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やきう文化の伝道師   作者: まめ
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プロローグ

ある夏のけだるような暑さが広がる市営野球場の中で俺は野球の試合をしていた。野球といっても草野球、要は遊びである。試合の結果は3対7で敗北。今はそこから引き上げ、球場近くの居酒屋でチームのメンバー数人と酒を飲んでいるところだ。


「今日の試合惜しかったな。」

キャッチャーの大地が乾杯が終わると共に話し始めた。

「そんなことないだろう。守備も打撃も相手の方が上だったよ。」

セカンドの康太が厳しく突っ込む。

「相手のチーム、高校野球経験者5人もいたらしいからね。」

笑顔を見せながらセンターの翔也が答える。

「何にせよ、チームとして楽しく野球できたからよかったんじゃないかな。」

ピッチャーの俺、泉優馬が話した。


今日の飲み会はこの四人。最近は飲み会といっても来たがらない世代なので集まりは大体この程度だ。俺たちは一時間程野球の話をし終えると自分たちの近況の話題になった。

「ところで優馬大学辞めたんだって?」

大地が切り出す。

「ああ、そうだよ。甘えなのかもしれないけど大学って場所は俺には合わないよ。」

「就職するのか?」

「しなきゃいけないとは思うけどやりたいこともなければ選択肢も限られてるし、しばらくはフリーターでもやるかな。」

「そうか・・・」

言葉を発したのは大地だが、周りの二人も呆れたような顔を浮かべた。

「どうせやるなら野球の仕事すればいいじゃん。優馬野球詳しいんだし。」

翔也が提案してくる。

「野球の仕事っていってもな・・・そうゆうのは本当に経験のある人とかじゃないとできないんじゃないかな。とにかくまた決まったらみんなには報告するから今日はこの辺にしとこうよ。」

そう言って俺はこの話題を切り上げた。


「12850円です。」

飲み会も終わり、店員さんを呼んで会計をしてもらう。そのまま駅へ向かい自宅の方向が逆の翔也と康太と別れた。大地は方向が同じなので同じ電車に乗った。


「就職の話だけどさ、本当に何かやりたいことを見つけた方がいいんじゃないかな。」

世話焼きの大地はまたその話題をふってきた。

「じゃあ野球をまだ知らない国に行って野球の楽しさでも伝えて来ようかな。NGO的な所でそうゆうのあるだろ。」

酒も入っているので俺は思いつきでそんなことを言ってみる。

「でも英語とか優馬しゃべれんのか?」

大地は心配そうな顔をする。

「しゃべれなくてもなんとかなるだろ。アメリカ人と日本人が同じ場所で行える競技なんだぞ。」

俺は笑顔で返した。

「異国の地で生活とか優馬に耐えられると思わないけどな。」

大地は酒を飲んでいるのに冷静な顔で答えたが

「大丈夫、大丈夫どんな所だって行って野球の素晴らしさを伝えてやるさ。」

俺は力強く答えた。

「それだけの熱意があれば仕事も見つかるだろう。とにかく草野球一緒に続けていくためにも頑張れよ。」大地は半ば呆れた表情を見せたが、そんな言葉をかけてきた。

「じゃあ、俺最寄り着いたから降りるわ。酔っ払って寝過ごすなよ。」

俺の肩を叩いて大地は言った。

「先発したピッチャーの肩を叩くキャッチャーがいるかねえ。わかったよ、じゃあまたな。」

そう言って大地が降りるのを見送った。

就職しなければいけないことぐらい自分が一番わかっている。21歳の夏に大学を中退し、夢も目標もないプーを心配してくれている大地はありがたい友人だが、今の俺にとっては煩わしい言葉にしか聞こえなかった。

「野球の仕事があればなあ・・・」

酔っているせいか、小声でそんなことを呟いていた。


「適性のありそうな男だな。」

「そうね。何よりあれだけの言葉を放ったんだからやってもらわないと。」大地の隣の隣に座っていた男女がそう話していたが、俺の耳には届かなかった。

大地の忠告も虚しく俺は眠っていた。これが全ての始まりになるとも知らずに。

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