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魔法少女は悪の芽をぶった斬る ~世界を守護する箱庭の庭師~

作者: 日向 葵

 今日は朝っぱらから異常だった。


 いつものように目を覚まし、学校に行く準備をして、朝食を食べる。そして学校に行くために家を出た。

 そこまでは良かったんだけど、出た先に変な生き物と聖剣のように刺さっている煌びやかな切り込み鋏があった。

 なんだこれ……と眺めていると、謎の生物が喋りだす。


「パ、パヤ~……、なにか、なにか食べ物を……」


「えっと、お昼に食べようとしていた、埼玉県のご当地グルメ、30品目バランス弁当ならあるけど……食べる?」


「た、食べるパヤ~~~~」


 変な生き物は私があげた弁当を急いで食べ始める。相当飢えていたようで、涙をながしながら「うまい、うまい」とつぶやいていた。

 私は、あげた弁当を残念に思いつつ、食べ終わるのを待つことにした。

 マスコットは食べ終わるとにこやかな笑顔を見せ、私に向かって話し始める。


「僕の名前はパヤタン。魔法の国『犯罪奴隷鬼畜家畜ニコニコマスコットランド』から来たマスコットさ」


「何もニコニコする要素がないんだけど……」


「パヤ~、そんな事ないパヤ~。僕がいたところは、どんなに殴られても、ぶたれても、ムチ打ちされても、火刑にあっても、水責めにあっても、体を裂かれても…………、どんな状況でもニコニコ笑う、楽しいマスコットがたくさんいるパヤ~。ちなみにみんな前科持ち!」


「ロクでもない場所ね。私が滅ぼしてやりたいわ」


「そんなことより、心優しく、正義感のある君に頼みがあるパヤ」


「私、そんなところ見せた覚えがないんだけど」


「何言っているパヤ。僕にご飯をくれたパヤ!」


「ちょろいわね。いったい何をさせようと……」


「この聖なる刀『ブッタキリンダー』の持ち主となって、この箱庭の世界、地球に発芽する悪の芽から善良な市民を守って欲しいパヤ!」


「え、これって切り込み鋏じゃ……」


「刀パヤ。刀パヤ。刀パヤ。刀、刀、刀、刀、刀ーー」


 壊れた人形のように「刀、刀」とつぶやき続けるパヤタン。そんな様子に私は恐怖を覚える。とりあえず追っ払おうと切り込み鋏を手に取る。


「あ、やっぱり持てたパヤ。これで君は世界を守護する庭師『魔法少女殺戮ブッタキリン』となって悪の芽を摘む仕事をしてもらうパヤ」


「犯罪臭しかしてこないのだが……この切り込み鋏から、殺れ、殺れ……と聞こえるんで、やるしかない気がする。不本意だけど、任せてもらうわ」


「ところで……お前は誰パヤ?」


 私はとりあえず、このクソッタレなマスコットを切り裂くことにした。



***



「私は霧桐切子。高校一年生。将来の夢はお父さんのようにみんなの生活を守る警察官になることよ」


「そうだったパヤか。でも、いきなり切り刻むとは、なかなかの逸材だパヤ。もしかして、前科持ち?」


「そんなわけないでしょう。この切り込み鋏で悪の芽を摘むんでしょ? それを実行したまでよ。この切り込み鋏で感じ取れるの。どす黒い何かをあなたから……」


「まぁ、僕は家族殺しの前科があるパヤ。今回は刑罰として、この世界で悪い奴らを切り刻まなければ、僕は元の世界に帰ることができないパヤ。せっかく、妹とのラブラブな二人暮らしが出来ると思ったのにこのザマとは……人生うまくいかないぜ」


「こいつ……どうやって埋めてやろうかしら」


「そんなことを言っていると、立派な警察官になれないパヤ。早速悪の芽を探しに行くパヤ!」


「え、私はこれから学校があるから」


 そう言って私は切り込み鋏で胸元を刺す。すると、粒子となって消えていった。

 なんか知らないけど、これの使い方が直接頭の中に入ってくる。どうやらこれで自分の胸元を刺すと、体の中にしまえるらしい。

 なんて便利な機能なんだ、と思う。


 私はいつも乗っているバスの停留所で待っていた。

 一緒に並んでいるのは、杖をついて待っているおばあちゃんと、いかにも頑固そうなおじさん。

 おじさんから黒いモヤモヤが漂っている気がするけど……気のせいよね。


「パヤヤ……あれには悪の芽が芽吹く予兆があるパヤ。ここはざっくりと……」


「しません。てか、隠れてなさいよ。ぬいぐるみのようなあなたが話したりしているとやばいでしょう」


「大丈夫パヤ。僕は関係ない人に見えないっていうご都合主義な設定があるパヤ。それよりも僕に話しかけるって、一人でしゃべっている状態になるから、傍から見たら精神異常者にしか見えないパヤ」


「そ、それを早く言いなさい!」


 私は急いで周りを見たが、どうやら私の言葉は聞こえていなかったようだ。

 ふぅ、よかった。


 待っていること数分。バスが到着する。私はおばあちゃんに声をかけて、支えてあげながら一番最後に乗る。すると、優先席の近くで立っていた女子学生が気がついてくれて、おばあちゃんを優先席に座らせてあげた。

 その隣には、女子学生と同い年ぐらいの男の子が座っている。


 優先席は高齢者や妊婦、障害者といった、立って乗車するのに辛い人が優先的に座るところ。最近では、そんなことは関係ないとばかりに座る人がいるけど、見たところ真面目そうな学生だったので、私は気にしないことにした。きっと何かしらの事情があるんでしょう。そうでなければ、真面目そうな学生がそんなことをするはずがない。

 道徳教育だってしっかりやっている日本なんだからね。


 私は女子学生の隣、おばあちゃんの目の前あたりに立つ。すると、おばあちゃんは「さっきはありがとね」と言ってくれた。こういうことがあると嬉しい気持ちになる。

 だけど、それをぶち壊すような出来事が起こった。


「君! そこは優先席じゃないか! 若者はおとなしく立ってろ!」


 黒いモヤが少し強く出ているおじさんが、優先席に座っている男子学生を怒鳴りつける。

 怒り狂ったように罵って、手をあげようとした。それを守るかのように女子学生が前に出る。


 バチンっと響く音。他の乗客は唖然とした。注意するだけならまだしも、手をあげるとは思っていなかったからだ。


 こう言ったトラブルが起きると、運転手が仲裁に入るのだが、残念ながらバスは出発してしまい、それどころではない。こういう場合は、周りの人がどうにかしなければならない。


 男子学生を守った女子学生を睨みつけ、再び手をあげようとするおじさん。

 私は耐えかねず、女子学生を守るように、おじさんの腕を掴む。

 ギロリと睨みつけるおじさんに私はこう言ってやった。


「いきなり暴力はないでしょう。それに、見た目だけで判断するのは間違っている。こんな真面目そうな学生が何の事情も無しに優先席に座るはずがないじゃない」


「はん、人は見かけだけじゃわからないんだよ。だからこうして言っているんじゃないか。なのにこいつらは何も言わない。これは悪いと自覚しながらやっていることじゃないのか!

 こういうのを注意するのが大人の役目なんだよ」


 そう言って、おじさんは男子学生の足を蹴っ飛ばした。

 そのせいで転がっていく足。それを見た他の乗客は唖然とする。男子学生は義足だったのだ。転がっていった義足を女子学生が慌てた様子で拾いに行く。

 普通なら勘違いで怒鳴ってしまったので、非を認め、謝るはずだ。

 だけどおじさんさんがとった行動は全く別のものだった。


「っち、障害者か。だったらそういう顔をしろ。どこかにわかりやすく印をつけろ。紛らわしいんだよ」


「ーーっ。あなた、なんてこというの!」


「あぁ、なにか。俺が悪いっていうのか。我が物顔で座っていたら、誰だって勘違いさせちまう。紛らわしいことをしているお前らがわるいに決まっているだろう!」


 そう怒鳴り散らすおじさん。揺らいでいた黒いモヤが一気に溢れ出す。

 おじさんは周りの白い目が全く気になっていない様子で、「俺は悪くない。あいつらがわるい」と言い続ける。そして……再び暴力を振るおうとした。


 危険を察知した他の乗客がおじさんを止めてくれようとする。だけどそれだけじゃ止まらない。さっき私が腕を掴んだ時に止まってくれたのは、私が触ったことで、おじさん自身が止まってくれたからのようだ。


 おじさんがだんだんと黒いモヤに侵食されて、化物に変質していく。自分の言葉が全て正しいと思い込み、それを他人に押し付ける、害悪に成り果てた。

 醜いその姿は、物語に出てくるオークにしか見えない。だけどパニックにならず、おじさんを止めようとしている人たちがいる。この光景は、『ブッタキリンダー』を持つ私にしか見えないらしい。


「ささ、あれが悪の芽だパヤ。あれを切り裂くのが僕と切子の仕事だパヤ。さっさと惨殺するパヤ!」


「あんた、本当にマスコット? まぁどうでもいいけど。あのおじさんを止められるなら、悪魔にでも魂を売ってやる!」


「僕は悪魔じゃなくてマスコットだパヤ~」


 残念そうな表情をするパヤタンを無視して、私は『ブッタキリンダー』を呼び寄せる。手元に光の粒子が集まりだし、それが次第に刀の形になっていく。


「あれ……切り込み鋏じゃない」


「当然だパヤ。それは悪の芽を摘む聖剣だパヤ。そんな庭を手入れする道具と一緒にしないで欲しいパヤ!」


「そんなことはどうでも言い。私はこれで何をすればいいの?」


「カッコいい決め台詞を言いながらぶった斬ればいいパヤ」


「犯罪臭しかしないけど、やってやるわ!」


 私は刀になった『ブッタキリンダー』を構える。

 私に気がついたおじさんや他の乗客たちが、びっくりして視線を向ける。

 危ない人を見る視線がちょっと辛いけど、今できることを私はやるんだ!


「き、貴様。そんなものを構えて何をするつもりだ!」


「あんたをぶった斬るんですよ」


「な、何……!」


「自分に非があったことを認めず、意見を押し通そうとするあなたのような悪の芽を……『魔法少女殺戮ブッタキリン』がぶった斬ります!」


「「「「「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁ」」」」」


 周りの乗客たちが唖然とする中、おじさんだけが慌てふためく。私が持っている刀を警戒して、逃げようとした。

 だけど、ここは走っているバスの中。どこにも逃げ場はない。


「でぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「ぐわぁぁぁぁぁああぁぁああぁあぁぁ」


 私は『ブッタキリンダー』振り抜く。刀はおじさんの体を通り抜け、心臓付近に巣食っている黒いモヤを切り裂いた。

 すると、オークのような姿になっていたおじさんの姿が人間の姿に戻り……さっきとはまるで違う、穏やかそうな感じになる。


「お見事パヤ。これでおじさんに芽吹いた悪の芽を摘むことができたパヤ。でも、これだと切子が犯罪者になっちゃうから記憶改竄をしておくパヤ! そ~れ」


 バスの中がパヤタンの放った光に包まれる。乗客全員の頭の中から何かが抜け出るように天に登っていった。

 あれって魂じゃないよね……っていう不安があるけど、光が落ち着いて来ても、乗客のみんなは普通だったから大丈夫かもしれない。


 その後、おじさんは男子学生に謝って、その場は落ち着いた。

 どうやら、間違って叱ってしまい、それに気がついたおじさんは自分の非を認めくれたみたいだ。

 誰にだって巣食う悪の心。それを切り裂くのが『ブッタキリンダー』を手にした私の使命なんだと、ちょっぴり実感できた。


 一応、私が揉め事の仲裁にはいったと記憶改竄されたみたいなので「ありがとう」と二人の学生から、「すまなかった」とおじさんから言葉をいただいた。


 パヤタンが言うには、悪の芽は人の心の数だけ発芽するという。ようするに、私の仕事はまだまだ終わらないらしい。


 私は、感謝の言葉を素直に受け取りながらその場を後にした。

多分この作品からは感じられないでしょうが、暴力や私的制裁を助長する意図はありませんと言っておきます。

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