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スヴェンが差し出してくれた腕に自分の手を添えているから転ぶことはなかったが、イヴェットの足は時折ふらついた。スヴェンと二人きりになると、彼女はこうして夢心地になってしまうのだ。
スヴェンはイヴェットに合わせてゆっくりと歩いたのだが、イヴェットのほうはそんな彼の心遣いに気づけないほどふわふわしてしまっていた。
スヴェンは何も言わなかった。イヴェットも用もないのに自分からスヴェンに話しかける勇気もなく、庭には二人の靴音だけが響いた。
庭園の小道を半分ほど歩くと、スヴェンは突然足を止め、イヴェットに向き直った。
「イヴェット、明日、出かけないか? ニコラスとシルヴィ殿も一緒に、四人で」
スヴェンはイヴェットが緊張しないよう、『四人で』という部分を強調した。
妹も一緒だったらイヴェットとしても気が楽だ。自分がスヴェンとあまりうまく話せなかったとしても、シルヴィとニコラスが話してくれるだろうから、気まずい思いをすることもないだろう。
自分を含めた四人で出かけることを想像しながら、イヴェットは
「はい」
とうなずいた。
「あっ、でも……」
「何だ?」
「お兄様とアリーヌお義姉様は……」
兄とアリーヌをここに残して自分たちだけ出かけるなんて、イヴェットは何だか悪い気がした。
「ラザールは明日医者との約束があるだろう? それに、アリーヌ大公女とラザールだって二人だけになる時間が必要だろう」
「そうですね」
イヴェットは内心慌てた。スヴェンが指摘したとおり、兄とアリーヌは二人だけの時間を持ちたいと思っていたかもしれないのに、イヴェットはそこまで気が回らなかった。考えてみると、昨日アリーヌがこの屋敷に到着して以来、彼女と兄はまだ二人きりになっていない。
イヴェットは二人に対して申し訳なく思い、同時に自分たちが出かけることでラザールとアリーヌを二人きりにするというスヴェンの提案をいい考えだと思った。
「どこに行くのですか?」
「それはまだ秘密ということにしておこう」
スヴェンは目を細めてわずかにくちびるの両端を持ち上げ、立てた人差し指をくちびるに軽く押し当てた。
そんな彼のしぐさは何だか色っぽくて、イヴェットの胸がどきんと音を立てた。本当はもっと見ていたいのに彼を直視できなくて、イヴェットは慌ててうつむいた。
「………………………」
イヴェットは二つのことに困っていた。一つはスヴェンにどきどきさせられてしまうことだ。そしてもう一つは、行き先が分からないと服や髪形を決めることができないということだった。
貴族社会においては、行く場所や機会に合わせた格好をするというのが大前提だ。そうしないと嘲笑されたり馬鹿にされたりする。かしこまった機会に簡素すぎる装いはふさわしくないし、逆に華美すぎる衣装で格式ばっていない場に臨むこともまた然りである。
イヴェットの顔に困惑が浮かんでいるのに気づいたスヴェンは
「どうした?」
と尋ねた。
イヴェットは勇気を出してスヴェンを見上げた。
「いえ、どんな格好をすればいいのか分からなくて……」
スヴェンはあごに手を当て、一度視線を宙に向けてから、
「……かしこまりすぎる必要はないが、それなりの格好のほうがいい」
と答えた。
「分かりました」
一応最低限の情報を得たイヴェットはほっと胸を撫で下ろした。
どこに行くのかしら……?
何を着ようかしら?
シルヴィとニコラスも一緒ではあるが、スヴェンと出かけるなんてまるで夢みたいで、彼女の心が弾んだ。
もしこれが夢なら、どうか明日が終わるまで覚めないで……。
イヴェットは我知らず震える胸の前で両手を組み、心の中でそう祈った。




