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イヴェットは部屋に戻って寝巻きに着替え、寝支度を終えるとすぐにベッドに入って横になった。
目を閉じた状態でイヴェットの頭に自然に浮かぶのは、今日一日のスヴェンに翻弄された時間だった。同時にしびれるような胸の甘さと息苦しさが彼女を襲った。
胸が締めつけられて、イヴェットはとても眠るどころではなかった。
寝返りを打ちながら、彼女はハティ教の聖書の一説を思い浮かべた。
『神の目は欺けない。自分自身をごまかすことはできない。自ら悔い、罪を改めよ。さすれば神は汝を許すだろう』
今日自分が犯した罪をこの世で知っているのはイヴェットとスヴェンだけだ。
けれど、偉大な神には全て筒抜けだろう、神の目は欺けないのだから。
異性と二人きりになってはいけないという禁忌を犯し、兄に訊かれた時に嘘をついてしまった自分は、神の目にはどう映るのだろう。肉体を失い魂となった母がもし今の自分を見たら、一体何を思うだろう。
自分の今の行動がよくないものだと分かっているのに、イヴェットはスヴェンがもたらしてくれた恋の甘さにどうしても抗えなかった。
今日の昼間のように彼と二人きりになるのが罪であるのなら、彼に抱きしめられたりくちづけられたりすることが罪になるのならば、彼と二人でどこまでも堕ちたいとさえ彼女は思ってしまった。
こんなことを考える自分はまさに罪人に他ならないのかもしれない。
それでも自分の正直な気持ちを偽ることもごまかすこともできなくて、イヴェットは罪の意識から目をそらし、スヴェンに与えられた甘やかな感覚を思い出して背徳的な幸せに浸った。