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真二十三話 アグリピナの涙

 「よし、ここで休憩にする。各部隊、一時間ごとに交代を」


 部隊を指揮するモルトが周りにいるシエテたちを含めた部隊に指示を出した。同時に「はあ~」「やっとか~」とその場に座り込み、長旅で疲れた兵士らが水分補給するために水筒や携帯食料を手にし始めた。とは言え、モグのスキルで近場まで連れていってもらっているので、キャラメルトからここまでくる時間を考えると大幅に短縮出来たはずである。……誰かさんが道を間違えなければ。


 「面目ない。この森に入るまで当初予定していた時刻以上に時間がかかってしまった」


 当の本人、モルトが私たちに頭を下げた。


 「気にしないで下さい。モルトさんがいなければここまでたどり着くことは困難でしたし、それに良いこともありましたから!」


 私が手を振り、謝罪に答える。良い事とは、途中で出会った住人からの情報だった。




               ◇




 ────「マロー王の妹!?」


 「ええ、確か……『アグリピナ』……という名前だったかしら。直接会ったことはありませんが十年前にそこの森で静かに暮らしているって聞いたわ」


 森近郊に住む妙齢の女性が私達を見て「何事?」と思い、一番似つかわしくない私に声を掛けて来た。そのおかげで新な情報が手に入ったと言う訳である。女性によると、その妹さんは、マロー王が世界に圧力をかけ始めていた日(私がこの世界にやって来る何年か前)に、この森に無理やり住まわせたらしい────






 ──「休憩は終わりだ! 準備しろ!」


 モルトの掛け声で準備する兵士たち。私もすぐに移動出来る様に身支度を済ます。すると、近くを偵察しに行った兵士がタイミングよく帰って来た。


 「隊長! モードレット隊長!」


 「どうした? 何か見つけたか?」


 もはや私が隊長である肩書は消え去り、モルトが指揮するのは当然の様に兵士一同が指示に従うのを感じた私はこの頼られていない事実を受け入れつつ、モルトの元へ歩み寄った。


 「! 本当か! よくやったぞ!」


 偵察の人がモルト隊長に何かを話し終えると、後方の部隊から水筒などをもらい、休息に入った。私が彼女に「何かあったんですか?」と聞くと、「ああ!」と返した。その何かとは、


 「この先に一軒の小屋が見つかった。おそらく、例の妹の家だ」


 「! 本当ですか! やったー! これで何か聞けるかも!」


 私が吉報を聞き、両手を上に上げて【わーい!】のポーズをする。モグもモルトから聞き、うんうんと頷くのが見て取れる。


 「総員! 警辺りを警戒しつつ、小屋に向かう! いいな?」


 『はっ!』


 


 


 ──少しして開けたところに出ると、偵察通り、一軒の小屋を発見する……しかし、小屋に人の姿は見受けられなかった。そこで私達は小屋周辺を捜索することになった。


 「一応、帰って来るかもしれないから、誰かここに残った方が良いかな?」


 「じゃあ私が残るよ。万が一、襲われても私なら何とかなる」


 「オッケー。じゃあ私とモルトさん達で周辺捜索かな?」


 私が言い出したのもあるので、捜索は自分から名乗り出ることに。モルトさんと話がしたいというのもある。


 「了解です。各部隊は左右に。アイギス、デュラン、お前達が指揮をとれ。私とシエテ殿は前を。では────散!」




             ◇




 ────「……そう言えばモルトさんは何故騎士に?」


その問いにモルトが少し表情を変えて語り始めた。


 「……父は厳しい人だった。私は名の知れた貴族の娘として、幼い頃から教育を受け、規律を重んじるそんな子供となった」


 するとどこからか出したロケット(ペンダントの一つ)を手の平に置くと、カパッと開けた。シエテが覗き込むと、そこに入っていたのは一人の女性の写真だった。


 「この人は?」


 「母です。今は行方不明ですが……」


 「え……」


 「いいんです! 父も母の事を気にしてませんから」


 「いいんですか!? 何か話したい事とか──」


 「()()()()!」


 私の言葉にモルトが声を荒げて答えた。


 「ッ! 申し訳ありません。取り乱しました」


 モルトがロケットをしまい、前へ進んだ。私はどこか思い足取りの彼女の後姿を見ながら、彼女の後を追った。






 ────少しして私達は森の中腹にある小川までやって来た。ここまで来てしまうと例の小屋に戻れなくなりそうだったので、諦めて引き返そうかと思った矢先、草木をかき分ける音が聞こえ、背中合わせで警戒していると、現れたのは金色の長い髪を腰まで伸ばした女性だった。


 「あ、貴女、もしかして『アグリピナ』さん……ですか?」


 「ッ! そ、そうですが……あなた方は?」


 「【円卓の騎士団】モードレット・デュへイン。そして──」


 「同じく、シエテ・ペンドラゴンです! アグリピナさん、貴女を探していたんです。どうか、お話を伺っても?」


 「モード……レット……──ッ! え、ええ! この先にある小屋でなら」


 モルトの名前を聞いて訝しげな表情をしたアグリピナに私は既視感を覚えたが、今はそんなことを気にしていても仕方がないと、例の小屋に戻った。




              ◇




 「──どうぞ、中へ」


 『おじゃましまーす』


 他の捜索部隊を招集し、小屋の中へ。そしてアグリピナは小さな椅子にチョコンと座ると、前に座った私、モルト、モグの三人……と、後ろで立っている数人の兵士達に、温かいハーブティーが入ったカップに両手を添えて話し始めた。


 「──まず初めに真実をお伝えしなければならない事があるの」


 「それは……一体?」


 「……モルトさん……いえ、モードレットさん! 貴女の父親の名はご存知よね?」


 「無論だ。我が父の名は『アレクサンダー・デュへイン』。伯爵の称号を承ったお人だ」


 「いいえ。違うわ。貴女は本来、アレクサンダー伯爵家の子として産まれる予定ではなかったわ」


 ガタッ


 「はっ! 何を言う? 我が父を愚弄する気か?」


 「貴女の父親は他にいる!」


 「なっ!? ……何を……」


 アグリピナは一筋の涙を流すと、今にも泣きじゃくりそうな表情でモルトを見つめ、こう言った。彼女が言った名前はここにいる全員の背筋が凍り付く、あの名前だった。




 「────あなたの本当の父親は()()()()()()()()! この国の……この世界を飲み込もうとするあなた方が狙う敵の主です……!」



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