2話
四つん這いの状態だったババアが突如起き上がり、祈りだす光景は異様だったのかラパンは「お姉ちゃ~ん、お婆ちゃんが変になった!」と叫びながら部屋を出ていった。
変とは失礼な!
それにお姉ちゃんってことはやっぱそうなのか?
僕はお姉ちゃんが誰なのか予測を付けていると、バタバタと慌てた感じな足音が近づいてくる。
「師匠大丈夫ですか!」
あー、やっぱり……。
心配する声と共に部屋に入ってきた娘は予想通りの人だった。
薄紫色の髪を後ろでゆるく三つ編みにして、紫色の瞳にちょっとタレ目で優しそうな顔立ち。
まだ幼さは残っているけど将来絶対美人になるだろうなって感じの娘。
料理でもしていたのかエプロン姿だ。
そう、この娘は『アネモネの錬金術士』の主人公アネモネだよ。
この世界は本当にゲームの世界で間違いないのかもしれない。
なんでいきなりゲームの世界に来てしまったのか全然分からないけど、僕は今チハルになってしまっている。
元の世界に戻れるかも分からないし、ずっとこの世界で生きなきゃいけないかもしれない。
変な行動を取るのはマズイと感じ、出来る限りチハルになりきろうと思った。
「師匠本当に大丈夫ですか? どこか身体の具合が悪かったりします?」
さっきの問いかけに反応しないでいたせいでアネモネが再度問いかけてきた。
えーっと確かチハルの口調は……。
「な、なんでもない。ちょっと夢見が悪かっただけじゃ」
「そうなんですか?」
「あー、大丈夫じゃ」
僕の返答で安心したのかアネモネは、ほっと胸を撫で下ろしている。
なんとかごまかせそうかな?
っというか「~じゃ」とかのお年寄り口調って意外と難しいぞ。
「ラパンもすまんかったの」
「ん~。そうなの~?」
ラパンは怪しそうな感じでこちらを見ていたけど「グーッ」っとお腹を盛大に鳴らした。
「あはは、お姉ちゃん朝ご飯まだ~?」
お腹を抑えながら恥ずかしいのか顔を赤くしてアネモネに朝食の確認をしている。
「もうすぐ出来るよ。お皿とか出してくれる?」
「うん! わかった~」
そういうとラパンはぴょーんと部屋を飛び出していった。
「師匠はどうしますか?」
「ん~、そうじゃな。着替えてから行くかの」
「分かりました。先行ってますね」
アネモネも部屋を出ていった。
パタパタと足音が遠ざかる。
「ふ~~~~」
長いため息をして、僕は近くにあったベットに突っ伏した。
「本当にこれからどうしよう」
チハルになりきると決めたけど、今後何をどうすればいいか全く分からない。
小説とかだと神様とかが説明とかしてくれたりするけど、そういうのもないと動きようがないよ。
とりあえずはボロが出ないようにこのゲームのことを思い出す。
『アネモネの錬金術士』は『◯◯の錬金術士』のシリーズ物。
◯◯の部分にその時の主人公の名前が付く。
今回のアネモネは5作目で1作目が発売されてから10周年目でもある。
主人公が錬金工房を開きながら、恋をし冒険し、様々な困難を乗り越えて成長していくゲーム。
複数のヒーローやヒロインがいて、結ばれるキャラによって複数のエンディングがあるタイプなのでかなりやりごたえがあり、スチルや図鑑収集などやりこみ要素も充実している。
1作目が発売されてから僕はこのゲームにハマっていて、10周年という節目に出た作品だったから、かなり熱を入れてプレイしていた。
彼女に振られるほど熱を入れてたからね!
……うん、それは置いといて。
アネモネ――15歳人族。
このゲームの主人公で錬金術士見習い。
チハルは「モネ」と呼んでいた。
チハルにとってモネは弟子であり、娘でもある。
娘といっても本当の娘ではなくモネは捨て子だった。
後継者がいなかったチハルはモネを引き取り弟子として育てるが、娘のように可愛がってもいる。
モネ本人もチハルのことは本当の親のように慕っていた。
ラパン――13歳兎人族。
攻略キャラの1人で小柄な体型に似合わず大剣を振り回す剣士。
ラパンが幼少の頃、魔物に襲われているところをチハルに助けられる。
この時にラパンの両親は亡くなってしまったのでチハルが親代わりになった。
見た目の可愛らしさから、チハルが冗談で女物の服を着せていたら本人も気に入ってしまい普段から女装するようになってしまう。
女装はしているけど、恋愛対象は女性。
というかアネモネ一筋である。
普段から好意は示しているけど、モネには一切通じていない。
改めて考えるとラパンのキャラって濃いなぁ。
きゅるるる。
そう思っていると僕のお腹も鳴った。
2人を待たせているし、そろそろいかないとマズイか。
僕はベットから起き上がりチェストをいくつか開けて、ゲーム内でチハルが着ていた黒いローブを探し出し着替る。
ボサボサだった髪を手櫛で軽く整えてから部屋を出た。
「えーっと、確かキッチンはこの奥だっけかな」
廊下にはいくつもドアがあったけど、ゲームの知識を頼りにキッチンへ続くであろうドアを開けると、いい匂いが鼻をくすぐる。
またお腹かが鳴っちゃいそうだ。
テーブルには食事がすでに用意されていて2人は席に着いている。
「お婆ちゃん遅い~」
「すまんすまん」
「さ、食べましょ」
僕は空いている席に座り、胸の前で手を合わせ。
「いただきます」
さぁ、食べるぞ!
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