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きっと一生縁がないもの  作者: 冗長フルスロットル
第二章 恋人たちの10月
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自分の部屋に入ったイヴェットは、まず服を脱ごうとした。


女官アレクシアがいつものように脱衣を手伝おうとイヴェットの背後に回りかけたのだが、彼女は


「一人で大丈夫だから、お湯の準備をお願いできるかしら? 早くお風呂に入りたくて……」


とアレクシアに湯の準備を優先するよう頼んだ。


自分一人で背中のボタンをはずすのは大変だが、一人でできないわけではないし、何よりアレクシアに一度コルセットのひもをほどいた痕跡を見破られることを彼女は恐れたのだ。もしアレクシアに知られてしまったら、嘘が下手な自分は絶対にうまく説明することもごまかすこともできないとイヴェットは思った。


アレクシアはイヴェットの言葉に従い、浴室へと向かった。


浴槽に湯が張られたという報告をアレクシアから受けると、イヴェットは一人になりたいと言ってアレクシアを下がらせた。


さっそく浴槽に身を沈めたイヴェットは、手足を伸ばして身も心もほぐしつつ、今日スヴェンと過ごした時間を振り返った。


彼にたくさんキスをされたことを思い出して、別に誰かに見られているわけでもないのに、思わず赤面してしまう。


スヴェンとの二人きりの時間はとても幸せだった。イヴェットは慎みあるティティスの貴族令嬢として、今まで周りの人間にさんざん男性と二人きりになってはいけないと教育されてきた。今日スヴェンと宿の部屋で二人きりなるという禁忌を犯してしまったわけだが、懺悔の念などこれっぽっちも湧いてこなかった。それが自分の素直な気持ちだった。もし時間を戻すことができたとしても、きっと自分は再度彼と過ごす選択をしただろう。


それがイヴェットをよりいっそう戸惑わせる。


罪を犯したことに対して罪悪感はあるものの、自分の行動を悔いていないなんて、自分は神の教えに背いたことになるのだろうか。


天は、神は、今の自分をどう裁くのだろう。


イヴェットは亡くなった母親のことを連想した。


天国にいる母に自分はどう見えるのだろう。


お母様もお父様と今日の私のような経験をなさったのかしら?


それとも、結婚するまでお父様と二人きりで会うなんてことはなさらなかったの?


母に直接訊くことができたらいいのだが、もちろんそれはかなわない。


父に訊く勇気もないから、結局イヴェットは悶々とするしかなかった。


誰かに胸の内を聞いてもらえたらいいのだが、例えば心を許している妹たちやアリーヌに対しても恥ずかしさが邪魔をして素直に自分の気持ちを打ち明けられないだろう。それに、勇気を出して彼女たちに自分の本音を吐露したとしても、その結果、激しく非難されたり軽蔑されたりするかもしれない。それはやはり避けたい。


胸をきゅうきゅうと締めつけるこの甘い痛みに耐えるのが自分に与えられた罪の清算方法なのかもしれない。


イヴェットは入浴しているせいでより速さを増した心臓のあたりを押さえながら、何度もふうっと息を吐いて湧き上がる切なさを逃がした。


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