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きっと一生縁がないもの  作者: 冗長フルスロットル
第二章 恋人たちの10月
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スヴェンは三頭の馬に乗った四人をナルフィ家別邸の玄関先で見送った後で、執事に馬車の用意を頼んだ。


馬車の用意をするようにという執事の指示は、ちょうど厩にいたアレクシアの双子の兄マテオの耳に入った。彼はつい今しがた出かけた主君ラザールのために馬丁と一緒に馬の準備をし、ラザールたちが出発したことを馬丁に報告するために厩に戻っていたのだった。


そこへ御者が厩にやって来て、馬丁に馬車用の馬の仕度の協力を仰いだ。


「お嬢様の婚約者の……名前は何だったっけかな? ほれ、あのえらい顔のきれいな……」


「えーっと、あのアンテの王子さんの?」


「そうそう。ああ、もう、名前が思い出せねぇなぁ」


御者と馬丁の会話に、マテオは思わず割り込んだ。


「スヴェン王子が?」


「そうそう! スヴェン王子!」


名前を思い出した御者はすっきりしたらしく、マテオを称えるように数回手を叩いた。


「スヴェン王子がお出かけになるのか?」


「ああ、街のほうへ行きたいんだとよ」


マテオは我知らず顔をしかめた。


彼も双子の妹アレクシア、そしてラザールから、イヴェットがスヴェンを許したということを聞かされていた。一年前のナルフィ城でのスヴェンの愚行がいかにイヴェットを苦しめたかを知っている彼としては、アレクシアと同じく、イヴェットの決断を素直には応援できなかったし、スヴェンのことを簡単に信用することもできなかった。だが、イヴェット本人がそう決めた以上、マテオが口を挟める問題でもないので、彼としてはイヴェットを見守ることしかできなかった。


マテオはイヴェットの体調が優れないことをすでにアレクシアから聞いていた。イヴェットは自室で体を休めていることだろう。


そんな時にラザールたちと一緒に出かけなかったスヴェンが、これからローゲの街へ行くという。


まさか……。スヴェン王子は、またイヴェット様を傷つけるようなことをするつもりではあるまいな……。


イヴェットの体調が悪いのをこれ幸いと一人きりで出かけるなんて、街に住まわせている他の女でもいて、その女のところにでも行くつもりなのだろうか。


過去のイヴェットに対する仕打ちからスヴェンのことをこれっぽっちも信用していないマテオはそういぶかしんだ。イヴェットのことを思うとそんなことはあってほしくないが、しかしマテオは、そうに違いない、と決めつけた。


幸い特にこれといった仕事もなかったので、


「俺も行く。いいだろう?」


とマテオは御者に同行する許可を求めた。スヴェンがこれからどこに行って何をするのか、監視したかったのだ。


御者は驚きながらも、


「別に構わねぇが……」


と首を数回縦に振った。


「御者見習いということでついていく。服を貸してくれ」


マテオは彼がナルフィ騎士団の一員であることを示すコバルトグリーンの制服の上着のえり元をゆるめた。そのまま制服を馬丁に預けると、彼は御者が差し出した御者用のコートをはおった。雨や風から身を守るために縫いつけられているフードをかぶった彼は、今やナルフィの騎士ではなく御者見習いだった。


御者が二頭の馬を馬車に繋ぐ作業を手伝いつつ、マテオは額に浮いた冷や汗を拭った。


彼はイヴェットのために、自分の予感がはずれることを願った。


けれどもしこれからスヴェンが他の女と密会している場面を実際にこの目で見てしまったら、自分は一体どうすればいいのだろう。


もちろんマテオには黙っているという選択肢はない。まずはラザールに報告するだろう。


しかし、そうすることで、イヴェットを再び苦しめることになる。


ただ、スヴェンが出かけると知ってしまった以上、スヴェンを信じて黙って送り出すことはマテオにはできなかった。


マテオは御者台に御者と並んで座った。すると御者が馬を走らせた。御者はそのまま屋敷の玄関前まで馬車を移動させた。


そんなに速度は出ていないのに風のせいでフードが後ろへと引っ張られ、マテオはフードがめくれ上がらないようにそれを手で押さえつけた。


秋とはいえ気温が上がる日中の風は少しも冷たくはないはずなのに、それはマテオの心をひやりとさせた。


彼は自分の心がどうしようもなく冷えていくのを感じながら、スヴェンがやって来るのを待った。


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