3話
「お婆ちゃんそれな~に?」
「ん?」
「いただきますって~」
あれ、いただきますを知らない?
そういえば日本だけの風習だっけ。
日本で作られたゲームなのに知らないっていうのも変な話だね。
「あー、あたしが昔行ったことがある国の食事を食べる前の挨拶じゃ。食材や作ってくれた人への感謝の気持ちを表す言葉でもあるんじゃったかな」
「へ~、そうなんだ~。ボクもやる。お姉ちゃんも~!」
「ふふ、そうだね」
2人は胸の前で手を合わせる。
「「いただきます」」
あー、なんか微笑ましいね。
テーブルを見ると、パンにベーコンエッグにスープと一般的な朝食って感じのメニュー。
まずはスープを一口。
「うっま!」
「えへへ、良かったです。今日のは自信作なんですよ」
「ほんとだ! お姉ちゃんすっごく美味しいよ~」
照れた感じでモネが微笑んでいる。
ラパンも飛び跳ねるんじゃないかって感じだ。
それにしても本当に美味しい。
すごく透き通った黄金色のスープで一口飲んだだけなのに、身体中で幾重もの旨味が駆け巡る感じがする。
流石に城を纏いながら巨大化したり、服が脱げて半裸になったりすることはない。
パンもふわふわのモチモチだ。
そして噛めば噛むほど甘味が広がっていく。
スープに付けて食べるとより一層美味しい。
このベーコンエッグもスゴイ。
ベーコンはしっかりカリカリなのに、卵の黄身は半熟でプルンと立っている。
僕が焼くと平たい感じになるんだけどなぁ。
そういえば最近料理を全くしていない。
一人暮らしを始めた頃は頑張って自炊もしてたけど、徐々にやらなくなった。
洗い物もしなくていいしコンビニ弁当とかで済ませちゃう方が楽なんだよね。
スープが本当に美味しくておかわりしたけど、チハルには多すぎたのかちょっと苦しい。
「ごちそうさま」
「お粗末様です」
「モネはいつでも嫁にいける」
食後のお茶を啜りながら思ったことをしみじみ言う。
「ちょっ、お母さん何言ってるの!」
師匠じゃなくお母さん呼びになるほど慌てだしている。
「慌ててどうしたんじゃ? 気になる人でもいるのかのぉ?」
「そ、そんな人いません!」
「そうだよお婆ちゃん何言ってるの!?」
ラパンも必死な感じで立ち上がって抗議しだした。
おかわり3杯もして「食べ過ぎた~」って椅子から立ち上がれないでいたのにね。
「イヒヒ、好きな人にこのご飯食べさせたらイチコロじゃよ?」
「す、好きな人なんていません!」
真っ赤になってるカワイイ。
「おやおや~?」
「揶揄わないで下さい!」
「すでにあたしゃイチコロじゃよ? あたしの嫁にしたいくらいだよ」
「お婆ちゃん駄目だよ! お姉ちゃんはボクのお嫁さんになるんだから!」
「2人して揶揄って! もう知らない!」
モネは頬を膨らませながら食器を持って流し場へ行ってしまった。
「お姉ちゃん!?」
ラパンも流し場へモネを追いかけて行っちゃった。
2人が行ってしまったので部屋に戻りベットに寝転ぶ。
「あー、楽しかった」
ババアになったのは不幸だけど、意外と3人でこういう毎日を過ごすのは悪くはないのかも?
モネの料理は本当に美味しかったし、マジで嫁にしたいよ。
ゲームを1度ノーマンエンド以上でクリアーすると、次からはチハルも仲間にできて一緒に冒険できるようになるんだから、チハルも攻略キャラでもよかったのに!
作成会社も気が利かないね。
可愛らしい少女とババアの夜の営みを想像してみた。
……ごめんなさい、僕が間違ってました。
チハルはモネの錬金術の師匠なだけあって最強キャラの1人だ。
HPは低いんだけど攻撃力がずば抜けていて、仲間にできると冒険がかなり楽になるんだよね。
錬金術だけじゃなくババアキャラなのに格闘系のキャラでもあって、燃費の良い発勁と言う技が終盤の防御力の高い敵に刺さりまくる。
道中は発勁で倒し、ボスは錬金術で無双できる壊れキャラ。
唯一の弱点の低いHPも若返りの薬を使えばHPを補えることも出来た。
あれ……若返りの……薬?
「それだ!!!」
僕は勢いよくベットから起き上がる。
どうして思い出せないでいたんだろう。
いつ死ぬかわからないババアより、まずは若くなって行動範囲を広げれた方がいいよね。
そして何よりババアより若い見た目の方がマシだよ!
若返りの薬を作るにはいろいろ材料が必要で、特に『時の秘宝』『竜の魂』『世界樹の雫』の3つが大変ではある。
『時の秘宝』
時間を操れると言われている宝石。
存在は知られているが何処にあるかは誰も知らない伝説の秘宝。
『竜の魂』
数千年は生きた巨大な竜の魔石のことをそう呼ぶ。
現在その魔石は3つしかなく、どれも王国、帝国、共和国の3つの国が1つずつ保有していている。
『世界樹の雫』
エルフの隠れ里にある世界樹。
世界樹から滴り落ちる朝露を手に入れ、エルフの巫女が祈りを捧げると世界樹の雫になる。
時の秘宝と龍の魂は結構強いボスを討伐する必要があって、世界樹の雫はエルフ族のごたごたを解決しないといけない。
どれも入手はかなり困難だけど、何も分からず行動できないでいるより、目標があった方が絶対いいと思う。
僕は気合を入れる為に自分の頬を両手でパーンと叩いた。
「痛い……」
強く叩きすぎようだ。