えて来た。


 「アルテミスが我が弟──ヘラを殺したのだ! 人間の兵器によって!」


 つまり、アーサ王やその国民に対して非難していたのは、昔の王であるアルテミスへの復讐。アーサ王には何ら関係ないことだったのである。


 「……何で……関係ない人を……」


 「我はアルテミスを許さぬ。故にそこに住む人間も、龍族も。アルテミスそのものを潰すことこそが我の狙いだった。そしてそれは叶った! だが、貴様の様な人間が突然現れた」


 「……なら好都合ね。今こうしてあなたを止められるから!」


 「止める……?」


 私は杖を背中の紅羅煉砥と入れ替え構えると、少し微笑んだ。そしてマロー王に向かって言い放つ。


 「ええ。復讐という悲しい連鎖を私が止める! あなたを倒し、罪を償わせた後、みんなが平和でいられる私が思い描く世界を築くために!」


 「詭弁だ。アルテミスがやったことは消えない。だからあいつを殺したのだ! 故に恨みは消えなかった。だから我が、この世界諸とも我が物にすればこれ以上、我と同じ様に憎む者が居なくなる! だが皆を鎮めるには力が必要だった。そのためにこの力が必要なのだ!」


 「それは違うわ! たとえ力がなくても支え合っていけば絆は生まれるはずよ!」


 「はっ! 偶然とはいえ、力を手にした貴様に言われても説得力に欠ける!」


 「うっ……」


 正直、それを言われると辛い。それよりも私はマロー王という龍族の男を勘違いしていた様だ。何故なら、


 「あんた……本当はそんなに優しいのね……とても弟思いでこの世界の人々のことも大事にする。まさに理想の王様って感じがする……」


 私が思ったことをそのまま口にすると、マロー王が鼻で笑った。馬鹿にしたのではなく、少し恥ずかしかったのかもしれない。


 「……シエテ・ペンドラゴン。貴様は何故ここへやって来た? 恐らくこの世界ではない、どこか遠い世界なのだろ?」


 私は無言でうなずく。


 「ええ……とても、とても遠い場所よ。人しかいない。あなたたち龍族はおろか、ヴィヴィアンの様な精霊もいない……でも!」


 マロー王を真っ直ぐ見つめ、まるで心に訴えかける様に私は言った。

 「でもみんな! みんなが助け合って生きている! 一人一人の力が弱いから。弱いからこそ、助け合っていけるんだと信じてる! あなたも私達人間と変わらない、弱いからその力を求めたんでしょ? だったら、まだ変えられるはず。あなたを一人にはさせない! 今度は私が……()()()()()()()()()()()()! だから──」


 私がマロー王に言い寄る。が……


 「──……無理だ」


 「………………え?」


 予想と反する返答に困惑する私。するといきなりマロー王が攻撃を仕掛ける。


 「ふん!」


 シュドーン!


 「ッ! きゃッ!」


 剣で直撃は防いだものの、まともに攻撃を食らってしまう。やはり、彼とはこうなる運命なのか……。


 「どうして……」


 私が彼にしてあげられることはもうないのかも知れない。それこそどちらかが倒れるまで戦い、互いの思想をぶつけあうことでしかこの世界が救われないのだとすれば──────


 「……やっぱり、私は認めない!」


 剣を床に突き立てゆっくりと立ち上がると、真剣な表情でこう言った。

 「……ねえ、一つ賭けをしない?」


 「賭け?」


 「とっても簡単よ。この戦いに勝った方のやり方で世界を平和にする。私が勝ったら私のやり方で世界を救う。もし私が負けたら私が貴方の側に付いてあげる。どう? 悪くはないはずよ。何より、今から貴方を追い詰める力を私は持っているのだから」


 「ほぉ……良かろう。乗った」


 私が両手に握った聖剣と魔剣をグッと握り直し、攻撃に備える。対するマロー王も全身に力を結集させる。そして──


 ダッ!


 「【パーフェクト──────】」

 「【イグニッション──────】」


 フォン!


 「なっ!? 剣を投げ──」


 私の専売特許、普通なら投げない剣を……しかも今回は二本とも前に向かって投げてマロー王の不意を突くと、素早く背中の杖に手を回す。そして例の移動スキルを頭で念じて発動させる。


 「……ッ!?」


 がら空きのマロー王の背中に向かって杖を突きつけ、詠唱の続きを口にした。


 「【──────スキル】……!」


 ズズズズズ──ポン!


 コミカルな音と共に()()()()()()()()()()()()()が杖の先から出てしまう。何よりモグの杖と《神龍族》の力でランダムではなくなったはずのこのスキルでもう見ないと思っていた例の黄色い果実の皮が勢いよく背中に向かって発射されると、「べちょッ!」というある意味背筋が凍りそうな音が二人の間で確かに聞こえたのである。


 「あ…………」


 「……貴様……何のつもりだ? あれか? 実は食らわせるって、物理的じゃなくて精神的に追い詰める的なやつだったのか? もしそうなら貴様の説明不足ではなかろうか? どうなのだ、んん?」


 「え……と~~その~~……////」


 私の汗が止まらない。恐怖。()()()()()()()()()が今の私を襲った。いけない! このままでは私はある意味死んでしまう! 殺されちゃう! 意を決し、本当の本当に賭けに出る!


 「……い、一撃は一撃……だから……私の……勝ちってことで──────」


 女子高生らしく、上目遣いでテヘペロしてみる。すると、


 「アッハッハッハ! ──────死ね」


 ズオッ!


 当然許されるはずもなく、渾身の一撃である鉄拳制裁を私に向かって撃って来るマロー王。が、しかし──


 スッ──────


 「…………ッ!? あ、あれ?」


 死んでない! というか殴られていない。ギリギリで寸止めされている。私が目をパチクリさせていると、グーにしているその手を下げ、代わりに手の平を私に見せて来た。つまり……


 「い、いいの!? あれを攻撃認定で?」


 「ふん。良いも何も、確かに一撃は食らった。そのよくわからない果実らしきものの皮を投擲した、という一撃を。故に貴様は賭けに勝った。これは所謂、友好の証。そして罪を償うための証だ」


 「じゃ、じゃあ、遠慮なく」


 私の手がマロー王の手に触れる。すると突然、二人の頭に電気が走った様な衝撃を感じる。()()()()()()()()()()によって。


 「ッ!? ヘラ……なのか?」


 「え? じゃあ、私のこの力ってあなたの力なの?」


 突然二人の前に幽霊の様な形で彼は現れた。彼こそが、シエテに力を貸し与えた張本人。


 「兄さん、やっと会えた。ずっとこうなるのを待っていたんだ。だからお願い、もうそんな力は兄さんには必要ない。今すぐあの娘に返してあげて」


 「あの娘って……ミーヤちゃん!? てことは生きてるの!?」


 「うん。眠っているだけだよ。兄さんの身体でね。ミネルバさんも」

 「そう……ほっ。良かった」


 思わず安堵の息が漏れる。早速元に戻してと言いたかったが、ヘラと会うのはこれが最後だと思った私は少しだけ待つことにした。


 「ヘラ……お前、あいつを恨んでないのか?」


 「もちろん許せないよ。でも復讐するのは僕の役目。それを実行に移すかどうかは僕の問題だよね? 勝手にやっちゃうとこっちがこまるんだけど?」


 「う……すまん」


 「……でも、ありがとう。じゃあそろそろ行かなきゃ」


 「ッ! もう……会えないのか?」


 「そうだね。アヴァロンは僕が死んだ後にここと繋がったから、僕はどこにもいない。シエテさんの……マリン様が持っていたあの杖に隠れていただけだから。こうして神龍族の力を借りないと実体も保てない」

 「そうか……」


 「だからこそ、兄さんにはやり直すチャンスを特別にあげる。元々あの娘には扱えない力だったから」


 「どういうこと?」


 私が質問する。ヘラが「うん」と頷き、答えた。


 「ミーヤちゃん……だっけ? あの娘は元々ただの人間なんだ。何の因果か、神龍族の力が幼い彼女に宿ってしまっていたんだ。だからこうしてってと」


 シャーン


 ヘラがマロー王の肩に触れ、誇りを飛ばす様に払うと、光の粒子が集まり、ミーヤちゃんの姿が現れる。そしてもう一人、ミネルバの姿も見てとれた。


 「ミーヤちゃん!」


 私が抱きかかえるが、彼女は眠ったままだった。だが呼吸はしている。つまりただスヤスヤと眠っているだけだった。ミネルバも同様に。

 「あとで会おうね」


 私は杖で彼女たちを地上で待つモルトたちの元へ一瞬で移動させると、ヘラに目線を向けた。それを合図に彼の身体が輝きだす。


 「じゃあ、さよならだ。兄さん」


 「ああ。いつか、共存するいい方法を見つけて見せる。その時まで、向こうで見ていてくれ」


 「そうさせてもらうよ。シエテさん。兄を救っていただいて感謝します。またいつかどこかで」


 「ええ。また会いましょう」


 シ………………ン


 「時にシエテ・ペンドラゴン。お前には世話になった。弟からもらったこの力なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、どうする?」


 「え……?」


 ゼウスから言われた一言は、私の止まってしまった物語を動かす最後の歯車だった。


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