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バルコニーでイヴェットが外の景色に目を奪われている間、スヴェンは次々に食べ物が部屋に運び込まれるさまを見守っていた。
宿の従業員たちが全ての品を運び終えた後で、最初にスヴェンをこの部屋に案内した若い男性が
「何かありましたら遠慮なくお呼び下さい」
と言って部屋から下がろうとした。
スヴェンは彼に全員ぶんの心づけを渡し、ドアを閉めて鍵をかけた。
それから彼はバルコニーへと向かい、熱心にあちこちに目をやっているイヴェットに
「いい景色だろう?」
と話しかけた。
イヴェットはスヴェンに顔を向け、
「はい。ローゲの街って、上から見るとこんなふうに見えるのですね」
と嬉しそうに微笑んだ。
スヴェンはイヴェットの隣に立ち、自分より身長の低いイヴェットを見下ろした。
彼女は強めの風のせいで揺れる帽子のつばを手で押さえながら、熱心にローゲの街並みを見つめていた。
そんなイヴェットに、スヴェンは二つの不満を抱いた。
一つは、彼女が今夢中なのは自分ではなく景色だということだ。
そしてもう一つは、彼女の両手が手袋に包まれていることだった。外出するということで、常日頃から素肌をなるべくさらさないように努めているイヴェットは、今日も手袋をしていたのだ。
彼女らしい奥ゆかしさだと思うし、自分以外の人間がいる場ではそれでもいいのだが、自分の他には誰もいない今のこの状況で彼女が手袋をはめていることがスヴェンは気に入らなかった。手袋が自分と彼女の心の距離の象徴のように思われたからだ。ようやく二人きりになれた今、スヴェンは手袋に邪魔されることなく彼女の素肌を見たいと思った。
スヴェンは帽子に触れている彼女の手をつかまえた。景色を見ることに熱中していたイヴェットは突然のことに息を呑んだが、スヴェンは彼女の反応を気にせず、小指から親指へと一本ずつ、そして最後に強めに引っ張って、彼女の手と手袋を引き離した。
彼女のもう片方の手袋も同じようにして取りのぞくと、現れた彼女の手の甲やつめを見てスヴェンは満足した。自分と彼女を隔てるものはもう何もないような気さえした。
スヴェンは彼女から奪い取った手袋を左手で持ち、右手を伸ばして彼女の頬に触れ、そのまま手をイヴェットの顔の輪郭に沿ってすべらせた。
彼はイヴェットのあごの下で結われていた帽子のリボンをゆっくりと引っ張った。しゅるりと音を立ててリボンの結び目はほどけた。
イヴェットは帽子が風で飛んでいかないよう、手を自らの頭部にやった。
スヴェンは身を屈め、帽子を押さえているイヴェットの手に自分の右手を重ねると同時に彼女のくちびるを塞いだ。くちづけながら彼女の手ごと帽子を引き寄せ、最後には彼女から帽子をはぎ取った。
今まで帽子によって押さえつけられていたイヴェットの髪が自由になり、風に揺られてふわりと広がる。
スヴェンは右手に持っていた帽子を左手に持ち替え、再び空いた右手で彼女の頭を撫でてから、
「食事にしよう」
とイヴェットを部屋の中へと導いた。




