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真二十五話 貴女の隣に

 不穏な空気が漂う中、私とモルト、それぞれの信念を表す剣がお互いの切っ先を向け合う。緊張感が私の握る聖剣──《永久須狩刃(エクスカリバー)》に伝わると、ほんの少し、カタカタと手が震えた。それに対して、彼女の握る魔剣──《紅羅煉砥(クラレント)》から黒い霧の様なものが発生していた。恐らく、先ほど幻覚の様なものを見せていた原因はこれである。私には聞かなかったが、強いスキルを出せるモグでさえ、その効果を受けているということは、間違いなく、マロー王のスキルを帯びた剣であることは確か。けど、一つ疑問が浮かぶ。


 「──モルトさん、()()()()()()()()()()()()()()()?」


 「ッ!」


 その問いに少し肩を揺らした彼女が答えた。


 「──……違う……従っているわけではない……」


 「ならどうして……どうして私達を襲うの? だって貴女はその剣の力を──」


 「だまれッ!」


 その場にいたモルト以外の全員がモルトの声にぞっとした。恐る恐る、後ろからモグが私にその問いの意味を聞いてきた。


 「シーちゃん、それは一体?」


 私は後ろを振り返らず、目線は彼女に向けたまま首を少し傾けモグに言った。


 「モルトさんはあの剣に宿っているマロー王の力を自分の力で抑え込んでいるからよ」


 「それってつまり──」


 周りいる皆がざわつく中、いきなりその剣を天にかざすと、彼女の口が開いた。


 「……確かに、私はこの剣の力を()()()()()()()使()()()。それは紛れもない事実だ」


 「そうはさせな──」


 「ふんッ!」


 ヴァアアアアアアアアア……!


 ヴィアとセレンを私が受けた幻覚のスキルで黙らせると、二人に向けた剣を胸の前に移動させて真っ直ぐこちらに向けると、力強い眼光で私に言った。


 「シエテ・ペンドラゴン! 貴殿の様にただの一般人が突如、強いスキルで成り上がり、こうしてかの王を討つ軍にいるこの現状……果たして誰が喜ぶ!? 私や私の部下の様にスキルの恩恵に与れず、必死に努力し、もがき、時に苦しみ、共に切磋琢磨してきた者たちからしてみれば、貴殿は我々の嫉妬以外の何物でもない。もはや、怒りさえ感じる! ……だが悲しいことに、かの王を討つには『貴殿の様な人物』が必要……ふざけるな!」


 「モルトさん……そんなことを……」


 「何故だ! 何故、我々は()()()()に立っていないのだ!? これこそが神が与えた我々への試練なのか!? ならばなぜ! ……何故……我々を『選んだ』のだ…………」


 モルトが私に向けていた剣をゆっくりと下ろすと、再び柄をグッと握り、私に向かって叫んだ。


 「私が貴殿を斬ることは、私の後ろにいる持たざる者、全ての意思である! 今一度誓おう。貴殿を倒し、私がかの王を討つ……!!」


 『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 スキルを使えない周りの兵士達が雄叫びを上げ、士気を高める。この予想していなかった展開に私が少し尻込みしていると、後ろにいるモグが言う。


 「シーちゃん、モルト以外は私が倒す。なぁに、少し静かにしてもらうだけさ」


 「分かった。でも、アグリピナさんは?」


 「今、アーサの元に送る……よっ!」


 シュン!


 お得意の移動スキルを彼女にだけ発動させると、一瞬で彼女の姿が消えた。すると、


 「それより隙を見て、モルトを移動させるから、シーちゃんも準備しておいてね!」


 「う、うん!」


 私の背中にモグが自分の背中を合わせると、「今!」の合図で動き出し、先にモルトの背後に回り込み、どこかへ飛ばすと、私と合流して、今度は私を送り出す。


 「頼んだよ!」


 「うん!」


 私が頷くと、モグの手に自分の手のひらを重ねた。


 ──────シュン!


 「……さて、一対百……その内二人は彼女の部下。これは厄介だね……!」



              ◇



 ──────シュワン!


 「ここは……」


 モルトが辺りを見渡す。すると、そこには見覚えのある家が建っていた。


 「ッ! あれは……!」


 霧の中、モルトが幼少期住んでいた貴族の屋敷。しかし、徐々に霧と共に消えていった。


 「屋敷が……待っ──」


 霧が晴れた奥から私が現れると、こちらを睨み返して来た。


 「……シエテ……ペンドラゴン……!」


 「確かに私はたまたまこのスキルを使える一般人。貴女と違って努力を知らない……けどね、持ってしまった私だから、今こうして貴女と話せるってすごいことだと思う」


 私は彼女に敵意を向けず、手にしていた聖剣を地面に刺すと、ゆっくりと彼女に歩み寄る。その間も絶えず、彼女に話しかけながら。


 「私には真似できない。何故なら()()()()()()。本当は努力なんかしたくないし、あの剣も持ちたくない」


 昔愛奈にしてもらった様に、今度は自分がこの人を助ける。


 「でもこの世界のことを知っちゃったから。関わってしまった私をほったらかしには出来ないってこと。もちろんそこにはあなたもいる」


 私がモルトを抱きしめると、彼女は手にしていたその剣を落とした。その瞬間、落ちた剣から黒い靄が消え去った。


 「シエテ殿……私……」


 顔を涙で赤くしたモルトが初めて騎士、モードレットではなく、一人の女の子として私に笑顔を魅せた。


 「これが聖剣と私の願いが産んだ奇跡のスキル──【貴女の隣に(フォーオブユー)】。私の【パーフェクト】と聖剣が元々持っていたスキル【包み込む愛(ラヴァーズ)】。この二つが響き合って出来たスキル」


 「一体……それは……」


 「これの力は私が救いたいと願った相手の悪意や負の感情を吸収し、笑顔に変える、私だけのとっておきのスキルって訳」


 「その様なものが……いつ?」


 「おぼろげだけど、ネヴィア──アーサ王の少し前まで奥さんだった人が、マロー王の手先として私とモグの前に立ちふさがった時……かな?」


 地面にへたり込んでいるモルトに私は手を差し伸べながら話すと、モルトがその手を掴み、立ち上がった。その表情は少し前まで絶望し、心をふさいでいた彼女ではなく、再び前へ進む決意に満ちたモードレット・デュへインの姿がそこにあった。


 「シエテ・ペンドラゴン殿。この命、アーサ王の代理である貴女と聖剣に忠誠を。ここに貴女の剣として、この力を使いましょう!」


 モルトが私に跪き、左手を両手で優しく持つと、その手の甲に口付けをした。


 「~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」


 まさかの行動にシエテが驚き、耳を赤くした。こんなこと誰にもされたことがないため、紅潮した表情のままなんとか、「は、はいぃ……」と声を漏らした。


 「……? シエテ殿?」


 「にゃ、にゃんでもないでしゅ~~~~……」


 完全にプロポーズされた感のムードを一変させたのはモルトだった。


 「シエテ殿! 落ち着いてください! 早く元の場所に行かねば!」


 「はっ! そうだった! 今はまだ戦いの最中!」


 肩を揺らされ我に返った私はモグから言われていたことをモルトに伝えた。


             ◇



 「──────ッ! ではここは湖のほとり?」


 「うん、だから近くに行けば──」


 話しながら湖へ目指すと、モグの言った通り、そこに待っていたのは──


 「──やあ、待っていたよ! シエテちゃんにモルトちゃん」


 「貴殿は……!」


 「何で、ここに……?」


 湖の真ん中から現れたのは、少し前まで一緒に行動を共にしていたモグの弟子──『ヴィヴィアン』だった。…………あと、何故か全裸で。



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